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告白
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レイノリアが部屋に戻ってきたときには、すでに夕日が沈んでいく時間帯だった。カーテンを引くと、室内が一気に薄暗くなる。
蝋燭に火を入れたのは、ライナードだ。
「お前に何かあったらって考えただけで」
真後ろからライナードに抱きすくめられ、レイノリアの心臓がどきっと跳ねた。
何度となく妄想したシチュエーションが、現実となっている。
過剰なまでのくっつきようだ。
部下の危険を目の当たりにしてしまったライナードは、心配のあまり、スキンシップの度合いがひどくなっている。
深い意味はないはずだ。
期待に弾む心を必死に落ち着かせようとするものの、夏の気候に晒された体温は高く、触れ合った個所からだんだん上昇していく。
「何もされなかったか? 」
「ベ、別に。何も。ちょっと口と首筋を吸われたくらいで」
「何だと! 」
たちまちライナードの声のトーンが上がる。
言い訳する前に、唇を塞がれてしまっていた。ついばむようなものから、徐々に熱を保って、繋がりは深くなっていく。微かな開きを強引に割って、舌が侵入してくる。歯の裏を舐め、口腔内を蹂躙する傍若無人なそれは、まるで一つの個体のように自在な動きをみせる。
「あっ……」
不意に零れてしまった喘ぎに、発した自身が驚いて、レイノリアは慌てて唇を離す。ジンジンと痺れて痛い。
「ちょ、ちょっと。待って下さい。待って。な、何か頭が混乱して」
とてもじゃないが、これは単なる部下に対しての行為ではない。
レイノリアは恐る恐る、浮かんだ疑問を声に出した。
「あ、あの。隊長は私のことを、その、好き……なんですか……? 」
「……は? 」
あんぐりと口を開け、ライナードは間抜け面を晒す。
「あっ。やっぱり違うんだ」
言わなきゃ良かった。レイノリアは恥ずかしさと惨めさで、泣きたくなった。
「言わなきゃわからんのか? 鈍感にも程があるだろ」
「だって、そんな。わかりませんよ」
ただの部下なら、ハッキリ口にしてほしい。ますます惨めになって、鼻を啜る。
「こうやって、ちゃんと態度で示してるだろうが」
言って、ライナードは再び唇を重ねた。
「好きだよ、レイノリア」
レイノリアの思考が停止する。
「……嘘でしょ」
「何で嘘をつく必要があるんだ」
「だって、そんな素振り見せたことなかったじゃない。え? え? い、いつから? いつから私のことを? 」
思ってもみなかった事態に、悦ぶ余裕などない。おろおろしながら頭を抱えて混乱するレイノリアに対し、困ったようにライナードは指先で頬を掻く。
「いつからって……いつの間にか? 」
ライナードも、はっきりいつからだと返せないらしく、首を捻ってううーんと喉仏を揺する。目を閉じ、ああだこうだと何やら回想し始めた。
「そりゃ、そんな甘ったるい目を毎日毎日向けられちゃ、おかしくなっちまうだろうが」
「あ、甘ったるい目って。何ですか、それ」
かっとレイノリアの顔に火が点く。
ライナードに対し、あくまで部下として振る舞っていたつもりだ。憧れる言動は多々あれど、それを飛び越えた態度を取った覚えはない……はずだ。
ふと、レイノリアの爪先が床を離れた。目線が三十センチばかり高くなる。つむじが天井を掠った。
「な、何を」
まるで米俵でも担ぐかのごとく、ライナードの左肩に抱えられていた。ライナードは鼻歌をうたいながら、のしのしと廊下を大股で通る。
「どんな顔してるか、確認したいんだろ」
蝋燭に火を入れたのは、ライナードだ。
「お前に何かあったらって考えただけで」
真後ろからライナードに抱きすくめられ、レイノリアの心臓がどきっと跳ねた。
何度となく妄想したシチュエーションが、現実となっている。
過剰なまでのくっつきようだ。
部下の危険を目の当たりにしてしまったライナードは、心配のあまり、スキンシップの度合いがひどくなっている。
深い意味はないはずだ。
期待に弾む心を必死に落ち着かせようとするものの、夏の気候に晒された体温は高く、触れ合った個所からだんだん上昇していく。
「何もされなかったか? 」
「ベ、別に。何も。ちょっと口と首筋を吸われたくらいで」
「何だと! 」
たちまちライナードの声のトーンが上がる。
言い訳する前に、唇を塞がれてしまっていた。ついばむようなものから、徐々に熱を保って、繋がりは深くなっていく。微かな開きを強引に割って、舌が侵入してくる。歯の裏を舐め、口腔内を蹂躙する傍若無人なそれは、まるで一つの個体のように自在な動きをみせる。
「あっ……」
不意に零れてしまった喘ぎに、発した自身が驚いて、レイノリアは慌てて唇を離す。ジンジンと痺れて痛い。
「ちょ、ちょっと。待って下さい。待って。な、何か頭が混乱して」
とてもじゃないが、これは単なる部下に対しての行為ではない。
レイノリアは恐る恐る、浮かんだ疑問を声に出した。
「あ、あの。隊長は私のことを、その、好き……なんですか……? 」
「……は? 」
あんぐりと口を開け、ライナードは間抜け面を晒す。
「あっ。やっぱり違うんだ」
言わなきゃ良かった。レイノリアは恥ずかしさと惨めさで、泣きたくなった。
「言わなきゃわからんのか? 鈍感にも程があるだろ」
「だって、そんな。わかりませんよ」
ただの部下なら、ハッキリ口にしてほしい。ますます惨めになって、鼻を啜る。
「こうやって、ちゃんと態度で示してるだろうが」
言って、ライナードは再び唇を重ねた。
「好きだよ、レイノリア」
レイノリアの思考が停止する。
「……嘘でしょ」
「何で嘘をつく必要があるんだ」
「だって、そんな素振り見せたことなかったじゃない。え? え? い、いつから? いつから私のことを? 」
思ってもみなかった事態に、悦ぶ余裕などない。おろおろしながら頭を抱えて混乱するレイノリアに対し、困ったようにライナードは指先で頬を掻く。
「いつからって……いつの間にか? 」
ライナードも、はっきりいつからだと返せないらしく、首を捻ってううーんと喉仏を揺する。目を閉じ、ああだこうだと何やら回想し始めた。
「そりゃ、そんな甘ったるい目を毎日毎日向けられちゃ、おかしくなっちまうだろうが」
「あ、甘ったるい目って。何ですか、それ」
かっとレイノリアの顔に火が点く。
ライナードに対し、あくまで部下として振る舞っていたつもりだ。憧れる言動は多々あれど、それを飛び越えた態度を取った覚えはない……はずだ。
ふと、レイノリアの爪先が床を離れた。目線が三十センチばかり高くなる。つむじが天井を掠った。
「な、何を」
まるで米俵でも担ぐかのごとく、ライナードの左肩に抱えられていた。ライナードは鼻歌をうたいながら、のしのしと廊下を大股で通る。
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