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ネズミ退治
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父を見送ってから、マチルダはぐるぐると無意味に部屋中を歩き回していた。
「本当にロイは会社を経営しているのかしら? それとも、あくまで設定? 」
独り言が止まらない。
ロイの本意がわからない。
彼の何が本当で、何が嘘なのか。
まさか本当にブライス伯爵家三男坊だとは思わないが、海運会社の方は信憑性がある。彼はれっきとした娼館の主人だが、会社の方は共同経営ならあり得る話だ。現にあのジョナサン卿も、鉄道会社の共同経営者だ。
もし、父の話す通りに、海運会社がまずい状態なら。
マチルダはいてもたってもいられず、屋敷を飛び出していた。
ローレンスの前まで来たものの、マチルダは右往左往していた。
ロイのことで頭がいっぱいになり、咄嗟に出て来たものの、マチルダが彼を心配する謂れは何もない。マチルダは単なる顧客に過ぎない。いや、契約すら交わしていないのだから、全くの他人だ。
体を重ねた仲らしいが、マチルダには記憶すらない。
尤も、火遊びに慣れていそうなロイだから、所詮、マチルダも数多いる女性の一人に過ぎないだろう。
急に自分の図々しさが恥ずかしくなり、館に足を踏み入れることを躊躇ってしまった。
「おや、マチルダ嬢? 」
聞き覚えのある声を背中に受けた。
玄関扉を押して出て来たのは、ロイが「ぬいぐるみ」などとしきりに連呼していた彼の友人だ。
「あ、あの」
マチルダはもじもじと膝を擦り合わせる。
急に冷静になり、向こう水な自分の行為が恥ずかしくて堪らなくなってしまった。
そんなマチルダに、ロイの友人は穏やかに微笑む。
「ロイなら、ネズミ退治に出ていますよ」
彼の口から出たのは、思いも寄らない言葉だった。
ネズミ退治とは。
やはり、海運会社とロイは、全くの無関係だったのだ。
安堵感が、今まで張り詰めていたマチルダの神経を一気に緩める。
マチルダはようやく白い歯を見せた。
「まあ。娼館はそのようなことまでなさりますの? 」
高級を謳う娼館の主人がそこまでするとは。それとも、サービスが良過ぎるから、一流の名を欲しいままにしているのだろうか。
「ん? 」
ロイの友人は愛想良い笑顔のまま、小首を傾げる。その姿はまさに、クマのぬいぐるみのように愛らしい。
友人は笑顔を崩さず、胸元で両手を横に振った。
「ああ。いやいや。それは、あの男の趣味ですよ」
「趣味でネズミ退治? 変わった方ね」
「ええ。やつは、なかなかの変わり者ですよ。かなりの捻くれ者だ」
そこに、この友人の本音を見た。
言葉通り、ロイはそこらへんにいる貴族の男とは大違い。
見目良い容姿だけでなく、マチルダの外見に惑わされない、真実を見抜こうとする目。偉ぶっているくせに、仕草一つ一つが女性を慮る。そして、先進的な考え方。
仮に彼が貴族であったなら、相当な変わり者だ。
「同意しますわ」
くすくすと鈴を鳴らすように声を揺らせて、マチルダは大きく頷いた。
「本当にロイは会社を経営しているのかしら? それとも、あくまで設定? 」
独り言が止まらない。
ロイの本意がわからない。
彼の何が本当で、何が嘘なのか。
まさか本当にブライス伯爵家三男坊だとは思わないが、海運会社の方は信憑性がある。彼はれっきとした娼館の主人だが、会社の方は共同経営ならあり得る話だ。現にあのジョナサン卿も、鉄道会社の共同経営者だ。
もし、父の話す通りに、海運会社がまずい状態なら。
マチルダはいてもたってもいられず、屋敷を飛び出していた。
ローレンスの前まで来たものの、マチルダは右往左往していた。
ロイのことで頭がいっぱいになり、咄嗟に出て来たものの、マチルダが彼を心配する謂れは何もない。マチルダは単なる顧客に過ぎない。いや、契約すら交わしていないのだから、全くの他人だ。
体を重ねた仲らしいが、マチルダには記憶すらない。
尤も、火遊びに慣れていそうなロイだから、所詮、マチルダも数多いる女性の一人に過ぎないだろう。
急に自分の図々しさが恥ずかしくなり、館に足を踏み入れることを躊躇ってしまった。
「おや、マチルダ嬢? 」
聞き覚えのある声を背中に受けた。
玄関扉を押して出て来たのは、ロイが「ぬいぐるみ」などとしきりに連呼していた彼の友人だ。
「あ、あの」
マチルダはもじもじと膝を擦り合わせる。
急に冷静になり、向こう水な自分の行為が恥ずかしくて堪らなくなってしまった。
そんなマチルダに、ロイの友人は穏やかに微笑む。
「ロイなら、ネズミ退治に出ていますよ」
彼の口から出たのは、思いも寄らない言葉だった。
ネズミ退治とは。
やはり、海運会社とロイは、全くの無関係だったのだ。
安堵感が、今まで張り詰めていたマチルダの神経を一気に緩める。
マチルダはようやく白い歯を見せた。
「まあ。娼館はそのようなことまでなさりますの? 」
高級を謳う娼館の主人がそこまでするとは。それとも、サービスが良過ぎるから、一流の名を欲しいままにしているのだろうか。
「ん? 」
ロイの友人は愛想良い笑顔のまま、小首を傾げる。その姿はまさに、クマのぬいぐるみのように愛らしい。
友人は笑顔を崩さず、胸元で両手を横に振った。
「ああ。いやいや。それは、あの男の趣味ですよ」
「趣味でネズミ退治? 変わった方ね」
「ええ。やつは、なかなかの変わり者ですよ。かなりの捻くれ者だ」
そこに、この友人の本音を見た。
言葉通り、ロイはそこらへんにいる貴族の男とは大違い。
見目良い容姿だけでなく、マチルダの外見に惑わされない、真実を見抜こうとする目。偉ぶっているくせに、仕草一つ一つが女性を慮る。そして、先進的な考え方。
仮に彼が貴族であったなら、相当な変わり者だ。
「同意しますわ」
くすくすと鈴を鳴らすように声を揺らせて、マチルダは大きく頷いた。
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