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危険な任務

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 要救助者が一人減っている。
 助けられたのか。或いは。
 不意にライナードが止まる。
 目の前に広がる光景は、まさしく異様だった。
 二頭だての荷馬車が横倒しになり、荷台の樽がいっぱいに散乱していた。
 その真後ろの道で、二台の箱馬車同士の全面がぐちゃぐちゃに潰れてしまっている。そして、その箱馬車と、それらに挟まれた一頭引きの荷馬車が斜めを向いた状態で押し潰されていた。先発隊はその荷馬車の幌を切り開いている。荷台には血だらけの併せて四人がいた。
 要救助者が五。あと一人いる。
「後方の荷馬車に、要救助者が一人残されています! 」
 ライナードの姿に気付いた近衛隊が、直接駆け寄って捲し立てた。
「積み荷は最近開発された、化学薬品です。引火の可能性があります」
 化学薬品。引火。その単語にレイノリアの頬が引き攣る。
 産業の発達する昨今、開発された化学薬品が人体にどのような影響があるのか。まだ解明されていないことが多い。
「爆発の危険性がある。刃物は使えない。人力で行くぞ。レイノリア、手伝え」
「は、はい」
 女だからといった理由で、危険な任務から外されることはない。
「爆発するから、とにかく気をつけろ」
 馬はとっくに息絶えている。
 とにかく人力で荷台を持ち上げ、挟まれた御者を引き摺り出す段取りだ。
 レイノリアは頷くと、慣れた手つきで荷台の端を掴んだ。
 次々に応援が走り寄って来て、持ち上げる。
「よし、もう少しだ! 」
 足裏を踏ん張って上げていく。
「よし! そのまま固定! 」
 御者が助け出され、搬送される。
 去って行く近衛隊の救護係の馬の蹄を遠くに、ハアハアと肩で息をしながら、額から垂れる汗を手の甲で拭う。
 終わった。
 どっと疲れが肩に圧し掛かる。
 緊張感は緩んで、ついその場に尻持ちをついてしまう。
 『公爵家私設騎士団ははみっともない姿を晒すな』
 ライナードにまた怒鳴られそうだ。
 しかし当の隊長も疲弊して、レイノリアに構っている場合ではないようだ。
 眩しそうに、上空を飛び交う渡り鳥に目を眇める。
 しかし、事態はまだ終わってはいなかった。
 レイノリアがふと顔を上げたとき、視線の先では、樽から漏れ出た液体が、じわじわと路面に侵出していくところだった。
 ハッと息を呑む。
 爆風に包まれた。
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