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仮面舞踏会
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仮面舞踏会は、短調の奏でによってどことなく淫猥な雰囲気さえ漂っている。
国王の住む宮殿から程近い伯爵邸は、花崗岩で造られた白亜の屋敷で、等間隔に煌びやかなステンドグラスが嵌め込まれた窓が並んでいる。支える柱は太く、蔓模様と勿忘草の飾り彫りは、一流の職人が手掛けていると一目瞭然。
アニストン家の三倍近くはありそうなほど広大な屋敷だ。
仮面舞踏会が催されている大広間は、まるで宮殿に迷い込んでしまった錯覚を起こすくらい豪奢だ。
天井から吊られた巨大なクリスタルガラスのシャンデリアが、眩しいくらいの光を放つ。
煌びやかに装飾されたアイマスクを着けた人々が、大広間へと吸い込まれていった。
伯爵家主催のパーティーは、王都でも限られた貴族のみしか招待されていないらしく、人々の集まりはさほど多くない。
そのような中でも、真っ赤なドレスに身を包んだマチルダは悪目立ちしているようで、この日も誰からも声を掛けられず。
「ブライス伯爵家の当主、フェルロイ・ラムズ様よ」
壁の花を続けていれば、似た境遇のレディがいて当然のこと。
珍しく、氷のごとく冷え冷えした結界に物怖じしない女性だ。
その夜、マチルダの耳に囁いたのは、菫色のドレスを身に纏った令嬢だ。マチルダより年上のくせに、マナーはなってないし、妙に噂好きだし、下品な言葉を大声で話すし、態度がぞんざいだし。眉をひそめざるをえない。
そんな菫色ドレスの令嬢は、入り口で来賓を迎える燕尾服の男性に視線を流した。
「ほら。仮面でよく顔はわからないけど。来賓にご挨拶されているから、きっとあの方よ」
宝石の散りばめられたアイマスクをつけているから、ハッキリ顔はわからない。
だが、口元に全く皺が見当たらないことから、まだ二十代のような若々しさだ。おそらく、マチルダとそう開きのない年齢と思えるくらいに。
マチルダは、ぶるぶると小刻みに震え出していた。
あの若々しい当主が、自分の首を刎ねるのだ。
回れ右をして帰りたかったが、当主が出入り口を塞いでいるから、抜け出せない。彼の前を素通りして帰るほど、マチルダの心臓は鋼ではない。
「去年、当主を継がれたのよ。前の当主様は奥様と田舎暮らしを満喫されているそうよ」
「じゃあ、三男の方は? 」
ブライス家の三男とは、どのような人物だろうか。
いづれ広間のど真ん中に引き摺り出されるのだ。この際、本物の三男の顔でも拝んでやる。
ヤケクソで聞いてみた。
「三男はフィリップ様。まだ五歳になられたばかりよ、確か」
「五歳! 」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまったら、周囲の怪訝な目が一斉にマチルダに集まってしまった。
マチルダは咳払い一つして、取り澄ます。
頭の中は、ロイに対する怨嗟でいっぱいだ。
よりにもよって、五歳の子供を恋人に設定するなんて。
幾らマチルダが誰からも相手にされない処女といえど。
悪戯が成功したように舌先を覗かせるロイの顔が脳裏を過った。
国王の住む宮殿から程近い伯爵邸は、花崗岩で造られた白亜の屋敷で、等間隔に煌びやかなステンドグラスが嵌め込まれた窓が並んでいる。支える柱は太く、蔓模様と勿忘草の飾り彫りは、一流の職人が手掛けていると一目瞭然。
アニストン家の三倍近くはありそうなほど広大な屋敷だ。
仮面舞踏会が催されている大広間は、まるで宮殿に迷い込んでしまった錯覚を起こすくらい豪奢だ。
天井から吊られた巨大なクリスタルガラスのシャンデリアが、眩しいくらいの光を放つ。
煌びやかに装飾されたアイマスクを着けた人々が、大広間へと吸い込まれていった。
伯爵家主催のパーティーは、王都でも限られた貴族のみしか招待されていないらしく、人々の集まりはさほど多くない。
そのような中でも、真っ赤なドレスに身を包んだマチルダは悪目立ちしているようで、この日も誰からも声を掛けられず。
「ブライス伯爵家の当主、フェルロイ・ラムズ様よ」
壁の花を続けていれば、似た境遇のレディがいて当然のこと。
珍しく、氷のごとく冷え冷えした結界に物怖じしない女性だ。
その夜、マチルダの耳に囁いたのは、菫色のドレスを身に纏った令嬢だ。マチルダより年上のくせに、マナーはなってないし、妙に噂好きだし、下品な言葉を大声で話すし、態度がぞんざいだし。眉をひそめざるをえない。
そんな菫色ドレスの令嬢は、入り口で来賓を迎える燕尾服の男性に視線を流した。
「ほら。仮面でよく顔はわからないけど。来賓にご挨拶されているから、きっとあの方よ」
宝石の散りばめられたアイマスクをつけているから、ハッキリ顔はわからない。
だが、口元に全く皺が見当たらないことから、まだ二十代のような若々しさだ。おそらく、マチルダとそう開きのない年齢と思えるくらいに。
マチルダは、ぶるぶると小刻みに震え出していた。
あの若々しい当主が、自分の首を刎ねるのだ。
回れ右をして帰りたかったが、当主が出入り口を塞いでいるから、抜け出せない。彼の前を素通りして帰るほど、マチルダの心臓は鋼ではない。
「去年、当主を継がれたのよ。前の当主様は奥様と田舎暮らしを満喫されているそうよ」
「じゃあ、三男の方は? 」
ブライス家の三男とは、どのような人物だろうか。
いづれ広間のど真ん中に引き摺り出されるのだ。この際、本物の三男の顔でも拝んでやる。
ヤケクソで聞いてみた。
「三男はフィリップ様。まだ五歳になられたばかりよ、確か」
「五歳! 」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまったら、周囲の怪訝な目が一斉にマチルダに集まってしまった。
マチルダは咳払い一つして、取り澄ます。
頭の中は、ロイに対する怨嗟でいっぱいだ。
よりにもよって、五歳の子供を恋人に設定するなんて。
幾らマチルダが誰からも相手にされない処女といえど。
悪戯が成功したように舌先を覗かせるロイの顔が脳裏を過った。
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