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暗中模索

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「リリアーナがいないんだ! 」
 ザカリスは頭を掻きむしるなり、その場に蹲って吠えた。
 伯爵邸の特別室に戻ったザカリスは、部屋がも抜けの殻であることに絶望した。
 彼はすぐさま、リリアーナが攫われたと判断する。
 攫った者も見当がついた。
 ザカリスはすぐさま目撃者を探したが、仮面舞踏会もそろそろ終盤に差し掛かり、舞踏会というよりも男女の性交に重点を置いている者ばかりしかいない。というか、最初からそれが目的の集まりだ。強い酒で酩酊し、半裸で睦合う者たちとは会話にならない。
 屋敷の使用人といえば、何やらトラブルであたふたしており、これまた話にならない。
 主催者のブライス伯爵は屋敷から姿を消して、留守を預かる弟すら、どこかへ行ってしまった。
 絶望感で発狂しかねないまま、取り敢えずロナルド邸へと引き返した。
 ザカリスの帰りが遅いとリリアーナが拗ねて、先に戻っていることを期待しながら。
 だが、ザカリスはどん底に突き落とされた。
「落ち着いて、兄さん」
 蹲るザカリスの背中を、ユリアンはそっと撫でた。
「これが落ち着けるか! 」
 キレ気味で怒鳴るザカリス。
 ユリアンに八つ当たりしても仕方ないのは承知しているが、声を張っていなければ狂ってしまう。
 ザカリスは、頭を掻きむしった。
 

 闇雲にリリアーナの当てを探すものの、消息は未だにわからない。
 気づけば、夜が明けてもう正午近くだ。
 ザカリスは昨夜の燕尾服のまま、髪は乱れ、髭すら剃らずにいたので顎には髭がうっすら生えて、いつも糊をきかせているシャツはもう皺だらけ。頬はこけて、ぼろぼろだった。
 一晩中、リリアーナの行方を探した。
 賭博場、劇場の楽屋、場末の売春宿、阿片窟にまで足を伸ばしたが、リリアーナはいない。
 阿片窟では空気そのものが甘ったるい危険極まりない香りをしており、ハンカチで鼻を押さえたものの隙間からつい吸い込んでしまったため、頭がふらつく。寝不足まで重なり、体調は最悪だ。
 ザカリスは、ぐったりとソファに沈んだ。
「ロイのアホは、あれからマチルダ嬢と結婚式なぞ挙げて。俺はこんなに大変なのに。忌々しい! 」
 蝶ネクタイを床に叩きつける。
「他所様の幸せを貶めては駄目よ」
 ユリアンは困った顔で溜め息をつく。
「わかってる! 」
 だが、片や幸せの絶頂にいる男。片や、こちらは絶望の淵に立たされている。
「ロイに頼めば、伝手を頼って見つかるかも知れないのに。あいつは、今頃はベッドでよろしくやっているんだ! くそっ! 」
 ザカリスは床に落ちた蝶ネクタイを靴先で踏みつけ、にじった。
 腐れ縁の友人が生涯を共にする相手と結ばれたのだ。しかも、らしくなく女にのめり込んでいる。仮面舞踏会で暴れ狂った後、深酒をして酔っ払い、泣き上戸でいかにマチルダ嬢が素晴らしい女であるか延々と聞かされた。
 何かにつけて自信満々で胸を張るロイをこれほど掻き乱す女がいることに、正直、驚きを隠せない。
 ようやく理想とする相手を射止めた友人を祝福してやらねばならないが。
 生憎とザカリスには、そこまでの器は今はない。
「……下世話な妄想はやめろ、ロナルド」
 不意に低音が割った。

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