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戒めのキス
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リリアーナは深呼吸を二度繰り返してから、ザカリスを見据えた。
「わ、わかりました。では、目を閉じてください」
「お、おお」
ザカリスが言われた通りにギュッと目を閉じて、歯を食い縛った。あまりにきつく目を閉じるものだから、目尻に皺が寄ってしまっている。
「か、覚悟はよろしいのですね? 」
「あ、ああ。いつでも来い」
「では、いきますよ」
リリアーナは唾を飲み下した。
彼の顔が間近にある。
ザカリスへの闇雲な愛の告白をするようになってから、逆に彼との間に分厚い壁が出来てしまった。
それでも、今までのように恋愛未満のままよりかは、リリアーナという存在を意識された方がマシだと、そのまま突っ走ってきた。
ザカリスはいつも警戒心丸出しでリリアーナに接する。
だから、今、無防備に目を閉じている彼を前にして、リリアーナは舞い上がってしまったのだ。
リリアーナは拳の代わりに、彼の頬にキスを仕掛けた。
「リ、リリアーナ? 」
覚悟していた痛みではなく、軽く啄む感触に、ザカリスはこの上なく目を見開き、声を裏返した。
「大好きな顔がボコボコになるのを喜ぶほど、私は愚かではないわ」
拗ねて口を尖らせるリリアーナ。
ザカリスを殴るなんて出来るわけがない。
「……これが、お前の戒めか? 」
「ええ」
自分からキスを仕掛けるなんて、はしたない。彼とはもっと凄いことをしたが、あくまであれは受け身。
リリアーナは己のあまりの大胆さに、耳朶を赤く染めて俯いた。
「では、甘んじて受け止める」
ザカリスはニヤリと人の悪い笑みを浮かべるなり、今度は自分からリリアーナの唇を塞ぎに掛かった。
彼自らが進んでリリアーナの唇に己の唇を重ねるといった事実に、リリアーナは脳が理解出来ず、薄もやが張ったまま、相手のなすがまま。
ねっとりと輪郭をなぞるザカリスは、リリアーナが息を吸いやすいように初めこそ気遣っていたが、やがて口腔内に侵入して舌が絡み合うと、余裕をなくしたように動きは性急になる。
まるで生き物のように蹂躙し、熱がどんどん上がっていく。
ぴちゃぴちゃと水音を立てて、互いの唾液が絡んだ。
ザカリスの舌がリリアーナの喉奥を攻め入ったときには、彼の逞しいその腕がリリアーナの腰に巻きつき、密着していた。
リリアーナは自然とザカリスの背中に手を回して、さらにその度合いを高める。
「ザカリス様、ちょっと」
彼の体がくっついたことで、起こっている変化に気づく。
思わず唇を外してしまった。
キスを中断されたザカリスは、鼻から不満の息を吐いた。リリアーナが言いたいことは、しっかり伝わっているらしい。
「黙ってろ。生理現象だ」
「わ、私には性欲が湧かないのでしょう? 」
「誰がそんなこと言ったんだ」
「だって。ご自分で」
「お前を抱いておいて、今更か? 」
言いながら、彼は膨張した下半身をリリアーナの臍に押し付けてきた。
トラウザー越しでもわかるその形状に、リリアーナはたちまち赤面する。
その反応に、ザカリスは喉を鳴らした。
リリアーナが恥ずかしがっているのを楽しんでいるのだ。
「だ、駄目」
筋肉の詰まった硬い胸板を押せども、びくともしない。
伯爵ほどではないが、ザカリスも鍛え抜かれている。どうやら着痩せするタイプらしい。
「人が通るわ」
男女が必要以上に体を密着させているのを、誰かに見られでもしたら。
たちまち、今夜どこかで催されるパーティーのネタにされてしまう。ザカリスは後ろを向き、その彼にすっぽり覆われているために相手が誰だかは判別出来ないものの、背の高さや身につける服装で彼だと見抜かれないともいえない。
「見せつけてやれ」
とんでもない台詞。
もう、わけがわからない。
「ザカリス様。おかしいわ。私を拒絶したかと思えば。こんな……こんな……」
「制御出来なくなってきているんだ。お前のせいだ、リリアーナ」
苦しそうに呻くと、ザカリスはリリアーナの首筋に顔を埋め、微かに震えた。必死に欲望と闘っている。
「わ、私のせい? 」
「ああ。あんな色気丸出しの下着など身につけるから。だから、俺は……」
「ザカリス様」
彼を呼ぶ声が、躊躇いから恍惚へと息遣いを変化した。
少しは女として見てくれていると言うことだろうか。
全身を巡る血液がまるで沸騰するかのように熱い。どくどくと内側から叩いて、心臓に到達する頃には鼓膜が痛いくらいに響かせていた。
「ザカリス様」
今度は彼を誘うために呼ぶ。
リリアーナは、先日の交わりを思い起こした。
「わ、わかりました。では、目を閉じてください」
「お、おお」
ザカリスが言われた通りにギュッと目を閉じて、歯を食い縛った。あまりにきつく目を閉じるものだから、目尻に皺が寄ってしまっている。
「か、覚悟はよろしいのですね? 」
「あ、ああ。いつでも来い」
「では、いきますよ」
リリアーナは唾を飲み下した。
彼の顔が間近にある。
ザカリスへの闇雲な愛の告白をするようになってから、逆に彼との間に分厚い壁が出来てしまった。
それでも、今までのように恋愛未満のままよりかは、リリアーナという存在を意識された方がマシだと、そのまま突っ走ってきた。
ザカリスはいつも警戒心丸出しでリリアーナに接する。
だから、今、無防備に目を閉じている彼を前にして、リリアーナは舞い上がってしまったのだ。
リリアーナは拳の代わりに、彼の頬にキスを仕掛けた。
「リ、リリアーナ? 」
覚悟していた痛みではなく、軽く啄む感触に、ザカリスはこの上なく目を見開き、声を裏返した。
「大好きな顔がボコボコになるのを喜ぶほど、私は愚かではないわ」
拗ねて口を尖らせるリリアーナ。
ザカリスを殴るなんて出来るわけがない。
「……これが、お前の戒めか? 」
「ええ」
自分からキスを仕掛けるなんて、はしたない。彼とはもっと凄いことをしたが、あくまであれは受け身。
リリアーナは己のあまりの大胆さに、耳朶を赤く染めて俯いた。
「では、甘んじて受け止める」
ザカリスはニヤリと人の悪い笑みを浮かべるなり、今度は自分からリリアーナの唇を塞ぎに掛かった。
彼自らが進んでリリアーナの唇に己の唇を重ねるといった事実に、リリアーナは脳が理解出来ず、薄もやが張ったまま、相手のなすがまま。
ねっとりと輪郭をなぞるザカリスは、リリアーナが息を吸いやすいように初めこそ気遣っていたが、やがて口腔内に侵入して舌が絡み合うと、余裕をなくしたように動きは性急になる。
まるで生き物のように蹂躙し、熱がどんどん上がっていく。
ぴちゃぴちゃと水音を立てて、互いの唾液が絡んだ。
ザカリスの舌がリリアーナの喉奥を攻め入ったときには、彼の逞しいその腕がリリアーナの腰に巻きつき、密着していた。
リリアーナは自然とザカリスの背中に手を回して、さらにその度合いを高める。
「ザカリス様、ちょっと」
彼の体がくっついたことで、起こっている変化に気づく。
思わず唇を外してしまった。
キスを中断されたザカリスは、鼻から不満の息を吐いた。リリアーナが言いたいことは、しっかり伝わっているらしい。
「黙ってろ。生理現象だ」
「わ、私には性欲が湧かないのでしょう? 」
「誰がそんなこと言ったんだ」
「だって。ご自分で」
「お前を抱いておいて、今更か? 」
言いながら、彼は膨張した下半身をリリアーナの臍に押し付けてきた。
トラウザー越しでもわかるその形状に、リリアーナはたちまち赤面する。
その反応に、ザカリスは喉を鳴らした。
リリアーナが恥ずかしがっているのを楽しんでいるのだ。
「だ、駄目」
筋肉の詰まった硬い胸板を押せども、びくともしない。
伯爵ほどではないが、ザカリスも鍛え抜かれている。どうやら着痩せするタイプらしい。
「人が通るわ」
男女が必要以上に体を密着させているのを、誰かに見られでもしたら。
たちまち、今夜どこかで催されるパーティーのネタにされてしまう。ザカリスは後ろを向き、その彼にすっぽり覆われているために相手が誰だかは判別出来ないものの、背の高さや身につける服装で彼だと見抜かれないともいえない。
「見せつけてやれ」
とんでもない台詞。
もう、わけがわからない。
「ザカリス様。おかしいわ。私を拒絶したかと思えば。こんな……こんな……」
「制御出来なくなってきているんだ。お前のせいだ、リリアーナ」
苦しそうに呻くと、ザカリスはリリアーナの首筋に顔を埋め、微かに震えた。必死に欲望と闘っている。
「わ、私のせい? 」
「ああ。あんな色気丸出しの下着など身につけるから。だから、俺は……」
「ザカリス様」
彼を呼ぶ声が、躊躇いから恍惚へと息遣いを変化した。
少しは女として見てくれていると言うことだろうか。
全身を巡る血液がまるで沸騰するかのように熱い。どくどくと内側から叩いて、心臓に到達する頃には鼓膜が痛いくらいに響かせていた。
「ザカリス様」
今度は彼を誘うために呼ぶ。
リリアーナは、先日の交わりを思い起こした。
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