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未来の話
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火傷した薬指に、白金の指輪がスっと通る。
「もし生き残ることが出来たら、すぐに式を挙げよう」
ザカリスが懐から出した青いベルベットの小箱に収められていた中身だ。
「ザカリス様。これって」
指輪には茉莉花の刻印が繊細になされている。
指輪に彫られたザカリスの家の紋章。
即ち……。
「結婚指輪だ。本当なら、月明かりの美しい庭園でと考えていたが」
ザカリスは苦笑いし、冷たい白金に軽く口付けをする。
たちまち、白かったリリアーナの頬に赤みが差した。
灰褐色の瞳が潤む。
「うれしいわ! 夢みたい! 」
幼い頃の誓いが脳裏を駆け巡る。
両親に宣言した、あの日。
ユリアーノおばさまの葬儀の日。
「私、ザカリス様のお嫁さんになりたいわ」
あのとき、リリアーナは決意した。
ザカリスの嫁になる。
あのときから始まった、一途な想い。
「そうね。あなたとザカリス様が未来で同じ気持ちだったらね」
母が笑った。
そして未来となり、あの頃の夢は叶った。
リリアーナは、薬指の重みにうっとりしながら瞬いた。
「結婚式は、真っ赤なウェディングドレスが着たいわ」
「流行の白ではないのか? 」
「私は赤がいいわ。赤いドレスを着てザカリス様と式を挙げることが、子供の頃からの夢だったの」
「そうか」
「ザカリス様の夢はなあに? 」
二人は互いの心拍がわかるくらい密着し、肩を寄せ合った。
熱を孕んだシャツは汗でぐっしょりと湿気っている。
「俺か? 俺は、子供が欲しいな」
ザカリスは彼方に視線をやった。
「男と女、それぞれ五人づつ」
リリアーナの目が丸くなる。
「十人! 子沢山がお望みなのね」
「ああ。俺の母は体が弱くて、俺しか子を成せなかったからな」
「ザカリス様と、子供達に囲まれた生活。賑やかで楽しそうだわ」
医療がめまぐるしく発達したといえど、未だに出産で命を落とす者はいる。
だが、リリアーナには何故か見えた。ザカリスとの子供十人、賑やかに走り回っている未来が。
「もし生きて帰れるなら」
リリアーナは呟く。
「ザカリスさまと逢引きがしたいわ」
彼とは結局、逢引き出来なかった。
「バークレイ劇場でお芝居が見たいわ。劇場オーナー兼俳優のジミー・シュバイツァーが、とても素敵だと評判なのよ」
「おい。俺がいながら」
「嫉妬しないで。シュバイツァー氏は結婚していて、奥様を溺愛していると専らの評判よ」
「あの女たらしがか? 劇団の女を二人も孕ませた男だぞ」
「後々、誤解だってわかったじゃない」
「俺よりも、その男が良いのか? 」
「そんなわけないでしょ。私はザカリス様一筋なのに」
他の男の影など、ちらついたことすらない。
「そうか。リリアーナ。俺もきっと、お前のことを昔から愛していたんだろうな。自覚がないだけで」
「自覚するまで、随分とかかったわね」
「その分、お前の魅力をたっぷり知ったからな」
「来世でも、あなたの奥さんでいたいわ」
「ああ。俺もだよ」
ザカリスの吐息に混じる声に、リリアーナは瞼を閉じた。
最早、逃げることは不可能。
それならば、夢を見たままで眠りたい。
隣には愛してやまない男。
これ以上の幸福はない。
「もし生き残ることが出来たら、すぐに式を挙げよう」
ザカリスが懐から出した青いベルベットの小箱に収められていた中身だ。
「ザカリス様。これって」
指輪には茉莉花の刻印が繊細になされている。
指輪に彫られたザカリスの家の紋章。
即ち……。
「結婚指輪だ。本当なら、月明かりの美しい庭園でと考えていたが」
ザカリスは苦笑いし、冷たい白金に軽く口付けをする。
たちまち、白かったリリアーナの頬に赤みが差した。
灰褐色の瞳が潤む。
「うれしいわ! 夢みたい! 」
幼い頃の誓いが脳裏を駆け巡る。
両親に宣言した、あの日。
ユリアーノおばさまの葬儀の日。
「私、ザカリス様のお嫁さんになりたいわ」
あのとき、リリアーナは決意した。
ザカリスの嫁になる。
あのときから始まった、一途な想い。
「そうね。あなたとザカリス様が未来で同じ気持ちだったらね」
母が笑った。
そして未来となり、あの頃の夢は叶った。
リリアーナは、薬指の重みにうっとりしながら瞬いた。
「結婚式は、真っ赤なウェディングドレスが着たいわ」
「流行の白ではないのか? 」
「私は赤がいいわ。赤いドレスを着てザカリス様と式を挙げることが、子供の頃からの夢だったの」
「そうか」
「ザカリス様の夢はなあに? 」
二人は互いの心拍がわかるくらい密着し、肩を寄せ合った。
熱を孕んだシャツは汗でぐっしょりと湿気っている。
「俺か? 俺は、子供が欲しいな」
ザカリスは彼方に視線をやった。
「男と女、それぞれ五人づつ」
リリアーナの目が丸くなる。
「十人! 子沢山がお望みなのね」
「ああ。俺の母は体が弱くて、俺しか子を成せなかったからな」
「ザカリス様と、子供達に囲まれた生活。賑やかで楽しそうだわ」
医療がめまぐるしく発達したといえど、未だに出産で命を落とす者はいる。
だが、リリアーナには何故か見えた。ザカリスとの子供十人、賑やかに走り回っている未来が。
「もし生きて帰れるなら」
リリアーナは呟く。
「ザカリスさまと逢引きがしたいわ」
彼とは結局、逢引き出来なかった。
「バークレイ劇場でお芝居が見たいわ。劇場オーナー兼俳優のジミー・シュバイツァーが、とても素敵だと評判なのよ」
「おい。俺がいながら」
「嫉妬しないで。シュバイツァー氏は結婚していて、奥様を溺愛していると専らの評判よ」
「あの女たらしがか? 劇団の女を二人も孕ませた男だぞ」
「後々、誤解だってわかったじゃない」
「俺よりも、その男が良いのか? 」
「そんなわけないでしょ。私はザカリス様一筋なのに」
他の男の影など、ちらついたことすらない。
「そうか。リリアーナ。俺もきっと、お前のことを昔から愛していたんだろうな。自覚がないだけで」
「自覚するまで、随分とかかったわね」
「その分、お前の魅力をたっぷり知ったからな」
「来世でも、あなたの奥さんでいたいわ」
「ああ。俺もだよ」
ザカリスの吐息に混じる声に、リリアーナは瞼を閉じた。
最早、逃げることは不可能。
それならば、夢を見たままで眠りたい。
隣には愛してやまない男。
これ以上の幸福はない。
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