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第三章
エデュアルトの条件
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エイスティンが部屋を出て行ってから、五分経った。
「いつまで寝てるつもりだ? 」
いらいらと靴先を鳴らしながら、壁に凭れかかったエデュアルトが低い声音で尋ねてきた。
「さっさと着替えて荷物を纏めろ。もっとも、家出の準備をしていたんだ。今更、用意するものなんてないだろうがな」
事務的な言い方。
これまでは、アメリアに説教を垂れるときは、何だかんだと穏やかさがあった。
しかし今は、まるで汚物でも見るようなしかめ面。いや、むしろ軽蔑そのものの冷たさだ。
「あ、あなたは? 」
彼から愛情が消えたことを知ったアメリアは、ビクビクしながら尋ねた。
「俺か? 」
エデュアルトは乱れた前髪を鬱陶しそうに払った。
「俺は元から馬車に積んでいる。いつ、女のところで寝泊まりしても良いようにな」
「最低ね」
「俺はこういう男だ。わかって求めたんだろ」
わざとアメリアを突き放すような言い方。
結婚の約束をしたのに、気持ちが寄り添うばかりか、むしろ遠ざかってしまった。
アメリアはシーツを握りしめる。
「結婚の床入りがあるからな。そのときはお前を抱いてやる」
横柄な言葉は、アメリアの心臓をぐりぐりと抉る。
彼が嫌々と娶るのはわかっていたが、これほどまでに冷ややかな態度を取られて、傷つかないわけがない。
「だが、妻として抱くのはそれだけだ」
「どういう意味? 」
「お前が愛しくて抱くことは、この先、二度とないってことだ」
すでにエデュアルトの中には、アメリアに対する愛は微塵もない。
妹同然の慈愛も、ましてや妻としての愛も。
だが、彼が欲しいと願ったのは他でもない自分だ。
「俺は愛人を作るし、家庭など顧みるつもりはない。お前のことは単なる同居人としか見ない。愛を求められても迷惑だ。俺は子供を作ることは大嫌いだが、跡取りの義務のため、その際は許そう」
「ゆ、許そうだなんて。あなたが上位なのね」
「当然だろう。弱味に付け入って、俺の人生を台無しにしたんだからな」
軽蔑どころか、恨みさえある。
貴族の男性の適齢期の最中にありながら、何ら結婚を匂わさず、むしろそういった話を遠ざけていた彼。
いつか兄ハリーから、エデュアルトの家庭環境がそうさせていると、チラリと聞いたことを思い出した。
恨まれて当然だ。
アメリアは、彼が忌み嫌うことを望み、それを押し通してしまったのだから。
「愛人に事情があって、どうしても必要なときに限って、性欲処理に付き合ってもらうから。そのつもりで」
「妻を何だと思っているの? 」
アメリアの声が微かに震える。
ここで泣いてしまえば、泣いて同情を買うつもりかと余計に侮蔑される。
奥歯を噛んで必死に耐えた。
「女は男の装飾品ではないのよ。ましてや奴隷でもない。ちゃんと心のある一人の人間です」
「俺の気持ちを知っていながら、わざわざエイスティン夫人を味方につけて。弱味に付け入り我を通す。お前のどこに心があるって? 」
「それは……申し訳なかったわ」
アメリアはシーツをぐしゃぐしゃに握りながら、目を伏せた。
彼が義姉に抵抗出来ないとわかっていながら、結局その思いを利用してしまった。ズルいなんてものではない。
「今更、しおらしくされてもな」
エデュアルトは不機嫌な息を漏らした。
「さっさと準備しろ。今頃、エイスティン夫人がヴィンセントを引き止めている。気づかれる前に屋敷を出るぞ」
冷たく言い放たれる。
狂った歯車はもう戻らない。
先に進むしか道はないのだ。
「いつまで寝てるつもりだ? 」
いらいらと靴先を鳴らしながら、壁に凭れかかったエデュアルトが低い声音で尋ねてきた。
「さっさと着替えて荷物を纏めろ。もっとも、家出の準備をしていたんだ。今更、用意するものなんてないだろうがな」
事務的な言い方。
これまでは、アメリアに説教を垂れるときは、何だかんだと穏やかさがあった。
しかし今は、まるで汚物でも見るようなしかめ面。いや、むしろ軽蔑そのものの冷たさだ。
「あ、あなたは? 」
彼から愛情が消えたことを知ったアメリアは、ビクビクしながら尋ねた。
「俺か? 」
エデュアルトは乱れた前髪を鬱陶しそうに払った。
「俺は元から馬車に積んでいる。いつ、女のところで寝泊まりしても良いようにな」
「最低ね」
「俺はこういう男だ。わかって求めたんだろ」
わざとアメリアを突き放すような言い方。
結婚の約束をしたのに、気持ちが寄り添うばかりか、むしろ遠ざかってしまった。
アメリアはシーツを握りしめる。
「結婚の床入りがあるからな。そのときはお前を抱いてやる」
横柄な言葉は、アメリアの心臓をぐりぐりと抉る。
彼が嫌々と娶るのはわかっていたが、これほどまでに冷ややかな態度を取られて、傷つかないわけがない。
「だが、妻として抱くのはそれだけだ」
「どういう意味? 」
「お前が愛しくて抱くことは、この先、二度とないってことだ」
すでにエデュアルトの中には、アメリアに対する愛は微塵もない。
妹同然の慈愛も、ましてや妻としての愛も。
だが、彼が欲しいと願ったのは他でもない自分だ。
「俺は愛人を作るし、家庭など顧みるつもりはない。お前のことは単なる同居人としか見ない。愛を求められても迷惑だ。俺は子供を作ることは大嫌いだが、跡取りの義務のため、その際は許そう」
「ゆ、許そうだなんて。あなたが上位なのね」
「当然だろう。弱味に付け入って、俺の人生を台無しにしたんだからな」
軽蔑どころか、恨みさえある。
貴族の男性の適齢期の最中にありながら、何ら結婚を匂わさず、むしろそういった話を遠ざけていた彼。
いつか兄ハリーから、エデュアルトの家庭環境がそうさせていると、チラリと聞いたことを思い出した。
恨まれて当然だ。
アメリアは、彼が忌み嫌うことを望み、それを押し通してしまったのだから。
「愛人に事情があって、どうしても必要なときに限って、性欲処理に付き合ってもらうから。そのつもりで」
「妻を何だと思っているの? 」
アメリアの声が微かに震える。
ここで泣いてしまえば、泣いて同情を買うつもりかと余計に侮蔑される。
奥歯を噛んで必死に耐えた。
「女は男の装飾品ではないのよ。ましてや奴隷でもない。ちゃんと心のある一人の人間です」
「俺の気持ちを知っていながら、わざわざエイスティン夫人を味方につけて。弱味に付け入り我を通す。お前のどこに心があるって? 」
「それは……申し訳なかったわ」
アメリアはシーツをぐしゃぐしゃに握りながら、目を伏せた。
彼が義姉に抵抗出来ないとわかっていながら、結局その思いを利用してしまった。ズルいなんてものではない。
「今更、しおらしくされてもな」
エデュアルトは不機嫌な息を漏らした。
「さっさと準備しろ。今頃、エイスティン夫人がヴィンセントを引き止めている。気づかれる前に屋敷を出るぞ」
冷たく言い放たれる。
狂った歯車はもう戻らない。
先に進むしか道はないのだ。
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