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天国から地獄へ
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ザカリスから呼び出されるなんて、天変地異としか言いようがない。
伯爵邸での一件以来、二人の間に何らかの変化がもたらされたかと言えば。
全く変化の兆しはなかった。
彼は相変わらず素っ気ない。
むしろ、避けられている。
リリアーナがロナルド邸を訪ねるたびに、居留守を使われてしまう。
リリアーナがザカリスに直情的な愛の押し付けをする以前は、彼は気前よく屋敷に迎え入れてくれていた。
外国のクッキーが手に入ったよ。
リリアーナが愛読している作者の新刊だよ。
移動動物園が来ているから、連れてあげよう。
まるで、小さな子供をあやすかのように。
それが、リリアーナの愛に重みが増したと同時に、ザカリスは冷淡な態度を見せるようになった。
リリアーナがザカリスに会いに来れば、玄関に鍵を掛けて締め出そうとする始末。
「ザカリス様! 開けてくださいな! 」
「やかましい! 帰れ! 」
「まあ! わざと意地悪をして、私の気を引きたいのですね! 」
「そんなわけあるか! 」
これが最早、通常となりつつある。
「仕方がない人ね。本当はリリアーナが来ることを歓迎しているくせに」
などと、そのたびにユリアンは呆れ顔だ。
それが今日、何と、久々に相手の方から呼びつけたのだ。
ザカリスに一体、どのような心境の変化があったのかは謎だが。
リリアーナはもう飛び跳ねんばかりに、ロナルド邸の屋敷の門をくぐった。
リリアーナの浮き浮きする気分が一気に沈んだのは、執務室で机を挟んで彼と対面したときだ。
ザカリスは黙って、書類の散らかった上に男性の名前や地位などが詳細に記入された紙をずらりと並べた。
「……これは? 」
言いつつ、リリアーナはそれが何であるかは、すぐに理解出来た。
「好きなやつを選べ」
ザカリスはぶっきらぼうに言い捨てる。
リリアーナは作り笑いを浮かべ、頑張って口角を上げた。
「あの、ザカリス様? これはどう見ても、身上書では? 」
「どう見なくても、そうだ」
「あの? これと私と何の関係が? 」
「お前の見合い候補だ」
言うなり、何枚かに目を落とす。
「マーロウ子爵など、どうだ? 」
「嫌よ。背が低いもの」
「コーンウォール男爵は? 」
「おじいちゃんよ」
「ジャイロ氏は? 醸造所のオーナーだ」
「太り過ぎ」
「それなら、誰が良いんだ? 」
やれやれ、などとザカリスはわざとらしく肩を竦めてみせる。
あくまで保護者面。
リリアーナは、頭の血管がブチ切れる音を確かに聞いた。
それまでは、どんな仕打ちでも耐えてみせると踏ん張っていたが、今回ばかりは我慢の限界だった。
ザカリスは、リリアーナが傷つかないと思っているのだろうか。
慕う相手から、他の男を紹介されるなんて。
「酷いわ! 私の気持ちを知ってるくせに! 」
たちまち、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちる。
怒りで顔が真っ赤になって、それだけでは済まず、バンと机を平手で叩いてしまう。
びくり、とザカリスが肩を揺すった。
甘ったれて言い寄るか、めそめそと泣くか。そのどちらかしか見せなかったリリアーナの、あまりの怒りように、さすがにザカリスは戸惑って石化した。
「ザカリス様なんて、嫌いよ! 」
初めて彼に向けた言葉だ。
決して本心ではない。
悔しいが、それでも彼のことは嫌いにはなれない。
だが、言わずにはいられなかった。
リリアーナは、ザカリスのことを嫌いになりたくてもなれないジレンマに頭がめちゃくちゃで、しかも涙で化粧が落ちたぐしゃぐしゃの顔を見られたくなくて。
身を翻すや、一目散にロナルド邸を後にした。
伯爵邸での一件以来、二人の間に何らかの変化がもたらされたかと言えば。
全く変化の兆しはなかった。
彼は相変わらず素っ気ない。
むしろ、避けられている。
リリアーナがロナルド邸を訪ねるたびに、居留守を使われてしまう。
リリアーナがザカリスに直情的な愛の押し付けをする以前は、彼は気前よく屋敷に迎え入れてくれていた。
外国のクッキーが手に入ったよ。
リリアーナが愛読している作者の新刊だよ。
移動動物園が来ているから、連れてあげよう。
まるで、小さな子供をあやすかのように。
それが、リリアーナの愛に重みが増したと同時に、ザカリスは冷淡な態度を見せるようになった。
リリアーナがザカリスに会いに来れば、玄関に鍵を掛けて締め出そうとする始末。
「ザカリス様! 開けてくださいな! 」
「やかましい! 帰れ! 」
「まあ! わざと意地悪をして、私の気を引きたいのですね! 」
「そんなわけあるか! 」
これが最早、通常となりつつある。
「仕方がない人ね。本当はリリアーナが来ることを歓迎しているくせに」
などと、そのたびにユリアンは呆れ顔だ。
それが今日、何と、久々に相手の方から呼びつけたのだ。
ザカリスに一体、どのような心境の変化があったのかは謎だが。
リリアーナはもう飛び跳ねんばかりに、ロナルド邸の屋敷の門をくぐった。
リリアーナの浮き浮きする気分が一気に沈んだのは、執務室で机を挟んで彼と対面したときだ。
ザカリスは黙って、書類の散らかった上に男性の名前や地位などが詳細に記入された紙をずらりと並べた。
「……これは? 」
言いつつ、リリアーナはそれが何であるかは、すぐに理解出来た。
「好きなやつを選べ」
ザカリスはぶっきらぼうに言い捨てる。
リリアーナは作り笑いを浮かべ、頑張って口角を上げた。
「あの、ザカリス様? これはどう見ても、身上書では? 」
「どう見なくても、そうだ」
「あの? これと私と何の関係が? 」
「お前の見合い候補だ」
言うなり、何枚かに目を落とす。
「マーロウ子爵など、どうだ? 」
「嫌よ。背が低いもの」
「コーンウォール男爵は? 」
「おじいちゃんよ」
「ジャイロ氏は? 醸造所のオーナーだ」
「太り過ぎ」
「それなら、誰が良いんだ? 」
やれやれ、などとザカリスはわざとらしく肩を竦めてみせる。
あくまで保護者面。
リリアーナは、頭の血管がブチ切れる音を確かに聞いた。
それまでは、どんな仕打ちでも耐えてみせると踏ん張っていたが、今回ばかりは我慢の限界だった。
ザカリスは、リリアーナが傷つかないと思っているのだろうか。
慕う相手から、他の男を紹介されるなんて。
「酷いわ! 私の気持ちを知ってるくせに! 」
たちまち、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちる。
怒りで顔が真っ赤になって、それだけでは済まず、バンと机を平手で叩いてしまう。
びくり、とザカリスが肩を揺すった。
甘ったれて言い寄るか、めそめそと泣くか。そのどちらかしか見せなかったリリアーナの、あまりの怒りように、さすがにザカリスは戸惑って石化した。
「ザカリス様なんて、嫌いよ! 」
初めて彼に向けた言葉だ。
決して本心ではない。
悔しいが、それでも彼のことは嫌いにはなれない。
だが、言わずにはいられなかった。
リリアーナは、ザカリスのことを嫌いになりたくてもなれないジレンマに頭がめちゃくちゃで、しかも涙で化粧が落ちたぐしゃぐしゃの顔を見られたくなくて。
身を翻すや、一目散にロナルド邸を後にした。
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