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第六章
人質
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何歩か退きながら襖の前まで来ると、廊下側を背に、森雪らと距離を置く。
「なっ!」
咄嗟のことに抵抗すら出来なかった吉森は、声を上擦らせることが精一杯だ。
「離せ!」
その段になって、初めて森雪の顔から余裕の色が消えた。
「お前の弱点はわかってるんだ。何で今の今まで泳がせていたと思う」
してやったりと、高柳は醜く頬を歪める。
吉森を手に掛けようと思えば、幾らでも機会はあった。それを敢えてしなかったのは、実の息子でありながら辰川姓を名乗り、何食わぬ顔で生活する森雪を陥れ、そのときの反応を楽しむ、その一点のためだ。己との境遇の違いによって、高柳は血の通う息子にさえ憎悪を抱く。
「長かったよ。辰屋を潰してやる、そのためだけに俺は今まで生きてきたんだ。ようやく念願叶う日が来たんだ」
森雪を含めた辰川と名のつく全てを憎み、奈落へと突き落とす。高柳の目は、その願いが間もなく叶うことにぎらぎらと不気味に光っている。
同じような身長でありながら、鍛え抜かれた高柳の腕は丸太のように太く、締め上げる力は物凄い。
「おおっと。逃げるなよ」
苦しくなってもがけばもがくほど、高柳の締めつけは強くなる一方だ。
いつ、高柳が刃を振りかざし、血の飛沫を上げることに悦びを見い出すかわからない。恐怖と苦痛に顔を強張らせ、吉森の額から脂汗が幾筋も流れた。
それを眼前にしても何一つ救う手立てはない。森雪は獣臭に満ち満ちた唸りを、引き結んだ口端から漏らす。
高柳は満足そうに目を細めた。
「お前の本来の面がようやく表に出たな。その目だよ。見れば見るほど、俺そっくりだな」
「……言うな」
「男の好みまで、俺と同じか」
「兄さんに手を出すな」
切羽詰まっていく森雪の変わりようが、高柳を余計に楽しませる。ついに、男は空いた方の手で己の懐をまさぐり、刃先の鋭い短刀を出した。
「やめろ、高柳!これ以上、罪を増やすな!」
状況を見守るばかりだった大河原が声を張り上げた。
「動くなって言ってるだろう」
高柳は挑発し、刃先を吉森の頬に当てた。ひやりと冷たい感触が肌を撫でる。
「なっ!」
咄嗟のことに抵抗すら出来なかった吉森は、声を上擦らせることが精一杯だ。
「離せ!」
その段になって、初めて森雪の顔から余裕の色が消えた。
「お前の弱点はわかってるんだ。何で今の今まで泳がせていたと思う」
してやったりと、高柳は醜く頬を歪める。
吉森を手に掛けようと思えば、幾らでも機会はあった。それを敢えてしなかったのは、実の息子でありながら辰川姓を名乗り、何食わぬ顔で生活する森雪を陥れ、そのときの反応を楽しむ、その一点のためだ。己との境遇の違いによって、高柳は血の通う息子にさえ憎悪を抱く。
「長かったよ。辰屋を潰してやる、そのためだけに俺は今まで生きてきたんだ。ようやく念願叶う日が来たんだ」
森雪を含めた辰川と名のつく全てを憎み、奈落へと突き落とす。高柳の目は、その願いが間もなく叶うことにぎらぎらと不気味に光っている。
同じような身長でありながら、鍛え抜かれた高柳の腕は丸太のように太く、締め上げる力は物凄い。
「おおっと。逃げるなよ」
苦しくなってもがけばもがくほど、高柳の締めつけは強くなる一方だ。
いつ、高柳が刃を振りかざし、血の飛沫を上げることに悦びを見い出すかわからない。恐怖と苦痛に顔を強張らせ、吉森の額から脂汗が幾筋も流れた。
それを眼前にしても何一つ救う手立てはない。森雪は獣臭に満ち満ちた唸りを、引き結んだ口端から漏らす。
高柳は満足そうに目を細めた。
「お前の本来の面がようやく表に出たな。その目だよ。見れば見るほど、俺そっくりだな」
「……言うな」
「男の好みまで、俺と同じか」
「兄さんに手を出すな」
切羽詰まっていく森雪の変わりようが、高柳を余計に楽しませる。ついに、男は空いた方の手で己の懐をまさぐり、刃先の鋭い短刀を出した。
「やめろ、高柳!これ以上、罪を増やすな!」
状況を見守るばかりだった大河原が声を張り上げた。
「動くなって言ってるだろう」
高柳は挑発し、刃先を吉森の頬に当てた。ひやりと冷たい感触が肌を撫でる。
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