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第三章
覚醒直後
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「アメリア! 」
アメリアの葛藤は呆気なく砕かれた。
エデュアルトが息を切らせて部屋に飛び込んできた。
いつもは丁寧に櫛の入った髪で、糊のきいたシャツを颯爽と着こなし、流行を取り入れた洒落た身なりをしている。
だが今は髪はボサボサで、目の下は隈が出来、無精髭もそのまま。
皺だらけのシャツを腕まくりし、フロックコートすら身につけていない。トラウザーも妙なくらいに皺が入って、常に女性の目を気にする放蕩者だとは思えない。
レディの寝室にノックもなくズカズカ入るなど、マナーも何もあったものではない。
しかし、エデュアルトのこのような振る舞いに、口うるさい兄ですら黙認している。
兄はエデュアルトに続いて部屋に滑り込むと、目覚めたアメリアに嗚咽を漏らした。
「アメリア! 」
エデュアルトはハンカチも使わず、手の甲で眦を拭う。
「俺のせいで、すまなかった! 」
エデュアルトはアメリアのベッドまで近寄るなり、額が床につくくらいに腰を曲げた。
「ブランシェット卿のせいじゃないわ」
今は子爵位だろうが、いづれは由緒正しきメローズ伯爵家を継ぐ身。
同じ伯爵家だろうと、メローズ家は代々王宮で重責を担っており、現在進行形だ。三代遡れば王族に繋がる家系。
対するヴィンセント家は、家系図の最初の方から目を凝らしても王家の血なんて程遠い、先先代まで田舎貴族だった。
伯爵といえども身分差というものがある。
そんな彼に頭を下げさせるなんて、何だか申し訳なさでいっぱいになる。
「私が我儘なんて言ってしまったから」
そもそもの発端は自分だったのだし。
体の向きをエデュアルトの方にしたら、皮膚が引き攣れた。
「い、痛っ」
思わず上げた悲鳴に、その場にいた全員が凍りつく。
アメリアは無理に笑顔を作った。そうしないと、場は凍りついたままだから。
「平気よ。背中は目立たないんだし」
アメリアは頑張って穏やかな声を作り出す。本当ならのたうち回りたいところだったが。
「しかし。俺は乙女に一生消えない傷を負わせてしまった」
エデュアルトは頭を抱え、ぶるぶると震えた。
「大丈夫だから。気にしないで」
いつも飄々とした彼の取り乱す姿に、自分は一生治らない傷をしたのだと心が翳る。
こんなことなら意地を張らず、可愛い流行のデザインのドレスに袖を通しておくんだった。
などと、ますます落ち込んだ。
「あなたが無事で良かった」
しかし、その落ち込みはエデュアルトが声を殺して男泣きする姿を前に、いっぺんに吹き飛んでしまった。
兄はエデュアルトの背中をやや乱暴に小突いた。
「ブランシェット、アメリアは無事だったんだ。みっともなく泣くな」
「そう言うお前だって、目が腫れてるぞ」
アメリアの無事を喜び、一生消えない傷に泣き崩れる。
男二人はさらに嗚咽した。
「ハリー。二人で話をさせてあげましょう」
エイスティンが横から口を挟んだ。
このまま男らが涙を流せば、ますますアメリアが陰鬱になると判断したからだ。これ以上、傷の深刻さを突きつけるなど出来ない。
「私はもっとアメリアと話を」
「ハリー」
「あ、ああ」
エイスティンは珍しく夫を睨みつける。有無を言わさぬその目つきには、さすがに従わざるを得なかった。
アメリアの葛藤は呆気なく砕かれた。
エデュアルトが息を切らせて部屋に飛び込んできた。
いつもは丁寧に櫛の入った髪で、糊のきいたシャツを颯爽と着こなし、流行を取り入れた洒落た身なりをしている。
だが今は髪はボサボサで、目の下は隈が出来、無精髭もそのまま。
皺だらけのシャツを腕まくりし、フロックコートすら身につけていない。トラウザーも妙なくらいに皺が入って、常に女性の目を気にする放蕩者だとは思えない。
レディの寝室にノックもなくズカズカ入るなど、マナーも何もあったものではない。
しかし、エデュアルトのこのような振る舞いに、口うるさい兄ですら黙認している。
兄はエデュアルトに続いて部屋に滑り込むと、目覚めたアメリアに嗚咽を漏らした。
「アメリア! 」
エデュアルトはハンカチも使わず、手の甲で眦を拭う。
「俺のせいで、すまなかった! 」
エデュアルトはアメリアのベッドまで近寄るなり、額が床につくくらいに腰を曲げた。
「ブランシェット卿のせいじゃないわ」
今は子爵位だろうが、いづれは由緒正しきメローズ伯爵家を継ぐ身。
同じ伯爵家だろうと、メローズ家は代々王宮で重責を担っており、現在進行形だ。三代遡れば王族に繋がる家系。
対するヴィンセント家は、家系図の最初の方から目を凝らしても王家の血なんて程遠い、先先代まで田舎貴族だった。
伯爵といえども身分差というものがある。
そんな彼に頭を下げさせるなんて、何だか申し訳なさでいっぱいになる。
「私が我儘なんて言ってしまったから」
そもそもの発端は自分だったのだし。
体の向きをエデュアルトの方にしたら、皮膚が引き攣れた。
「い、痛っ」
思わず上げた悲鳴に、その場にいた全員が凍りつく。
アメリアは無理に笑顔を作った。そうしないと、場は凍りついたままだから。
「平気よ。背中は目立たないんだし」
アメリアは頑張って穏やかな声を作り出す。本当ならのたうち回りたいところだったが。
「しかし。俺は乙女に一生消えない傷を負わせてしまった」
エデュアルトは頭を抱え、ぶるぶると震えた。
「大丈夫だから。気にしないで」
いつも飄々とした彼の取り乱す姿に、自分は一生治らない傷をしたのだと心が翳る。
こんなことなら意地を張らず、可愛い流行のデザインのドレスに袖を通しておくんだった。
などと、ますます落ち込んだ。
「あなたが無事で良かった」
しかし、その落ち込みはエデュアルトが声を殺して男泣きする姿を前に、いっぺんに吹き飛んでしまった。
兄はエデュアルトの背中をやや乱暴に小突いた。
「ブランシェット、アメリアは無事だったんだ。みっともなく泣くな」
「そう言うお前だって、目が腫れてるぞ」
アメリアの無事を喜び、一生消えない傷に泣き崩れる。
男二人はさらに嗚咽した。
「ハリー。二人で話をさせてあげましょう」
エイスティンが横から口を挟んだ。
このまま男らが涙を流せば、ますますアメリアが陰鬱になると判断したからだ。これ以上、傷の深刻さを突きつけるなど出来ない。
「私はもっとアメリアと話を」
「ハリー」
「あ、ああ」
エイスティンは珍しく夫を睨みつける。有無を言わさぬその目つきには、さすがに従わざるを得なかった。
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