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第二章
アメリアの決意
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家出するしかない。
朝食を終えたアメリアは部屋に閉じ籠ると、悶々と悩んだ。悩みに悩んで、とうとうその結論に至る。
兄の言うところの「駆け落ち相手」がいない以上、自分で何とかするしかない。
現代の青髭などと揶揄される男の元へ嫁ぐなど、以ての外。名誉よりも命の方が大事だ。
「そうよ! 私には、他の令嬢にはないものがたくさんあるわ! 」
アメリアの顔に西日が当たる。
眩しさで目を眇めたりはしない。これは神様の導きだ。
悩みに悩んで、ランチもティータイムもすっ飛ばしてしまっていた。
メイドはアメリアが突然の婚姻にどん底に落ち込んでいると思って、敢えて寄り付きもしなかったから、食事抜きになっていることさえ知らなかった。
彼女らはきっと、アメリアから始終くどくどと愚痴を聞かされることを避けたのだ。メイドの仕事は山積みだ。夜遅くまで段取りが事細かに決められている。メソメソするアメリアを慰めている時間など全くないのだ。
アメリアは彼女らを雇う側。メイドの言い分は、わからないでもない。むしろ、決められた仕事をこなせないメイドは厄介でしかない。
それでも普段なら「薄情者」などとお腹をぐうぐう鳴らしていただろうが。
今はそんなこと気にもしない。
アメリアの体はどくどくと脈打ち、血潮が今にも吹き出しそうなくらいに興奮していた。
家出……その言葉は、アメリアを勇気づけた。
幸いにも亡くなった両親は、アメリアにこの上ない財産を残してくれた。
勿論、多額のお金や宝石のことではあるが、それだけではない。
何よりも知識を。
嫁いだ先で無知により虐げられないように。
当時、女性は男性に仕え、身綺麗にして家を守っていることが美徳とされていたが、亡くなった両親は実に先進的な考え方をしていた。
兄弟分け隔てなく教育を受けさせた。
兄ハリーは貴族の息子の誰しもがそうであるように、年頃になれば寄宿学校へ。寄宿学校へ入るまでは、王宮での勤めを引退した老騎士を雇って、技を身につけさせた。生憎と腕の方はからきしの結果だったが。
アメリアにも、一流と名高い家庭教師をつけた。こちらは大変に実を結んだ。おかげで、兄の仕事の代理として充分に役割を果たしている。もっとも、兄の結婚を境にお役御免、アメリアが賄っていた仕事は聡明なエイスティンが引き継いだが。
しかし、それでもアメリアの頭脳はまだ錆びついていない。
「そうよ! 私は一人で生きていくと決めたじゃない! 」
自ら進んで「壁の花」になり、愛のない結婚に縛られることを拒んだのだ。
道は結婚一択ではない。
家庭教師という道もある。場合によっては、いづれかの店で働くのも悪くはない。泥と埃にまみれた掃除婦だって何だってしてやる。
ハナから貴族の身分を嫌っていたのだから。
アメリアは、葡萄が彫刻された衣装ダンスの最下段を引き、旅行鞄を取り出す。もう随分と長い間、使っていなかった。
アメリアはそこに、ドレスや下着など詰め込めるだけ詰め込むと、最上段の指輪やネックレスを一つ残らず加えた。
夜会で着飾るためにと兄がプレゼントしてくれたものばかり。大振りの宝石は、兄の期待値そのものだ。
「お兄様、ごめんなさい」
この宝石を売り払えば、当面の生活費は工面出来る。
兄の意に反する行いをするくせに、兄から貰い受けたものを利用する。
エデュアルトが知れば、どこまでも甘ったれた娘だと罵るだろうが。
生きていくためには、仕方ない。
これからは、利用するべきものは利用していかないと。あっと言う間に干からびてしまう。
アメリアは良心をズキズキさせながら、鞄の蓋を閉めた。
朝食を終えたアメリアは部屋に閉じ籠ると、悶々と悩んだ。悩みに悩んで、とうとうその結論に至る。
兄の言うところの「駆け落ち相手」がいない以上、自分で何とかするしかない。
現代の青髭などと揶揄される男の元へ嫁ぐなど、以ての外。名誉よりも命の方が大事だ。
「そうよ! 私には、他の令嬢にはないものがたくさんあるわ! 」
アメリアの顔に西日が当たる。
眩しさで目を眇めたりはしない。これは神様の導きだ。
悩みに悩んで、ランチもティータイムもすっ飛ばしてしまっていた。
メイドはアメリアが突然の婚姻にどん底に落ち込んでいると思って、敢えて寄り付きもしなかったから、食事抜きになっていることさえ知らなかった。
彼女らはきっと、アメリアから始終くどくどと愚痴を聞かされることを避けたのだ。メイドの仕事は山積みだ。夜遅くまで段取りが事細かに決められている。メソメソするアメリアを慰めている時間など全くないのだ。
アメリアは彼女らを雇う側。メイドの言い分は、わからないでもない。むしろ、決められた仕事をこなせないメイドは厄介でしかない。
それでも普段なら「薄情者」などとお腹をぐうぐう鳴らしていただろうが。
今はそんなこと気にもしない。
アメリアの体はどくどくと脈打ち、血潮が今にも吹き出しそうなくらいに興奮していた。
家出……その言葉は、アメリアを勇気づけた。
幸いにも亡くなった両親は、アメリアにこの上ない財産を残してくれた。
勿論、多額のお金や宝石のことではあるが、それだけではない。
何よりも知識を。
嫁いだ先で無知により虐げられないように。
当時、女性は男性に仕え、身綺麗にして家を守っていることが美徳とされていたが、亡くなった両親は実に先進的な考え方をしていた。
兄弟分け隔てなく教育を受けさせた。
兄ハリーは貴族の息子の誰しもがそうであるように、年頃になれば寄宿学校へ。寄宿学校へ入るまでは、王宮での勤めを引退した老騎士を雇って、技を身につけさせた。生憎と腕の方はからきしの結果だったが。
アメリアにも、一流と名高い家庭教師をつけた。こちらは大変に実を結んだ。おかげで、兄の仕事の代理として充分に役割を果たしている。もっとも、兄の結婚を境にお役御免、アメリアが賄っていた仕事は聡明なエイスティンが引き継いだが。
しかし、それでもアメリアの頭脳はまだ錆びついていない。
「そうよ! 私は一人で生きていくと決めたじゃない! 」
自ら進んで「壁の花」になり、愛のない結婚に縛られることを拒んだのだ。
道は結婚一択ではない。
家庭教師という道もある。場合によっては、いづれかの店で働くのも悪くはない。泥と埃にまみれた掃除婦だって何だってしてやる。
ハナから貴族の身分を嫌っていたのだから。
アメリアは、葡萄が彫刻された衣装ダンスの最下段を引き、旅行鞄を取り出す。もう随分と長い間、使っていなかった。
アメリアはそこに、ドレスや下着など詰め込めるだけ詰め込むと、最上段の指輪やネックレスを一つ残らず加えた。
夜会で着飾るためにと兄がプレゼントしてくれたものばかり。大振りの宝石は、兄の期待値そのものだ。
「お兄様、ごめんなさい」
この宝石を売り払えば、当面の生活費は工面出来る。
兄の意に反する行いをするくせに、兄から貰い受けたものを利用する。
エデュアルトが知れば、どこまでも甘ったれた娘だと罵るだろうが。
生きていくためには、仕方ない。
これからは、利用するべきものは利用していかないと。あっと言う間に干からびてしまう。
アメリアは良心をズキズキさせながら、鞄の蓋を閉めた。
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