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淫らな夢を見る2※

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 リリアーナが、甘い夢が淫らになっていることに気づいたのは、薄い布地越しでザカリスから乳首を甘噛みされたときだ。
「な、何をなさるの! 」
 突拍子もないことに、リリアーナは我に返る。
「何って。男女が寝室で、ベッドに寝転がっているんだ。やることは決まってるだろ」
 いらいらとザカリスは早口で言い捨てた。
「だ、だけど」
「今更、怖気づいたのか? 」
「そ、そうではなくて。その」
「ハッキリ言え」
 口籠もるリリアーナに、さらにザカリスは目を眇める。中断されて、苛立たちが増しているのが明らかだ。
「ザカリス様は、私に欲情するのですか? 」
 思い切ってリリアーナは尋ねた。
「わ、私は胸は小さいし、秀でるような容姿でもないし。目がちかちかするくらい赤毛だし」
「お前は美人だよ」
 リリアーナの前髪を指先で掬うザカリスのその顔は、かつて優しく語りかけてきたものだった。リリアーナが恥ずかしそうに顔を赤らめるのを、慈しむ目で見下ろしてきた、あの、胸がじんわりと温かくなるもの。
「こ、このようなときにお世辞ですか? 」
 リリアーナは、彼が理解出来ない。
「夜会にいらした、ゴージャスな美人とは程遠いわ」
「人の好みなんて、それぞれだ」
「ザカリス様も、あのような方を好まれるのでしょう? 」
「勝手に決めるな」
「だって。私にはこれっぽっちも魅力を感じないと」
 ザカリスは己が口走った内容を反芻しているようだった。
 たちまち慈しみが消えて、いつものしかめ面が蘇る。
「あの言葉は……今は忘れろ」
 舌打ちがリリアーナの耳を掠める。
「あっ」
 リリアーナは、鼻から声を抜いた。
「ごちゃごちゃと、うるさい」
 ザカリスの指が、リリアーナの臍の下を円く這い出したからだ。
 まるで体から切り離され、別の個体となったように、ザカリスの指は淫猥な動きをみせ、臍の窪みをなぞったかと思えば、さらに下へ進み、布地からはみ出した薄赤の和毛へ。
 誰にも触れられたことのないそれを、ザカリスは無遠慮に指先で引っ張った。
「ザ、ザカリス様は横暴だわ」
 喘ぎが漏れそうになることを堪えながら、リリアーナは抗議する。
「何? 」
「い、いつだって、私を振り回すんだから」
 経験は全くないものの、淑女として身につけるべきものは一通りは学んでいる。
 だから、彼の目的は見越している。
 魅力を感じていないと言いながら、彼はリリアーナが求めていた行為を今まさに始めようとしているのだ。
 そこのところが、不可解。
「俺を振り回しているのは、お前の方だろ」
 ザカリスは体ごと下方へずらすと、リリアーナの臍に口付けした。
 予想外の刺激に、リリアーナがぴくりと跳ねる。
「大人しい淑女かと思っていたら。急に大胆になって、俺に向けて愛を主張してくるんだからな」
「そ、それは」
 彼を失わないための手段。それを口にしたところで、ますますザカリスの眉間の皺を深めるだけ。
「あっ! いや! 」
 ザカリスはリリアーナの言い訳など、元から聞くつもりはないらしかった。
「ザカリス様! いや! 」
 彼の中指が、リリアーナの裂け目に滑り込んだ。
「ロイのやつめ。まだ馴らしもしていないうちに、突っ込みやがって」
 小指の先ほど伯爵が入ったが、リリアーナは必死に抵抗して鉄壁を崩さなかった。伯爵も、敢えて進もうとしなかった節がある。
「て、貞操は守ったわ」
「ギリギリな。くそっ! 」
 ザカリスは舌打ちするなり、潜り込ませた指を根本まで突き入れる。
「あう! 」
 リリアーナが顎を仰け反らせ、喘いだ。
 まるで何らかの生命体のように、リリアーナの内壁をうねうねと縦横無尽に掻き回す。狭い肉壁を拡げようと。
 抵抗するはずの体は、何故か心とは裏腹に指を取り込もうとぎゅう、と絡みついた。
「あんな凶器で擦られて、傷ついていないか? 」
「あ、ああ……ん」
 微かな痛みが、快楽へと転換されていく。
 指が二本、三本へと増やされ、その度にピリリと引き攣れる痛みはあったものの、リリアーナは、ザカリスの作り出す淫靡な空気に取り込まれ、官能の淵を漂う。
「ザカリス様……」
 甘い吐息に声を混じらせる。
 彼はリリアーナの名を呼んだが、夢現ゆめうつつを彷徨う彼女の耳までは届いていない。
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