寡黙な消防士でも恋はする

晴 菜葉

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続編 愛くらい語らせろ

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 形勢逆転。
 ぬっと伸びた日浦の手は、躊躇なく俺のズボンのファスナーを下げて、その中に忍び込んだ。
「お、おい!」 
 性急な指遣いに、止めるよりも先に息が上がってしまう。太腿を滑る手は時折足の付け根に届き、今にも触れそうになれば、すぐに膝の方へと逃げて行く。撫でられた皮膚の表面に体温が移って熱を持つ。熱い。熱くてもう、火傷しそう。
「おい。やめろって」
 これ以上されたら、疼いてしょうがない。
「本当に?やめていいの?」
 勿体ぶった言い方。その口、捻ってやろうか。
 むかつくからそっぽ向いたのに、顎を掴んで引き戻してくんな。指の力、強過ぎだろ。骨、砕くつもりか。
「離せ。痛い」
 抗議すれば、すぐさま顎を掴む手は離れたものの、肝心のズボンの中にあるのはそのまま維持している。
「もう、いい加減に……うぁっ」
 いきなり指が後ろに回るのは反則だろ。
 鼻から声が抜けた。
 卑猥そのものの指は後肛の襞をなぞって、今にも体内に侵入しようとしている。
 させるかっ!
 ぐっと腹筋を使って阻止してやった。
「い、痛っ!」
 だから、何でいちいち皮膚を噛むんだよ。今度は右肩をやられた。しっかり歯形ついてるし。
 不意打ちで気が緩んだ隙に、日浦の指が潜り込んできた。
 用意周到で、指はご丁寧にジェルで潤っている。おい、いつの間にそんなもん指に塗ったんだ。
 潤滑剤のおかげで、容易く侵入した後は、もう日浦の独壇場だ。
「あっ……ああっ……ぐぅ」
 何回受け入れても、やっぱり慣れない。一本から二本、それから三本目の指が腸内を虫みたいにウネウネと這って、あまりの気味悪さに奥歯を噛んで耐えるしかない。
「あっちゃん、気持ち良さそうだな」
 んなわけあるか!
 声を張り上げたいのに、奥歯を噛み過ぎて、口から出てくるのは呻き声ばかり。脂汗が額にびっしりと粒を作り、そのうち幾つかがこめかみからシーツへと垂れて行く。
「もうさあ、この際、とことん見せつけてやろうな」
 誰に?何を見せつけるって?
 意味不明な言葉に突っ込む余裕は、もうない。
「良い声で鳴けよ、あっちゃん」
 ニタリ、と日浦の頬が歪んだ。
 いきなり、覚えのある灼熱の塊が肉を抉る。  
 まだ体が慣らされてないのに。
「あっ!いっ!」
 喉奥で息が詰まってしまう。
「息吐け」
 耳元で命令するな。
 そんな簡単に出来るか。とにかく酸素を求めて大きく口を開けた。
 ヒッと喉がひくつく。
 べろっと耳朶から首筋にかけて、生温かい舌が上下したからだ。
 ゾクゾクっと背筋を震えが駆け抜ける。
「そうそう。その調子。上手い、上手い」
 俺はガキか。子供をあやすみたいな言い方、やめろ。
 だが、体の強張りは幾らか解れた。
 日浦はその隙を逃さず、自身を奥へと進める。
「おい。いつもよりデカくないか?」
 何度も受け入れていると、嫌でも大きさは体が記憶している。
「うん。ギャラリーがいると思うと、興奮する」
「は?」
「こっちのこと」
 言い終わらないうちに唇を塞がれる。
 おい、ギャラリーって何だよ。まさか盗撮か?おいおい、洒落にならねえって。
 詰問するにも、口を塞がれているから声が出せない。
 おい、コラ。一旦離れろ。
 覆い被さる日浦の胸板を両手で押し除けようにも、岩みたいに重くてびくともしない。
 しょうがないから膝打ちでもかましてやろうかと曲げたら、膝頭を物凄い力で押さえつけられる。
「余裕だな」
 琥珀の切れ長の瞳に、俺の怯える顔が映った。
 まだ拓きっていない狭道を熱の塊で強引に割られ、粘膜の蠕動を促される。がくがくと揺すられ、その度に内臓が捻じ曲がりそうだ。
「日浦!日浦!」
 何度も何度も脳味噌を揺すられては、おかしくなって当たり前。
 繋がった場所はジンジン痺れるし、いつの間にか先走りはダダ漏れで、そろそろ限界来そうだし。でも、こいつより先にいくのは、嫌だ。
 いつも俺の方が我慢出来ず、負かされてしまう。
 でも、もう限界。
 奥歯を擦り潰して耐える。
「あっちゃん。我慢するな」
「いや、だ」
「強情だな」
 呆れたような、揶揄うような低音が鼓膜に入り込む。こいつの声は脳天にくるから不味い。
「篤司」
 だから、いきなり呼び捨ては駄目だって。
 ギリギリで耐えていた理性が真っ白に爆ぜた。
「あああああ」
 爪先がピンと張り、痙攣して、やがて全身から徐々に力が奪われていく。魂ごと持っていかれたみたいに、力が入らない。体が溶けてしまったように。
 吐き出したものが、俺と日浦の腹を熱く濡らした。
 直後、俺の体内が摂氏二度以上熱くなる。ぶわぁっと、どんどん広がって、粘膜を通して浸透していく。受け止めきれず、繋がりから滴り、シーツをぐっしょりと色濃くする。
 日浦の色っぽい呻きが耳を掠った。
 
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