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雨後の空※
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降り続く雨の音が途絶えた。
ハアハアと荒々しい息が狭い室内ひっきりなしに繰り返されている。
リリアーナはザカリスと共に床に敷いたドレスに横たわりながら、彼の胸に頭を乗せる。やや速めの心音に耳を澄ませた。
「ねえ、ザカリス様」
「何だ」
相変わらず返事がぞんざいだ。
挫けそうになったが、リリアーナは続けた。
「本当に私はザカリス様のお嫁さんになるのね? 」
「……」
「ちょっと。話が違うわ」
「いや。嫁には貰う。お前をどこぞの男にくれてやる気はない」
「本当なのね! 」
たちまちリリアーナの顔が華やぐ。
対するザカリスは憂えた。
「だが、そうなっては、お前を危険な目に遭わせてしまう」
おそらく、ザカリスに言い寄るうるさい令嬢らのことを言っているのだ。
現に、あのレイラも愛人を通してこうして嫌がらせをしてきた。
ブライス伯爵あたりなら、飄々と令嬢らの猛烈な視線をかわして、問題なく火遊びを楽しんでいるだろうが。
ザカリスは、不器用そうだ。
「大丈夫。私がザカリス様をお守りしますから」
「いや。そうではなくて。危険な目に遭うのは、お前であって」
「大丈夫です。私、これでも頑丈な方ですから」
「あ、ああ。うん」
歯切れ悪くザカリスは頷いた。
蝋燭は、長さが最初に比べて半分ほどに減っている。
おそらく、とっくに日が暮れている頃だ。
このような真っ暗闇に馬を走らせるわけにはいかない。使用人らが助けに来るのは、夜が明けてから。当分、来そうにない。
そう判断したリリアーナは、まだ素肌を晒して愚図愚図している。
ザカリスもリリアーナに足を絡められ、密着されて身動きが取れない。
互いの素肌の熱を感じながら、今までザカリスが回避していた話題を吶々と口に出す。
「夢のようだわ。リリアーナ・メイジャーになる日が来るなんて」
リリアーナはうっとりと、睫毛を瞬かせる。
「まだ早いだろ。まずは、お前の両親の承諾を取らなければならないし」
ザカリスはニコリともせず、素っ気なく答えた。
「お父様もお母様も、きっとお喜びになるわ」
「結婚証明書の発行にも、時間を要するし」
「司祭様のお尻を叩いて、急がせて」
「無茶言うな」
ザカリスが不機嫌そうに眉を寄せた。
「それに、式を挙げて司祭の前で誓って、初めて夫婦になれるんだ。まだまだ先は長い」
「まどろっこしいわ。私は今すぐにでもザカリス様のお嫁さんになりたいのに」
「貴族の習わしだ。諦めろ」
待ち切れなかったり、結婚を反対された恋人同士が駆け落ち婚をやらかすのは知っている。辺境地に駆け込み、鍛冶屋が務める司祭の前で誓って、晴れて夫婦となる。
だが、リリアーナは家族に祝福されてザカリスと結ばれたい。
それならば、ジッと待つしかない。
雨の音はすっかりなくなっている。
初夏といえど、まだ夜の空気はひんやりしている。
こうしてザカリスと密着していれば充分暖を取れるが、照れ臭さからか彼が顔を背けているので、何だか物寂しい。
だからリリアーナは、身を起こすや、ザカリスに跨り臍の上に乗った。
こうすれば、幾ら顔を背けようと横顔は見える。
リリアーナは彼のすっと通った鼻筋に目線を落とした。
「ねえ。いつから、私のことを想ってくださっていたの? 」
「何? 」
「だってザカリス様ったら、全くそんな素振りは見せないし」
くりくりと灰褐色の目玉で凝視すれば、ザカリスは苦々しく顔を歪めて真正面を向いた。
「あれほどしつこく迫られて、意識しない方がおかしいだろ」
そして、今もちゃんと意識している。
全て吐き出したはずなのに、リリアーナの尾てい骨をもう猛々しく叩いてくる。
「今まで俺が干渉すれば恥ずかしそうに俯いていたくせに。突如、人が変わったように」
「それはザカリス様もよ。それまでは、あれほどお優しい方だったのに」
「これが俺の本性だ。今まではお前を労っていただけだ」
「あくまで妹として? 」
「ああ。抱きたいなんて、思いもしなかった」
しかし、今は違う。
リリアーナが腰を浮かせば、すぐさま彼女の入り口を探り当てて潜り込んだ。
「あ、ああ! 」
リリアーナは背を反らす。
子宮の海を泳ぎ損ねたザカリスの幾つかはまだ膣内に留まり、再びの侵入に押し出され、白く泡立って彼の臍を汚した。
ザカリスはお構いなしで、さらにそれを押し出す。ぐりぐりと深く潜ればもぐるほど、白濁がぷしゅう、と漏れ出す。
新旧入り混ぜることを目的としたザカリスは、リリアーナの膣内を痛いほど掻き回した。
「ああ。まだ夜が明けて欲しくないわ」
ユリアンはきっと泣き腫らした顔で、リリアーナらの帰りを待ち侘びている。
しかし、不謹慎だとわかりつつも、リリアーナはザカリスをもっと堪能したくて仕方なかった。余韻など味わっている場合ではない。
「……俺もだ」
リリアーナの罪悪感は、ザカリスのその一言で遠くへと飛ばされた。
ハアハアと荒々しい息が狭い室内ひっきりなしに繰り返されている。
リリアーナはザカリスと共に床に敷いたドレスに横たわりながら、彼の胸に頭を乗せる。やや速めの心音に耳を澄ませた。
「ねえ、ザカリス様」
「何だ」
相変わらず返事がぞんざいだ。
挫けそうになったが、リリアーナは続けた。
「本当に私はザカリス様のお嫁さんになるのね? 」
「……」
「ちょっと。話が違うわ」
「いや。嫁には貰う。お前をどこぞの男にくれてやる気はない」
「本当なのね! 」
たちまちリリアーナの顔が華やぐ。
対するザカリスは憂えた。
「だが、そうなっては、お前を危険な目に遭わせてしまう」
おそらく、ザカリスに言い寄るうるさい令嬢らのことを言っているのだ。
現に、あのレイラも愛人を通してこうして嫌がらせをしてきた。
ブライス伯爵あたりなら、飄々と令嬢らの猛烈な視線をかわして、問題なく火遊びを楽しんでいるだろうが。
ザカリスは、不器用そうだ。
「大丈夫。私がザカリス様をお守りしますから」
「いや。そうではなくて。危険な目に遭うのは、お前であって」
「大丈夫です。私、これでも頑丈な方ですから」
「あ、ああ。うん」
歯切れ悪くザカリスは頷いた。
蝋燭は、長さが最初に比べて半分ほどに減っている。
おそらく、とっくに日が暮れている頃だ。
このような真っ暗闇に馬を走らせるわけにはいかない。使用人らが助けに来るのは、夜が明けてから。当分、来そうにない。
そう判断したリリアーナは、まだ素肌を晒して愚図愚図している。
ザカリスもリリアーナに足を絡められ、密着されて身動きが取れない。
互いの素肌の熱を感じながら、今までザカリスが回避していた話題を吶々と口に出す。
「夢のようだわ。リリアーナ・メイジャーになる日が来るなんて」
リリアーナはうっとりと、睫毛を瞬かせる。
「まだ早いだろ。まずは、お前の両親の承諾を取らなければならないし」
ザカリスはニコリともせず、素っ気なく答えた。
「お父様もお母様も、きっとお喜びになるわ」
「結婚証明書の発行にも、時間を要するし」
「司祭様のお尻を叩いて、急がせて」
「無茶言うな」
ザカリスが不機嫌そうに眉を寄せた。
「それに、式を挙げて司祭の前で誓って、初めて夫婦になれるんだ。まだまだ先は長い」
「まどろっこしいわ。私は今すぐにでもザカリス様のお嫁さんになりたいのに」
「貴族の習わしだ。諦めろ」
待ち切れなかったり、結婚を反対された恋人同士が駆け落ち婚をやらかすのは知っている。辺境地に駆け込み、鍛冶屋が務める司祭の前で誓って、晴れて夫婦となる。
だが、リリアーナは家族に祝福されてザカリスと結ばれたい。
それならば、ジッと待つしかない。
雨の音はすっかりなくなっている。
初夏といえど、まだ夜の空気はひんやりしている。
こうしてザカリスと密着していれば充分暖を取れるが、照れ臭さからか彼が顔を背けているので、何だか物寂しい。
だからリリアーナは、身を起こすや、ザカリスに跨り臍の上に乗った。
こうすれば、幾ら顔を背けようと横顔は見える。
リリアーナは彼のすっと通った鼻筋に目線を落とした。
「ねえ。いつから、私のことを想ってくださっていたの? 」
「何? 」
「だってザカリス様ったら、全くそんな素振りは見せないし」
くりくりと灰褐色の目玉で凝視すれば、ザカリスは苦々しく顔を歪めて真正面を向いた。
「あれほどしつこく迫られて、意識しない方がおかしいだろ」
そして、今もちゃんと意識している。
全て吐き出したはずなのに、リリアーナの尾てい骨をもう猛々しく叩いてくる。
「今まで俺が干渉すれば恥ずかしそうに俯いていたくせに。突如、人が変わったように」
「それはザカリス様もよ。それまでは、あれほどお優しい方だったのに」
「これが俺の本性だ。今まではお前を労っていただけだ」
「あくまで妹として? 」
「ああ。抱きたいなんて、思いもしなかった」
しかし、今は違う。
リリアーナが腰を浮かせば、すぐさま彼女の入り口を探り当てて潜り込んだ。
「あ、ああ! 」
リリアーナは背を反らす。
子宮の海を泳ぎ損ねたザカリスの幾つかはまだ膣内に留まり、再びの侵入に押し出され、白く泡立って彼の臍を汚した。
ザカリスはお構いなしで、さらにそれを押し出す。ぐりぐりと深く潜ればもぐるほど、白濁がぷしゅう、と漏れ出す。
新旧入り混ぜることを目的としたザカリスは、リリアーナの膣内を痛いほど掻き回した。
「ああ。まだ夜が明けて欲しくないわ」
ユリアンはきっと泣き腫らした顔で、リリアーナらの帰りを待ち侘びている。
しかし、不謹慎だとわかりつつも、リリアーナはザカリスをもっと堪能したくて仕方なかった。余韻など味わっている場合ではない。
「……俺もだ」
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