壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉

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第三章

忍び寄る影

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 路地を曲がったところで、ぬるりと誰かが近寄ってきた。
 春も終わり間もなく夏が来るかと思う時期なのに、その人物は分厚い外套を身につけ、顔の下半分を布切れで覆っている。フェルトハットは目深で、帽子の鍔の向こうで見え隠れする目玉は蛇のように細くてゾッとする。
「ブランシェットだな? 」
 その男は布切れ越しにくぐもった声で尋ねてきた。
 エデュアルトは男の殺気にはとっくに気づいていたらしち。
 たびたび歩く速度が変わったり、急に立ち止まったりしたからだ。
 物盗りかと踏んだが、どうやらそうではない。たかだか物盗りなら、いちいち名前を確かめたりはしない。
 最初からエデュアルトを標的にしていた。
 アメリアはびくびく、と小さく揺れた。
 エデュアルトを不安気に見上げれば、彼は大丈夫だと目線で答える。
「何者だ? 」
 エデュアルトは眼光を鋭くさせ、名を呼んだ相手を睨みつけた。
 そのエデュアルトの声に呼応するかのように、奇妙な男の後ろからもう二人、ゆらりと現れた。残りの二名も同じような出たちだ。
「悪く思うなよ。俺たちゃあ、あんたに恨みはないんだ」
 エデュアルトはアメリアを背中に隠しながら、ジリジリ後退り男らと一定の距離を取る。
「誰の差し金だ? 」
「それは言えねえな」
「俺を殺して何の得がある? 」
「人聞きの悪いことを。俺たちゃ、あんたのそのおキレイな顔にちょいと傷をつけるだけだ」
「俺の顔だと? 」
 エデュアルトの眉がヒョイと吊り上がる。
 アメリアは顔から血の気を引いた。
「だ、駄目よ。エデュアルト……じゃなくて、ブランシェット卿の顔に傷つけるなんて」
 エデュアルトの背中から顔だけ覗かせると、男の一人とバッチリ目が合った。顔のほとんどを隠しているものの、剥き出した目つきは獲物を狙うガラガラ蛇だ。
「アメリア。黙っていろ」
「でも」
 アメリアが口を出さなければ、小柄な彼女は男らの目には晒されなかった。
 そうしたら、アメリアをこっそり逃すことも出来たのに。
 男に媚びず自我を通すところ、結婚が嫌で家出するところ、状況を読まず我を出すところ。こういったお転婆なところが幾つになろうと変わらず成長しきれていない。エデュアルトは歯噛みする。
「女連れか。噂通り、軽薄な野郎だな」
 案の定、男らの標的はアメリアにまで及んだ。
「しかも、相当な別嬪じゃねえか」
 布切れで覆われていようが、下品な笑い方をしているのは容易に想像がつく。
「アメリアに何をするつもりだ? 」
「どうせ手垢のついた娘だ。俺達が何をしようが構わないだろうが」
「やめろ。アメリアに触るな」
 エデュアルトは姫を守る騎士のごとく、アメリアの前に立ち塞がった。
「だったら大人しくするんだな」
 男らは下衆に笑った。










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