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大いなる誤解
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マチルダは、つまらない噂話など気にも止めない。今更だからだ。幾ら否定しようと、聞く耳を持たない者ばかり。
そもそも、交友関係なんてものがないから、話を聞いてくれる相手すらいない。
「もう、たくさんよ! さっさと出て行ってちょうだい! 」
マチルダは手首の拘束を解こうと、腕の筋肉を総動員して、ぶんぶんと上下させた。
が、やはりびくともしない。
そればかりか、胸元に引き寄せられた。
アンサーの方がマチルダより五センチばかり背が低いから、何だか彼を抱きしめた格好になる。
「マチルダ。僕のものになれ」
甘い台詞でさえ、この国に燻る男女の上下関係が見え隠れする。
マチルダのこめかみに青筋が浮いた。
「女は男の所有物じゃないのよ! それに、人のことを呼び捨てになんかして。馴れ馴れしいったらないわ! 」
唾を飛ばして怒鳴りつけてやる。
アンサーは、やれやれと小さく首を振った。
「相変わらず気位の高い女だな」
「あなたがこれほど腹の黒い男だったなんて! 」
「男なんてこんなものだよ。僕だけが特別ってものじゃないさ」
アンサーはゾッとするくらい不気味に頬肉を歪めた。
彼の唇が首筋に寄る。
「なあ、マチルダ。一回くらい、良いだろ」
「な、何する気! 」
「君は手慣れてるじゃないか」
「やめて! 」
「今更、どうってことないだろ」
つまらないデマを鵜呑みにして迫ってくる。
このままでは、力任せにベッドに押し倒されてしまう。
マチルダの脳裏を警鐘が響いた。
経験はないものの、座学としての知識くらいはマチルダにもある。
体格の差は歴然だ。
「やめて! 」
アンサーは唇を窄めて、マチルダにぐっと顔を寄せてきた。鼻先を掠める吐息。それはまさに、醜悪な獣そのもの。アンサーの目は、欲望を前に充血している。
「何をしているの! 」
金切り声が空気を裂いた。
「お姉様! 」
「イメルダ! 」
何故か姉がマチルダの部屋の入り口にいた。
いつもの白粉をはたいた顔が、いつになく白い。いや、白と言うよりは青。血の気が全くない青だ。
彼女は紅を塗りたくった唇を戦慄かせ、微かに息をしつつ、ようやくといった具合に声を絞り出した。
「あ、あなた達……何をしているの……? 」
小鳥の鳴くような声ではない。
喉首を締めつけられたかのような、くぐもった呻き。
「マチルダ……あなた、まさか、アンサー様に……」
マチルダと同じ色をした瞳が揺らめく。
「ご、誤解だよ。イメルダ様」
反射神経は、アンサーの方がマチルダを遥かに凌いでいる。
アンサーはマチルダの手首を掴んでいた手を離すや、大きく両手を広げて首を横に振った。まるで舞台で大衆に向けた演技をしているかのごとく。
「こ、この僕が、招かれもせず若い娘の部屋に入るわけないじゃないか」
大根役者並みの台詞回し。
だが、内容は尤だ。
幾ら言い訳をしようと、レディの部屋に独身の男が居る状況に変わりはない。
「マチルダが誘ったというの? 」
イメルダはアンサーのわざとらしい台詞回しは受け流す。話の内容を重要視して。眼差しをマチルダへと向けた。
カッとマチルダの両目がこれでもかと見開く。
「ち、違うわ! 」
「いや、違わない」
抜け抜けとアンサーが横入りした。
「適当なこと言わないでよ! 」
自分から仕掛けておいて、難なく保身に回るこの男が許せない。
握った拳に青筋が浮く。姉の婚約者でなければ、その頬を平手で叩きつけているところだ。
そもそも、交友関係なんてものがないから、話を聞いてくれる相手すらいない。
「もう、たくさんよ! さっさと出て行ってちょうだい! 」
マチルダは手首の拘束を解こうと、腕の筋肉を総動員して、ぶんぶんと上下させた。
が、やはりびくともしない。
そればかりか、胸元に引き寄せられた。
アンサーの方がマチルダより五センチばかり背が低いから、何だか彼を抱きしめた格好になる。
「マチルダ。僕のものになれ」
甘い台詞でさえ、この国に燻る男女の上下関係が見え隠れする。
マチルダのこめかみに青筋が浮いた。
「女は男の所有物じゃないのよ! それに、人のことを呼び捨てになんかして。馴れ馴れしいったらないわ! 」
唾を飛ばして怒鳴りつけてやる。
アンサーは、やれやれと小さく首を振った。
「相変わらず気位の高い女だな」
「あなたがこれほど腹の黒い男だったなんて! 」
「男なんてこんなものだよ。僕だけが特別ってものじゃないさ」
アンサーはゾッとするくらい不気味に頬肉を歪めた。
彼の唇が首筋に寄る。
「なあ、マチルダ。一回くらい、良いだろ」
「な、何する気! 」
「君は手慣れてるじゃないか」
「やめて! 」
「今更、どうってことないだろ」
つまらないデマを鵜呑みにして迫ってくる。
このままでは、力任せにベッドに押し倒されてしまう。
マチルダの脳裏を警鐘が響いた。
経験はないものの、座学としての知識くらいはマチルダにもある。
体格の差は歴然だ。
「やめて! 」
アンサーは唇を窄めて、マチルダにぐっと顔を寄せてきた。鼻先を掠める吐息。それはまさに、醜悪な獣そのもの。アンサーの目は、欲望を前に充血している。
「何をしているの! 」
金切り声が空気を裂いた。
「お姉様! 」
「イメルダ! 」
何故か姉がマチルダの部屋の入り口にいた。
いつもの白粉をはたいた顔が、いつになく白い。いや、白と言うよりは青。血の気が全くない青だ。
彼女は紅を塗りたくった唇を戦慄かせ、微かに息をしつつ、ようやくといった具合に声を絞り出した。
「あ、あなた達……何をしているの……? 」
小鳥の鳴くような声ではない。
喉首を締めつけられたかのような、くぐもった呻き。
「マチルダ……あなた、まさか、アンサー様に……」
マチルダと同じ色をした瞳が揺らめく。
「ご、誤解だよ。イメルダ様」
反射神経は、アンサーの方がマチルダを遥かに凌いでいる。
アンサーはマチルダの手首を掴んでいた手を離すや、大きく両手を広げて首を横に振った。まるで舞台で大衆に向けた演技をしているかのごとく。
「こ、この僕が、招かれもせず若い娘の部屋に入るわけないじゃないか」
大根役者並みの台詞回し。
だが、内容は尤だ。
幾ら言い訳をしようと、レディの部屋に独身の男が居る状況に変わりはない。
「マチルダが誘ったというの? 」
イメルダはアンサーのわざとらしい台詞回しは受け流す。話の内容を重要視して。眼差しをマチルダへと向けた。
カッとマチルダの両目がこれでもかと見開く。
「ち、違うわ! 」
「いや、違わない」
抜け抜けとアンサーが横入りした。
「適当なこと言わないでよ! 」
自分から仕掛けておいて、難なく保身に回るこの男が許せない。
握った拳に青筋が浮く。姉の婚約者でなければ、その頬を平手で叩きつけているところだ。
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