壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉

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第三章

砂糖菓子の夢2※

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 しゅるり、と衣擦れの音を立てながらドレスが床へと滑り落ちる。花が開くようにアメリアの周りに円く広がった。
 アメリアは脱皮するようにスカートを跨ぐ。
「本当に後悔はないのか? 」
 エデュアルトは不安げに尋ねた。
 アメリアが処女であるのは明らか。今時、婚前交渉云々などと拘る貴族は珍しいが、やはり乙女の可憐を散らしてしまうのは気が引ける。
 彼の頭の中には親友の顔があった。
「これは私が望んだことです」
 アメリアに迷いはない。
 彼女は肌が透けるくらい薄いシュミーズ一枚となる。コルセットは堅苦しいし、シュミーズに縫い付けられたパッドも薄く、エデュアルト好みの豊満な体ではないが、雰囲気を相まって色気がふんだんだ。
 エデュアルトは息を呑んだ。
 化粧と服装をほんの少し変えるだけで、これほど神秘的な美貌になるのかと。
 アメリアは長い睫毛にしっとりと雫を乗せる。
「エデュアルトお兄様」
「その、お兄様はやめろ。幼い娘を犯している気分になってくる」
 エデュアルトは嫌そうに顔をしかめた。
「どう呼んだら良いの? 」
「エデュアルト、だ」
「エデュアルト……好き……」
 アメリアは小さな唇を震わせて呟く。
 媚薬は、彼女の深淵を抉った。
「アメリア! 」
 エデュアルトはもう耐えられないと言わんばかりに端正な顔を歪めると、アメリアを粗末なベッドへと仰向けに押し倒した。
 貪るようにほっそりした首筋に彼の唇が吸い付き、弾力のある肌に歯を立てられる。アメリアは喘ぎ、躊躇いながらエデュアルトの首に手を回す。
 初めて触れたエデュアルトの髪はさらさらと艶があり、その漆黒色から、しなやかな黒豹を想起させた。
 獲物に目をつけたら決して離さない。骨の髄まで貪り尽くす猛禽類。
 エデュアルトはアメリアのシュミーズの紐をそっと肩から抜くと、生地を腰元までずり下ろす。ふわり、と白い乳房が露わになった。
 小さいながらも丸みのある形に沿って節張った手がゆっくりなぞる。
 じくじくと疼く脚の付け根から、またしてもじんわりと粘液性の滑りが溢れ落ちる。ドロワーズはぐっしょりと滴っていた。
 もじもじと膝を擦り付けて、これ以上蜜が溢れないようにするアメリア。
 エデュアルトは薄桃色の乳首を口に含むと、舌先で柔らかく転がす。最初はむず痒く、避けようと小刻みに腰を振るわせていたアメリアだったが、やがて啜り泣きにも似た切ない声が口端から零れ落ちる。
 体を弓形ゆみなりに反らせれば、逞しい腕が腰を支える。引き寄せられ、密着する。唇と舌先で存分に小動物を味わいながら、獰猛な獣は喉奥で呻いた。ぴったりと押し付けられた彼の体の一部分は、アメリアの太腿に生々しく主張している。
「エデュアルト。キスはしてくれないの? 」
 アメリアが唇を寄せようとすれば、彼はわざと顔を背ける。何度か繰り返すうちに、切なくなって訴えた。
「それは恋人のために残しておけ」
 残酷な言い方。
「この間はしてくれたのに? 」
 彼がアメリアを通して誰を見ていたのかは、わかっている。
「この間は熱に浮かされていた事故だ。本意ではない」
 即ち、彼の意思ではない。
 アメリアは眦に涙を溜める。
 体の一線は越えようとしても、心まで手に入らない。
「アメリア。他所事は考えるな」
 エデュアルトは優しく耳朶を甘噛みする。
 アメリアは鼻を啜った。
 欲しいのはエデュアルトの心なのに。
 一番望むものが手に入らない。
 
 
 
 
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