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続・魔法にかけられた夜道 ※R18

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 御伽話のお姫様は、王子様のキスで目覚める。
 めでたし、めでたし。
 その先の物語は続かない。
 これでお終い。
 だからヒルダは、物語の続きを知らない。

「あ、あの……ルパート様?」

 声を上擦らせた呼び名に、ルパートは鬱陶しそうに目線を向けた。
 唇を堪能していたはずなのに、いつしか顎先、喉仏、鎖骨へと熱点が滑り落ちていく。いよいよ胸元まで辿り着くか。その段になって、ようやくヒルダは制止を絞り出した。
「あ、あの。何をしようと?」
「何とは?」
「あ、あの。これでお終いでは?」
「何を言ってるんだ?」
 逆に聞き返されてしまった。
 言葉の端々に、侮蔑と失望を滲ませて。
「子供扱いするなと喚いていたのは、誰だ」
「喚いてはいません。要望しただけです」
「俺にはそんな理知的なものには聞こえなかったがな」
 正しく言葉を直そうとしても、一蹴される。
「それより、あの、ゼリーのタワーは見事でしたね。四十センチ、いえ、五十センチは軽く越えていたかと」
「黙れ」
 たった一言で遮り、ルパートはヒルダの襟ぐりを開く。片方の生地がずれて、ふわっと白い乳房が露になった。
 どうにかして意識を別の方向に持っていこうと試みるものの、皮肉にもルパートに新たな火を着けてしまったらしい。清く、正しく、美しくの騎士道精神を地でいくような、いつもの品行方正さは砂塵のごとく消し飛んでしまっていた。
「あの、ルパート様……」
 ヒルダは、むにゃむにゃと、言葉にならない呟きを口中に溜める。
 それは抗議だったのか。それとも、先を促していたのか。
 自分のものではない体温が、剥き出された胸を包んだとき、すでに頭の中には濃い靄が張られ、温もりが円く描く波に身を浸していた。
 片方の手はヒルダの乳房に、もう片方は逃さないと言わんばかりに腰に巻きつき、そして唇は首の線を這い、脈打つ場所を吸い上げる。
「駄目……まもなく、屋敷が……」
 閨の経験はまったくないが、聞かれもしないのにべらべら喋るエラのせいで、これから先に一体何が起こるのか。容易に想像がついた。
「どうやら誤解していたようだな、俺は」
 不機嫌な低音が、首筋を這う。
「ち、違います。エラが……教えてくれて……」
 相手が何に対して不機嫌になったのか。正しく理解し、ヒルダは慌てて否定した。
「それは、これから確認する」
 ぶっきらぼうに吐き捨て、ルパートは指からはみ出すくらいの豊かな膨らみを、ぎゅっと絞る。
 顔をしかめたヒルダは逃れようと身じろぎしたが、凄まじい腰の巻きつきのせいで、動きが妨げられていた。逃げようとした仕置きのように、節のある親指と人差し指が、ピンクの花芯を摘む。
「いやっ」
 抵抗は、再び、凛々しい唇に遮断される。
 そのまま彼の唇は喉元を下り、白く豊かな胸元の谷間に辿り着く。片側の膨らみの、その先端が舌先で引っ張られたり、撫で回されたりと、巧妙な動きを繰り返すたび、ヒルダの背は弓なりに反った。
「大丈夫だ。さすがの俺でも、場は弁えている」
 安心させようとする魂胆だろうが、ヒルダには全く逆の響きに思えた。
 獲物を前にした肉食獣が、ギラギラと不気味に双眸を光らせ、鋭い牙を剥いている。
 それは、喉奥から漏れる獣のような呻きのせいだ。
 その呻きのたびに、ヒルダの細い首筋やうなじ、鎖骨と、胸の花芯、交互に赤い痕が散った。
「火を着けた責任は取ってもらうからな」
 涎を垂らした猛獣が、今にもガブリと頭から齧りつきそうなイメージが過る。
「帰ったら、覚悟しておけ」
「……やだ……」
 ヒルダの脚は強張り、バランスを失いかけ、倒れまいとルパートにしがみつく。葡萄酒と柑橘の香水に加わる、男らしい汗の匂い。
 嫌だと口にしながらも、本心はもっと彼を味わいつくしたい。絹越しの温もりを、直に感じてみたい。本能が理性を凌駕する。
 ルパートの膝の上で、向かい合った彼の腰に脚を絡めて、ますます体を密着させる。両腕で彼の頭を掻き抱くと、くぐもった呻きが胸元から発せられた。
「畜生……俺としたことが……」
 獣は苦悶の声を絞り出す。
 そこにあるのは、困惑か。それとも虚栄心だったのか。
 ヒルダは鼻腔をくすぐる彼の香りに、うっとりと目を閉じた。














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