壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉

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第四章

鍛冶屋結婚1

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 橋を渡れば隣国に入る。
 カップルはどこでも結婚することができる。証人の前で結婚宣言さえすれば、それで成立だ。
 そこでこの国の住民は誰彼構わず競って自宅や宿屋を式が出来るようにし、お手軽に式を挙げることが出来た。
 最初に神父役をしたのが鍛冶屋であったことから、神父が鍛冶屋でなくとも「鍛冶屋結婚」「鉄床かなとこ結婚」と称される。
 ついにアメリア達は目的地についた。
 エデュアルトは鍛冶屋の隣側にある宿をまずとる。
 古びた安っぽくて傷だらけのブナ材のカウンターでは、宿屋の亭主がニタニタ笑いながら出迎えた。
 亭主は一目で二人が駆け落ちカップルとわかったようだ。というよりも、この地に着く男女といえば、ほとんどがそれだ。
「このような場合に備えて、いつでも部屋は用意してありますよ」
 亭主はニタニタ笑いのまま、アメリアをジロジロと見やった。
「床入りを済ませて、正式に結婚となりますからね。旦那」
「いちいち説明されずとも、わかっている」
 エデュアルトは不快に鼻に皺を寄せた。
 亭主はエデュアルトに抱かれるアメリアの裸を想像しているのは明らかだった。
 マーリンのによって硬い卵の殻を破られたアメリアは、男を魅了させる淑女だ。
 エイスティンのようなあでやかさはないが、清楚で慎ましい魅力がある。
 良い意味でも悪い意味でも世間知らずで純真無垢なアメリアは、そんな野郎どもの邪な気持ちには何ら気づいていない。呑気に、訳もわからず取り敢えず笑っている。
 警戒心がまるでないアメリアに、エデュアルトはこめかみに筋を浮かせた。
「鍛冶屋から帰って来たときに、熱い風呂を用意して欲しい」
「わかりましたよ、旦那」
 またしても亭主は、湯浴みするアメリアを想像しているようだ。
「夕食はどうしますかい? 」
 問いかけられ、エデュアルトはチラリとアメリアを見やった。  
 旅の疲れからか、顔色が酷く悪い。元々の白い顔から、さらに色が抜けてしまっている。
「いや。代わりに明日の朝、たっぷり朝食を用意してくれ」
「わかりました」
 古びた鍵と、銀貨を交換する。亭主は一枚一枚、枚数を確かめた。
「これから鍛冶屋で式をあげなさるんで? 」
「ああ」
「それなら早くしなせえ。客が奥さんを邪な目で見ておりますからね」
 自分のことは棚上げして、亭主はニタニタしながらぐるりと辺りを見渡す。
 ロビーでは、何名かのカップルがおり、これから床入りを済まそうとしているのか、誰しもの薬指には指輪が光っている。
 しかし、男どもの視線はだらしなくアメリアに注がれていた。これでは先が思いやられるだろうな。エデュアルトは新妻らに少々同情した。




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