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ショコラの味わい方1
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伯爵家には、特別室と言うものが存在する。
血筋を辿れば王家へと行き着く高貴な身分。
かつては王族の何某がお忍びで屋敷を訪ねたらしい。
愛人との密会場所として。
特別室はそのために用意された場らしい。
代を重ねるごとに、王家との関係も次第に薄れ、今では滅多に使われない部屋として存在する。
最近になって、伯爵が老朽化したその部屋に手を加えたことで、かなり優美で豪華さを取り戻したと仲間内に自慢している。
「まあ! 素敵な部屋! 」
リリアーナは感嘆の溜め息をつく。
白い壁が鮮やかで、金細工が見事なロカイユ装飾の家具。中央に置かれた天蓋ベッドはキングサイズで、植物や貝殻のような繊細な細工は、一流の職人のものであることが一目でわかる。
大広間のものを小型にした、ゴージャスなシャンデリア。
金の縁取りがなされた壁一面の絵画。暗い夜の海で、岩に座り込み、黄金色に波打つ長い髪を掻き上げる人魚。銀色の満月の光に照らされたその姿は、息を呑むほどの美しさ。
ザカリスは燕尾服の上着の袖を抜きながら、迷うことなくスタスタとベッドへ向かった。
「お前をこの部屋に閉じ込めておけば、レイラには狙われないことに気づいた」
つまり、パーティーが終わるまでこの部屋でやり過ごせと言いたいのだ。
レイラからの魔の手が気になるものの、リリアーナもれっきとした女子。今まで壁の花として誰からもダンスに誘われなかったが、ようやくその機が訪れたのだ。
しかも相手は夢にまで見たザカリス。
「わ、私。まだ一度もダンスをしていないわ」
「なら、俺がここで相手をしよう」
「こ、ここで? 」
「不服か? 俺が相手では」
「い、いえ。ザカリス様が相手で、不満なんてあるわけないじゃない。でも」
「でも? 」
「大広間で踊りたいわ」
「それは、レイラの件が解決してからだ」
ダンスの最中に狙われないとは限らない。
公衆の面前で銃をぶっ放したレイラだ。
何が起きるかわからない。
リリアーナは己の頬をピシャリと叩くと、浮かれていた気分を引き締める。
「そ、そうね。下手に皆んなの前に出たら、何が起こるか」
「いやに物分かりが良いな」
ザカリスは拍子抜けしたように目を見開いた。
リリアーナとて、いつまでも我儘な子供ではない。
ザカリスにすっと手を差し伸べる。
ザカリスは片膝をつき、恭しくその手の甲に軽く唇を触れた。
「お嬢さん。一曲、お願いします」
「ええ。喜んで」
リリアーナは艶然と微笑む。
楽団の音色は大広間で奏でられているために、渡り廊下を挟んだ客室が入る隣の棟までは届かない。
だが、リリアーナの耳には確かにワルツのしらべが鳴り響いていた。
血筋を辿れば王家へと行き着く高貴な身分。
かつては王族の何某がお忍びで屋敷を訪ねたらしい。
愛人との密会場所として。
特別室はそのために用意された場らしい。
代を重ねるごとに、王家との関係も次第に薄れ、今では滅多に使われない部屋として存在する。
最近になって、伯爵が老朽化したその部屋に手を加えたことで、かなり優美で豪華さを取り戻したと仲間内に自慢している。
「まあ! 素敵な部屋! 」
リリアーナは感嘆の溜め息をつく。
白い壁が鮮やかで、金細工が見事なロカイユ装飾の家具。中央に置かれた天蓋ベッドはキングサイズで、植物や貝殻のような繊細な細工は、一流の職人のものであることが一目でわかる。
大広間のものを小型にした、ゴージャスなシャンデリア。
金の縁取りがなされた壁一面の絵画。暗い夜の海で、岩に座り込み、黄金色に波打つ長い髪を掻き上げる人魚。銀色の満月の光に照らされたその姿は、息を呑むほどの美しさ。
ザカリスは燕尾服の上着の袖を抜きながら、迷うことなくスタスタとベッドへ向かった。
「お前をこの部屋に閉じ込めておけば、レイラには狙われないことに気づいた」
つまり、パーティーが終わるまでこの部屋でやり過ごせと言いたいのだ。
レイラからの魔の手が気になるものの、リリアーナもれっきとした女子。今まで壁の花として誰からもダンスに誘われなかったが、ようやくその機が訪れたのだ。
しかも相手は夢にまで見たザカリス。
「わ、私。まだ一度もダンスをしていないわ」
「なら、俺がここで相手をしよう」
「こ、ここで? 」
「不服か? 俺が相手では」
「い、いえ。ザカリス様が相手で、不満なんてあるわけないじゃない。でも」
「でも? 」
「大広間で踊りたいわ」
「それは、レイラの件が解決してからだ」
ダンスの最中に狙われないとは限らない。
公衆の面前で銃をぶっ放したレイラだ。
何が起きるかわからない。
リリアーナは己の頬をピシャリと叩くと、浮かれていた気分を引き締める。
「そ、そうね。下手に皆んなの前に出たら、何が起こるか」
「いやに物分かりが良いな」
ザカリスは拍子抜けしたように目を見開いた。
リリアーナとて、いつまでも我儘な子供ではない。
ザカリスにすっと手を差し伸べる。
ザカリスは片膝をつき、恭しくその手の甲に軽く唇を触れた。
「お嬢さん。一曲、お願いします」
「ええ。喜んで」
リリアーナは艶然と微笑む。
楽団の音色は大広間で奏でられているために、渡り廊下を挟んだ客室が入る隣の棟までは届かない。
だが、リリアーナの耳には確かにワルツのしらべが鳴り響いていた。
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