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第三章
夢から醒めた後
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現実は残酷だ。
アメリアに媚薬の効果がなくなった途端、エデュアルトはさっさと彼女と距離を置いた。
つい今しがたまで物凄いことをしていたとは思えないくらい呆気ない。
夢でも見たのかとさえ疑うほどに。
しかし、エデュアルトの薄い唇の周りはぬらぬらと湿っており、これが夢ではないことを証明していた。
エデュアルトは静かに怒りを孕んでいるかのように無表情のまま、アメリアに背を向けた。
「エデュアルト」
「こっちを見るな」
背を向けたまま、ぶっきらぼうに吐き捨てる。何やらモゾモゾとしており、その逞しい背中は「近づいたら命はない」と雄弁だった。
彼は小さく唸ると、肩を震わせる。
その苦しそうな声にも、アメリアはただ黙って見ているしかない。彼はアメリアを拒絶していた。
その場凌ぎであろうと、甘い雰囲気だったことは事実。
しかし今やそれは覆り、殺伐とした空気となっている。
気まずい顔でエデュアルトが振り返った。色っぽく目元を赤らめ、心なしか瞳が潤んでいる。吐く息もどこかしら艶めかしい。
たちまちアメリアは赤面してしまった。
「帰るぞ」
そんなアメリアの表情には頓着せず、憮然とエデュアルトは呟いた。
屋敷には戻りたくない。
今すぐにでも回れ右して脱兎のごとく逃げてしまいたい。
しかし、アメリアの思考を見抜いたエデュアルトによって手首を掴まれているので無理だ。
「は、離して。そんなに強く捕まえなくても良いじゃない」
アメリアは出来るだけいつも通りの口調になるように心がけた。
エデュアルトが「元通り」を求めている以上、従う他ない。彼の足に縋りつき、甘い雰囲気の継続をねだったところで、足蹴にされるのがオチだ。アメリアにだってプライドはある。
「そう油断させておいて、お前はすぐに逃げ出すからな」
「お前って呼ばないで」
「お前はお前だ。幾ら大人びたところで、まだまだ子供だ」
「子供扱いしないでよ」
アメリアは頬を膨らませる。マーリンが手を加えることにより、年相応の大人びた美女となったが、仕草は子供じみている。その姿はチグハグだ。
エデュアルトはそんなアメリアの子供っぽさが露わになったことで、逆にホッとしたような笑みを浮かべた。
「道が狭いから馬車を大通りに待たせている。しばらく歩くことになるが」
「構いません」
幾分、相手の声音が優しくなったことを感じ取り、アメリアは抵抗をやめた。
すると、拘束された手首の締め付けが緩くなる。
「俺の手を離すなよ」
エデュアルトは言い含める。
幾ら治安の良い地域に近いと言えど、日が暮れるとよからぬ輩が彷徨いていることに変わりはない。
日中は賑々しくしていた店はしっかりと戸締りをし、開いているのは酒場と賭博場、娼館くらいだ。どの店の前にも赤ら顔の酔っ払いがくだを巻き、そこかしこで胸倉を掴む喧嘩をしている。かと思えば、下着同然の際どいドレスを身につけた娼婦が、エデュアルトに近寄って宿へ引き込もうとする。女連れなどお構いなしに。さすがにエデュアルトもそこまで節操なしではない。一睨みで撃退した。
アメリアはぶるっと震えると、彼の腕にしがみつく。
平民になるために下町に慣れようとしたが、まだまだ自分には難易度が高い。
エデュアルトがいなければ、いつ、よからぬ輩に路地裏に引き込まれてしまうかわからない。
アメリアは緊張の余り小走りした。鼓膜が破れそうになるくらいに心臓が直に響いた。
アメリアに媚薬の効果がなくなった途端、エデュアルトはさっさと彼女と距離を置いた。
つい今しがたまで物凄いことをしていたとは思えないくらい呆気ない。
夢でも見たのかとさえ疑うほどに。
しかし、エデュアルトの薄い唇の周りはぬらぬらと湿っており、これが夢ではないことを証明していた。
エデュアルトは静かに怒りを孕んでいるかのように無表情のまま、アメリアに背を向けた。
「エデュアルト」
「こっちを見るな」
背を向けたまま、ぶっきらぼうに吐き捨てる。何やらモゾモゾとしており、その逞しい背中は「近づいたら命はない」と雄弁だった。
彼は小さく唸ると、肩を震わせる。
その苦しそうな声にも、アメリアはただ黙って見ているしかない。彼はアメリアを拒絶していた。
その場凌ぎであろうと、甘い雰囲気だったことは事実。
しかし今やそれは覆り、殺伐とした空気となっている。
気まずい顔でエデュアルトが振り返った。色っぽく目元を赤らめ、心なしか瞳が潤んでいる。吐く息もどこかしら艶めかしい。
たちまちアメリアは赤面してしまった。
「帰るぞ」
そんなアメリアの表情には頓着せず、憮然とエデュアルトは呟いた。
屋敷には戻りたくない。
今すぐにでも回れ右して脱兎のごとく逃げてしまいたい。
しかし、アメリアの思考を見抜いたエデュアルトによって手首を掴まれているので無理だ。
「は、離して。そんなに強く捕まえなくても良いじゃない」
アメリアは出来るだけいつも通りの口調になるように心がけた。
エデュアルトが「元通り」を求めている以上、従う他ない。彼の足に縋りつき、甘い雰囲気の継続をねだったところで、足蹴にされるのがオチだ。アメリアにだってプライドはある。
「そう油断させておいて、お前はすぐに逃げ出すからな」
「お前って呼ばないで」
「お前はお前だ。幾ら大人びたところで、まだまだ子供だ」
「子供扱いしないでよ」
アメリアは頬を膨らませる。マーリンが手を加えることにより、年相応の大人びた美女となったが、仕草は子供じみている。その姿はチグハグだ。
エデュアルトはそんなアメリアの子供っぽさが露わになったことで、逆にホッとしたような笑みを浮かべた。
「道が狭いから馬車を大通りに待たせている。しばらく歩くことになるが」
「構いません」
幾分、相手の声音が優しくなったことを感じ取り、アメリアは抵抗をやめた。
すると、拘束された手首の締め付けが緩くなる。
「俺の手を離すなよ」
エデュアルトは言い含める。
幾ら治安の良い地域に近いと言えど、日が暮れるとよからぬ輩が彷徨いていることに変わりはない。
日中は賑々しくしていた店はしっかりと戸締りをし、開いているのは酒場と賭博場、娼館くらいだ。どの店の前にも赤ら顔の酔っ払いがくだを巻き、そこかしこで胸倉を掴む喧嘩をしている。かと思えば、下着同然の際どいドレスを身につけた娼婦が、エデュアルトに近寄って宿へ引き込もうとする。女連れなどお構いなしに。さすがにエデュアルトもそこまで節操なしではない。一睨みで撃退した。
アメリアはぶるっと震えると、彼の腕にしがみつく。
平民になるために下町に慣れようとしたが、まだまだ自分には難易度が高い。
エデュアルトがいなければ、いつ、よからぬ輩に路地裏に引き込まれてしまうかわからない。
アメリアは緊張の余り小走りした。鼓膜が破れそうになるくらいに心臓が直に響いた。
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