【完結】華麗なるマチルダの密約

晴 菜葉

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果てのない夢4 ※

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 ゼイハアと肩で荒々しく呼吸するマチルダは、自分の仕出かしてしまった失態に、みるみるうちに瞳に大粒の涙を溜めた。
「恥ずかしがることはない。これは尿失禁ではないから」
 マチルダの涙を指先で掬い取るなり、ロイは眦に優しく口付ける。
「そうなの? 」
「興奮すれば、このような状態になる女はいる」
「よくご存知ですこと」
「いちいち棘のある言い方はやめろ」
 嫌味ったらしい感想の真意は伝わっているようだ。
「マチルダ。やはり君とは出会うべくして出会ったんだ」
 首筋にロイの甘い吐息が擦れた。
「もしあのとき、取引相手との会食が延期していなければ。時間を持て余してローレンスを飲みに誘わなければ。ローレンスの腹の調子が快適だったなら。君が男娼を雇おうとする決意を一日でも遅らせていたら……どれが欠けても、私達は出会っていなかった……君は私にとって運命の相手なんだよ」
「……ロイ」
 なんてロマンチックな男だろう。
 夢にまで見た御伽話の王子様は、マチルダの前髪を優しく梳く。
 背中の羽毛の柔らかな心地良さは、尚更、マチルダにこれから始まることへの期待値を高めた。
「異常なくらいの感度の良さ。とめどない分泌液。私の陰茎を易々と膣に受け入れる適応力。何度射精しようと衰えず食らいついてくる貪欲さ。尽きない体力。まさに君は、我がブライス家に名を残すべき、奇跡の女性だ」
 が、やはりロイはロイだ。
 ガツンと後頭部を鈍器で殴られた衝撃だった。生々しい現実世界へと、マチルダは叩きのめされる。
「底抜けのセックス依存者みたいな言い方しないで」
 せっかくのロマンチックな気分を台無しにされて、マチルダは侮蔑そのものでロイを睨みつけた。
「褒めているのに」
 マチルダの王子様は、褒め言葉が至らない。
 次に出てくるのはきっと、勿忘草の繁殖力が……云々だろう。きっと。
「我が家の紋章である勿忘草は、子孫繁栄するに必要不可欠な繁殖力が」
 皆まで言わせず、マチルダはロイの脳天に拳骨を落として黙らせた。


 気を取り直したように、ロイはマチルダに唇を重ねる。
「前回、これでもかと受け入れたんだ。記憶はなくとも、体は覚えているはずだ」
 中に潜る指が二本に増やされる。
 先程よりも拡がる皮膚に、マチルダはびくりと体を揺すった。己から流れる粘液の力によって、不思議と痛みはそれほど感じない。
「あ、あああ! 」
 だが、違和感が半端ない。
 ロイの指は縦横無尽に内部を這いずり回し、マチルダの襞を一つ一つ詳細に探った。
「ああ。この締め付け。うねり。堪らないな」
 指が三本になる。
 軽い圧迫感にはどことなく覚えがある。特に人差し指がちょうど当たる部分が、マチルダの内腿をびくびくと痙攣させた。
「し、知ってるわ。この感触」
 記憶はなくとも、体にはロイの痕跡が染み付いている。節の張った指がどこに触れたら自律神経を狂わされるのか、経験は誤魔化しようがない。
「では、これは? 」
 ロイの掠れた吐息が耳を掠めていく。
 獣の唸りにも似た息が、彼の鼻から漏れた。


「いやあああ! 」
 

 マチルダの悲鳴が室内を振動させる。
 燃えるように熱い塊が、マチルダの熟れ始めた洞穴にぎゅうぎゅうと捩じ込まれた。
 突然の侵入に、マチルダの器官が全力で拒絶にかかる。
 熱塊を押し戻そうと襞が蠢き、皮膚がビクビクと収縮した。
「ぐう……くそっ」
 ロイは深淵を目指し、負けじと腰を打ちつける。
「あ、ああ! ロイ! 」
 マチルダの皮膚は引き攣れ、ロイの形通りにじわじわと拡がっては、彼を排出しようと収斂する。
 辛抱強くそれを繰り返し、ようやくロイは自身を根本まで収めることに成功した。
 受け入れては抵抗を見せて。自分自身に翻弄されたマチルダの体からは力が抜け、ぐにゃりと曲がってしまった。
 ロイはそんな彼女の腰を引き寄せるなり、さらに密着させる。
「マチルダ。君はやはり氷の悪女などではない」
 薄闇の向こう側では、セクシーな神話の男神が掠れた声を息に混じらせる。
「私の心をマグマで溶かせる、恐ろしい女だ」
「人を……化け物みたいに……」
「化け物よりも酷い。この私を虜にする女なのだからな」
「上から目線で……気に障るわ……」
 口説き文句は最悪極まりない。
 詰っているのに、マチルダの内部に滞るロイの質量がさらに増した。
「ああ! 」
 彼の何が興奮させているかわからない。
 マチルダは、憂いを含んで睫毛に雫を乗せるその顔が、凶悪なくらい艶やかだとは気付いていない。
「悪役令嬢と呼ばれた方が……まだマシよ……」
 化け物よりも酷いと揶揄されて。
「もう令嬢ではない」
 マチルダの首筋に顔を埋めたロイは、きつく所有の証をつける。
「貴婦人となっているんだよ、君は」
 敢えて目立つ位置を選んで一つ、また一つと、ロイはマーキングを施した。
「マチルダ。君の子宮に直に押し入って、私の欲望全てをぶち撒けてやりたい」
 不意にロイの眼光が荒ぶる。
「あ……ああ! 」
 マチルダが弓形に反る。
 がくがくと揺すられ、ロイがさらに狭い道を押し入ってきた。もうこれ以上は進まないのに。彼の先端は、子宮口にまで到達しているのに。
「マチルダ! もっと私を奥まで受け入れてくれ! 」
「む、無茶……言わないで……」
「マチルダ! 」
「あああ! 」
 滅茶苦茶にがんがんと叩かれ、刺激が半端ない。
 いやいやと首を振るのに、許してくれない。
 彼は本気で入り口に押し入るつもりだ。
 マチルダの最奥は、ロイに叩かれ過ぎて緩んでしまっている。
「私以外では物足りないないくらいに。自慰行為さえ、君にはさせない。君の中は常に私のもの。このロイ・オルコットか、もしくはフェルロイ・ラムズでしか満足出来ない体に作り変えてやる! 」
「ああ! もうとっくにそうなっているわ! 」
「私だけだな、マチルダ? 」
「ええ! あなたしか嫌よ! ロイ! 」
 それを合図に、いつもは閉じているはずの硬い引き結びがヌルリと開いた。
 ロイは待ちかねたと、腰を打つ。
 ヌルリとした些細な亀裂から、まだ子供のいない空間に彼は一番乗りする。
「『誠の恋をする者は、みな、一目で恋をする』」
 欲望まみれの獣の口から、場違いなこの上ないロマンチックな名言が飛び出し、そのあまりの落差にマチルダの思考は置いてけぼり。
 マチルダは、未だに欲望の沼にずぶずぶと漬け込まれている。
「ああ! ロイ! 」
 マチルダは彼の頭を抱えて、めいいっぱい引き寄せた。
 子宮の内壁が膨らんでいく。
 彼は口にした通りに、勿忘草の繁殖能力がいかに高いかを証明してみせた。


「では、これから教会へ行くぞ」
 白濁を全ては受け止め切れず、ダラダラとシーツに零す。しかめ面になりながらタオルで拭うマチルダに、ロイは急かした。
 マチルダは未だに素っ裸。
 一方のロイと言えば、すでに身なりを整えて、ちょうどフロックコートの袖ボタンを留め終えたところだ。
「ドレスもないのに? 」
「ある」
「私の承諾もなく? 一生に一度きりよ。好きなデザインのものが着たいわ」
「君が選んだ」
「知らないわ」
「伝統的な赤ではなく、女王が着たのと同じ純白が良いだの、小ぶりのリボンを裾に等間隔であしらってほしいだの、胸元にはラピスラズリを散りばめてほしいだの。あげれば切りがない」
「知らないったら」
「媚薬を飲まされたあの夜だ。ベッドの中で、散々要求したではないか」
「そんなの覚えてないわ」
「ウェディングドレスは君の要望一つ取り零していないぞ」
 ふと、マチルダは仮面舞踏会でのドレスを思い起こした。
 混じり気のない真っ赤なドレス、裾にあしらったレースの模様は薔薇、ドレスの刺繍も大ぶりの薔薇。全てマチルダが好む柄だ。
「もしかして仮面舞踏会のドレスも? 」
「君の要望通りだ」
「あんなに胸を開けてなんて、私は絶対に言わないわ」
「胸の谷間を強調したのは、私の趣味だ。君からはそれに関して何の意見も出なかったから」
「まさか、ウェディングドレスも? 」
「まあな。神が勃起してしまうかもな……痛え! 」
 神を冒涜するロイの頬に、マチルダは問答無用で拳を打ち込んだ。

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