18 / 42
続・魔法にかけられた夜道 ※R18
しおりを挟む
御伽話のお姫様は、王子様のキスで目覚める。
めでたし、めでたし。
その先の物語は続かない。
これでお終い。
だからヒルダは、物語の続きを知らない。
「あ、あの……ルパート様?」
声を上擦らせた呼び名に、ルパートは鬱陶しそうに目線を向けた。
唇を堪能していたはずなのに、いつしか顎先、喉仏、鎖骨へと熱点が滑り落ちていく。いよいよ胸元まで辿り着くか。その段になって、ようやくヒルダは制止を絞り出した。
「あ、あの。何をしようと?」
「何とは?」
「あ、あの。これでお終いでは?」
「何を言ってるんだ?」
逆に聞き返されてしまった。
言葉の端々に、侮蔑と失望を滲ませて。
「子供扱いするなと喚いていたのは、誰だ」
「喚いてはいません。要望しただけです」
「俺にはそんな理知的なものには聞こえなかったがな」
正しく言葉を直そうとしても、一蹴される。
「それより、あの、ゼリーのタワーは見事でしたね。四十センチ、いえ、五十センチは軽く越えていたかと」
「黙れ」
たった一言で遮り、ルパートはヒルダの襟ぐりを開く。片方の生地がずれて、ふわっと白い乳房が露になった。
どうにかして意識を別の方向に持っていこうと試みるものの、皮肉にもルパートに新たな火を着けてしまったらしい。清く、正しく、美しくの騎士道精神を地でいくような、いつもの品行方正さは砂塵のごとく消し飛んでしまっていた。
「あの、ルパート様……」
ヒルダは、むにゃむにゃと、言葉にならない呟きを口中に溜める。
それは抗議だったのか。それとも、先を促していたのか。
自分のものではない体温が、剥き出された胸を包んだとき、すでに頭の中には濃い靄が張られ、温もりが円く描く波に身を浸していた。
片方の手はヒルダの乳房に、もう片方は逃さないと言わんばかりに腰に巻きつき、そして唇は首の線を這い、脈打つ場所を吸い上げる。
「駄目……まもなく、屋敷が……」
閨の経験はまったくないが、聞かれもしないのにべらべら喋るエラのせいで、これから先に一体何が起こるのか。容易に想像がついた。
「どうやら誤解していたようだな、俺は」
不機嫌な低音が、首筋を這う。
「ち、違います。エラが……教えてくれて……」
相手が何に対して不機嫌になったのか。正しく理解し、ヒルダは慌てて否定した。
「それは、これから確認する」
ぶっきらぼうに吐き捨て、ルパートは指からはみ出すくらいの豊かな膨らみを、ぎゅっと絞る。
顔をしかめたヒルダは逃れようと身じろぎしたが、凄まじい腰の巻きつきのせいで、動きが妨げられていた。逃げようとした仕置きのように、節のある親指と人差し指が、ピンクの花芯を摘む。
「いやっ」
抵抗は、再び、凛々しい唇に遮断される。
そのまま彼の唇は喉元を下り、白く豊かな胸元の谷間に辿り着く。片側の膨らみの、その先端が舌先で引っ張られたり、撫で回されたりと、巧妙な動きを繰り返すたび、ヒルダの背は弓なりに反った。
「大丈夫だ。さすがの俺でも、場は弁えている」
安心させようとする魂胆だろうが、ヒルダには全く逆の響きに思えた。
獲物を前にした肉食獣が、ギラギラと不気味に双眸を光らせ、鋭い牙を剥いている。
それは、喉奥から漏れる獣のような呻きのせいだ。
その呻きのたびに、ヒルダの細い首筋やうなじ、鎖骨と、胸の花芯、交互に赤い痕が散った。
「火を着けた責任は取ってもらうからな」
涎を垂らした猛獣が、今にもガブリと頭から齧りつきそうなイメージが過る。
「帰ったら、覚悟しておけ」
「……やだ……」
ヒルダの脚は強張り、バランスを失いかけ、倒れまいとルパートにしがみつく。葡萄酒と柑橘の香水に加わる、男らしい汗の匂い。
嫌だと口にしながらも、本心はもっと彼を味わいつくしたい。絹越しの温もりを、直に感じてみたい。本能が理性を凌駕する。
ルパートの膝の上で、向かい合った彼の腰に脚を絡めて、ますます体を密着させる。両腕で彼の頭を掻き抱くと、くぐもった呻きが胸元から発せられた。
「畜生……俺としたことが……」
獣は苦悶の声を絞り出す。
そこにあるのは、困惑か。それとも虚栄心だったのか。
ヒルダは鼻腔をくすぐる彼の香りに、うっとりと目を閉じた。
めでたし、めでたし。
その先の物語は続かない。
これでお終い。
だからヒルダは、物語の続きを知らない。
「あ、あの……ルパート様?」
声を上擦らせた呼び名に、ルパートは鬱陶しそうに目線を向けた。
唇を堪能していたはずなのに、いつしか顎先、喉仏、鎖骨へと熱点が滑り落ちていく。いよいよ胸元まで辿り着くか。その段になって、ようやくヒルダは制止を絞り出した。
「あ、あの。何をしようと?」
「何とは?」
「あ、あの。これでお終いでは?」
「何を言ってるんだ?」
逆に聞き返されてしまった。
言葉の端々に、侮蔑と失望を滲ませて。
「子供扱いするなと喚いていたのは、誰だ」
「喚いてはいません。要望しただけです」
「俺にはそんな理知的なものには聞こえなかったがな」
正しく言葉を直そうとしても、一蹴される。
「それより、あの、ゼリーのタワーは見事でしたね。四十センチ、いえ、五十センチは軽く越えていたかと」
「黙れ」
たった一言で遮り、ルパートはヒルダの襟ぐりを開く。片方の生地がずれて、ふわっと白い乳房が露になった。
どうにかして意識を別の方向に持っていこうと試みるものの、皮肉にもルパートに新たな火を着けてしまったらしい。清く、正しく、美しくの騎士道精神を地でいくような、いつもの品行方正さは砂塵のごとく消し飛んでしまっていた。
「あの、ルパート様……」
ヒルダは、むにゃむにゃと、言葉にならない呟きを口中に溜める。
それは抗議だったのか。それとも、先を促していたのか。
自分のものではない体温が、剥き出された胸を包んだとき、すでに頭の中には濃い靄が張られ、温もりが円く描く波に身を浸していた。
片方の手はヒルダの乳房に、もう片方は逃さないと言わんばかりに腰に巻きつき、そして唇は首の線を這い、脈打つ場所を吸い上げる。
「駄目……まもなく、屋敷が……」
閨の経験はまったくないが、聞かれもしないのにべらべら喋るエラのせいで、これから先に一体何が起こるのか。容易に想像がついた。
「どうやら誤解していたようだな、俺は」
不機嫌な低音が、首筋を這う。
「ち、違います。エラが……教えてくれて……」
相手が何に対して不機嫌になったのか。正しく理解し、ヒルダは慌てて否定した。
「それは、これから確認する」
ぶっきらぼうに吐き捨て、ルパートは指からはみ出すくらいの豊かな膨らみを、ぎゅっと絞る。
顔をしかめたヒルダは逃れようと身じろぎしたが、凄まじい腰の巻きつきのせいで、動きが妨げられていた。逃げようとした仕置きのように、節のある親指と人差し指が、ピンクの花芯を摘む。
「いやっ」
抵抗は、再び、凛々しい唇に遮断される。
そのまま彼の唇は喉元を下り、白く豊かな胸元の谷間に辿り着く。片側の膨らみの、その先端が舌先で引っ張られたり、撫で回されたりと、巧妙な動きを繰り返すたび、ヒルダの背は弓なりに反った。
「大丈夫だ。さすがの俺でも、場は弁えている」
安心させようとする魂胆だろうが、ヒルダには全く逆の響きに思えた。
獲物を前にした肉食獣が、ギラギラと不気味に双眸を光らせ、鋭い牙を剥いている。
それは、喉奥から漏れる獣のような呻きのせいだ。
その呻きのたびに、ヒルダの細い首筋やうなじ、鎖骨と、胸の花芯、交互に赤い痕が散った。
「火を着けた責任は取ってもらうからな」
涎を垂らした猛獣が、今にもガブリと頭から齧りつきそうなイメージが過る。
「帰ったら、覚悟しておけ」
「……やだ……」
ヒルダの脚は強張り、バランスを失いかけ、倒れまいとルパートにしがみつく。葡萄酒と柑橘の香水に加わる、男らしい汗の匂い。
嫌だと口にしながらも、本心はもっと彼を味わいつくしたい。絹越しの温もりを、直に感じてみたい。本能が理性を凌駕する。
ルパートの膝の上で、向かい合った彼の腰に脚を絡めて、ますます体を密着させる。両腕で彼の頭を掻き抱くと、くぐもった呻きが胸元から発せられた。
「畜生……俺としたことが……」
獣は苦悶の声を絞り出す。
そこにあるのは、困惑か。それとも虚栄心だったのか。
ヒルダは鼻腔をくすぐる彼の香りに、うっとりと目を閉じた。
6
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王様とお妃様は今日も蜜月中~一目惚れから始まる溺愛生活~
花乃 なたね
恋愛
貴族令嬢のエリーズは幼いうちに両親を亡くし、新たな家族からは使用人扱いを受け孤独に過ごしていた。
しかし彼女はとあるきっかけで、優れた政の手腕、更には人間離れした美貌を持つ若き国王ヴィオルの誕生日を祝う夜会に出席することになる。
エリーズは初めて見るヴィオルの姿に魅せられるが、叶わぬ恋として想いを胸に秘めたままにしておこうとした。
…が、エリーズのもとに舞い降りたのはヴィオルからのダンスの誘い、そしてまさかの求婚。なんとヴィオルも彼女に一目惚れをしたのだという。
とんとん拍子に話は進み、ヴィオルの元へ嫁ぎ晴れて王妃となったエリーズ。彼女を待っていたのは砂糖菓子よりも甘い溺愛生活だった。
可愛い妻をとにかくベタベタに可愛がりたい王様と、夫につり合う女性になりたいと頑張る健気な王妃様の、好感度最大から始まる物語。
※1色々と都合の良いファンタジー世界が舞台です。
※2直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が多々出てきますためご注意ください。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。
りつ
恋愛
イリスの婚約者は幼馴染のラファエルである。彼と結婚するまで遠い修道院の寄宿学校で過ごしていたが、十八歳になり、王都へ戻って来た彼女は彼と結婚できる事実に胸をときめかせていた。しかし両親はラファエル以外の男性にも目を向けるよう言い出し、イリスは戸惑ってしまう。
王女殿下や王太子殿下とも知り合い、ラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていることを知ったイリス。離れている間の知らなかったラファエルのことを令嬢たちの口から聞かされるが、イリスは次第に違和感を抱き始めて……
「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる