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第一章
淫らなキスの先※
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アメリアはエデュアルトの首に回した手をさらに引き寄せて体を密着させた。
エデュアルトの顔はアメリアの頭の上にあったので、彼の顔から余裕がなくなっていることには気づかなかった。
漆黒の瞳はガーデンライトの薄暗い光に反射して、妖しくギラついている。
「まずいな」
エデュアルトの吐息が、アメリアの耳朶を掠めた。
「夢か現実か区別がつかなくなりそうだ」
「たぶん……夢だわ」
すでにアメリアは、意識を彼方へと持っていかれていり。
焦点の合わない眼差しで、ぼんやりと目の前の王子様を眺めた。
今、目の前にいるのは憎たらしい子爵ではない。
かつて恋焦がれた兄の親友だ。
「根拠は? 」
質問してきたくせに、凛々しい薄い唇で塞がれてしまって声を奪われてしまう。
アメリアは文句を喉に留めた。
答える代わりに繰り出される甘さに委ねよと、脳がキスを選択したからだ。
アメリアには初めてのキスだ。
エデュアルトが巧みにリードしてくれるから、躊躇なく彼の動きに応えることが出来る。
御伽話の主人公のような可愛らしいものではなく、欲を秘めた口づけがあることを知らしめられた。これが大人同士のキスだ。
「根拠は? アメリア? 」
キスの合間に、エデュアルトは先程の答えを促してきた。
「だって、品行方正な私がこんな大胆なことをしているんだから」
親愛の挨拶ではない、欲望がチリチリ燃えるキス。何とふしだらな。
「これが大胆だと? 」
「ええ」
「まだまだだよ」
揶揄うような軽さでエデュアルトは首を横に振った。
「俺に言わせれば、まだ淑女の仮面を剥いでいない」
「どうするの? 」
これ以上に淫らなことがあるのだろうか。
アメリアは興味深くエデュアルトを見上げ、すぐさま後悔した。
いつもの、飄々とした男ではない。
今にも雌に交尾を仕掛けんばかりに鼻息を荒くしている雄の顔がそこにあった。
アメリアの脳裏に、発情期で雌を追いかけ回す雄猫が過る。
毛並みが逆立つくらい、ぶるっと震えた。恐怖なのか、それとも煽られた興奮なのか。経験のないアメリアには、沸き立つ感情の正体がわからない。
「俺に身を委ねて」
エデュアルトは言いながら、アメリアの腰を引き寄せて、おもむろに膝裏に手を入れると抱えた。
ヒールの先が宙に浮く。
密着が増して、アメリアは気づいてしまった。
「あ、あの……ブランシェット卿」
「エデュアルト、だよ」
「エデュアルト……あの……」
「どうした? 」
エデュアルトはアメリアの耳朶を甘噛みしながら、彼女が言いたいであろうことを促す。
幼稚なアメリアは、エデュアルトが好む令嬢のように素知らぬふうを決め込むことなど出来ない。
「あ、あなたの、その」
生地を通してもわかるくらいに、エデュアルトの一部分がありえないくらいに硬くなっていたからだ。
アメリアは経験がないながらも、淑女の心得とやらで男性の変化くらいは習っている。学んだ通りのその状態を目の当たりにして戸惑った。
「ああ。至極真っ当な反応だよ」
真っ赤になって拙い言葉遣いのアメリアに、くっと喉を鳴らす。
「わ、私はなんかで興奮するの? 」
「勿論」
「まさか。嘘でしょう? 」
「信じられないのか? 」
「私なんて、壁の花だし。誰からも見向きされないのに」
「お前が男を寄せつけないように仕向けているからだ」
ピシャリとエデュアルトは言い切る。
「そうやって、わざと地味で子供っぽい格好をして、求婚を遠ざけているんだろう? 」
彼の言葉は本質を突いていた。デビューしたてはさすがに気張っていたが、ここ二、三年は煩わしさが勝り、わざと人を遠ざけるような身なりを狙っていた。
「ブランシェット卿は何でもお見通しなのね」
「エデュアルトだよ。呼び方を教えただろ」
エデュアルトはニヤリと企みのある笑みを覗かせた。
「あ、ああ! 」
途端にアメリアの体がビクリと跳ねた。
「は、はしたないわ。こんな場所で」
「何度も注意しているのに、聞かないからだ」
お仕置きだ、と楽しげな声が鼓膜を響かせる。
年頃の令嬢ならコルセットをつけて、少しでも自分の体型を良く見せる。
しかしアメリアは元から腰のくびれはあるし、男に媚びるつもりはなかったから、苦しいだけのコルセットなどつけていなかった。
易々と下着の隙間からエデュアルトの指を侵入させてしまった。
「あ、あん! や、やだ! 」
経験豊富なエデュアルトは、女性のどの部分を攻めれば官能を刺激させられるか熟知している。
精神的には子供であっても、体は成長期をしっかりなぞっているアメリアも例に漏れない。
長い指先がズロースの中にある薄い繁みを掻き分け、ふっくらした陰核を指の腹で押さえつければ、アメリアの顎先が天を向き、苦しみに耐えるかのごとく眉を寄せた。
じわり、と全身の毛穴から嫌な汗が吹き出す。
どくどくと、血流がやけに速い。
特に臍の下を走る血液の流れが異様に速く、臓器が体の外に飛び出してしまうのではないかと本気で心配するくらいだった。
「エデュアルトお兄様」
うっかりアメリアは、禁句を口にしまった。
それは社交デビューした際に封印した呼び名。
寄宿学校が長期休みのたびに訪ねてきたエデュアルトのことも、兄ハリーと同じように呼んでいた。
幼かった頃は、その呼び名が許されて嬉しかった。
自分がエデュアルトの特別になった気がして。
さすがに年頃となれば、そのような馴れ馴れしさは憚れる。
社交デビューして五年。
もう、そのように彼を呼ぶことはなかったはずなのに。
エデュアルトの顔はアメリアの頭の上にあったので、彼の顔から余裕がなくなっていることには気づかなかった。
漆黒の瞳はガーデンライトの薄暗い光に反射して、妖しくギラついている。
「まずいな」
エデュアルトの吐息が、アメリアの耳朶を掠めた。
「夢か現実か区別がつかなくなりそうだ」
「たぶん……夢だわ」
すでにアメリアは、意識を彼方へと持っていかれていり。
焦点の合わない眼差しで、ぼんやりと目の前の王子様を眺めた。
今、目の前にいるのは憎たらしい子爵ではない。
かつて恋焦がれた兄の親友だ。
「根拠は? 」
質問してきたくせに、凛々しい薄い唇で塞がれてしまって声を奪われてしまう。
アメリアは文句を喉に留めた。
答える代わりに繰り出される甘さに委ねよと、脳がキスを選択したからだ。
アメリアには初めてのキスだ。
エデュアルトが巧みにリードしてくれるから、躊躇なく彼の動きに応えることが出来る。
御伽話の主人公のような可愛らしいものではなく、欲を秘めた口づけがあることを知らしめられた。これが大人同士のキスだ。
「根拠は? アメリア? 」
キスの合間に、エデュアルトは先程の答えを促してきた。
「だって、品行方正な私がこんな大胆なことをしているんだから」
親愛の挨拶ではない、欲望がチリチリ燃えるキス。何とふしだらな。
「これが大胆だと? 」
「ええ」
「まだまだだよ」
揶揄うような軽さでエデュアルトは首を横に振った。
「俺に言わせれば、まだ淑女の仮面を剥いでいない」
「どうするの? 」
これ以上に淫らなことがあるのだろうか。
アメリアは興味深くエデュアルトを見上げ、すぐさま後悔した。
いつもの、飄々とした男ではない。
今にも雌に交尾を仕掛けんばかりに鼻息を荒くしている雄の顔がそこにあった。
アメリアの脳裏に、発情期で雌を追いかけ回す雄猫が過る。
毛並みが逆立つくらい、ぶるっと震えた。恐怖なのか、それとも煽られた興奮なのか。経験のないアメリアには、沸き立つ感情の正体がわからない。
「俺に身を委ねて」
エデュアルトは言いながら、アメリアの腰を引き寄せて、おもむろに膝裏に手を入れると抱えた。
ヒールの先が宙に浮く。
密着が増して、アメリアは気づいてしまった。
「あ、あの……ブランシェット卿」
「エデュアルト、だよ」
「エデュアルト……あの……」
「どうした? 」
エデュアルトはアメリアの耳朶を甘噛みしながら、彼女が言いたいであろうことを促す。
幼稚なアメリアは、エデュアルトが好む令嬢のように素知らぬふうを決め込むことなど出来ない。
「あ、あなたの、その」
生地を通してもわかるくらいに、エデュアルトの一部分がありえないくらいに硬くなっていたからだ。
アメリアは経験がないながらも、淑女の心得とやらで男性の変化くらいは習っている。学んだ通りのその状態を目の当たりにして戸惑った。
「ああ。至極真っ当な反応だよ」
真っ赤になって拙い言葉遣いのアメリアに、くっと喉を鳴らす。
「わ、私はなんかで興奮するの? 」
「勿論」
「まさか。嘘でしょう? 」
「信じられないのか? 」
「私なんて、壁の花だし。誰からも見向きされないのに」
「お前が男を寄せつけないように仕向けているからだ」
ピシャリとエデュアルトは言い切る。
「そうやって、わざと地味で子供っぽい格好をして、求婚を遠ざけているんだろう? 」
彼の言葉は本質を突いていた。デビューしたてはさすがに気張っていたが、ここ二、三年は煩わしさが勝り、わざと人を遠ざけるような身なりを狙っていた。
「ブランシェット卿は何でもお見通しなのね」
「エデュアルトだよ。呼び方を教えただろ」
エデュアルトはニヤリと企みのある笑みを覗かせた。
「あ、ああ! 」
途端にアメリアの体がビクリと跳ねた。
「は、はしたないわ。こんな場所で」
「何度も注意しているのに、聞かないからだ」
お仕置きだ、と楽しげな声が鼓膜を響かせる。
年頃の令嬢ならコルセットをつけて、少しでも自分の体型を良く見せる。
しかしアメリアは元から腰のくびれはあるし、男に媚びるつもりはなかったから、苦しいだけのコルセットなどつけていなかった。
易々と下着の隙間からエデュアルトの指を侵入させてしまった。
「あ、あん! や、やだ! 」
経験豊富なエデュアルトは、女性のどの部分を攻めれば官能を刺激させられるか熟知している。
精神的には子供であっても、体は成長期をしっかりなぞっているアメリアも例に漏れない。
長い指先がズロースの中にある薄い繁みを掻き分け、ふっくらした陰核を指の腹で押さえつければ、アメリアの顎先が天を向き、苦しみに耐えるかのごとく眉を寄せた。
じわり、と全身の毛穴から嫌な汗が吹き出す。
どくどくと、血流がやけに速い。
特に臍の下を走る血液の流れが異様に速く、臓器が体の外に飛び出してしまうのではないかと本気で心配するくらいだった。
「エデュアルトお兄様」
うっかりアメリアは、禁句を口にしまった。
それは社交デビューした際に封印した呼び名。
寄宿学校が長期休みのたびに訪ねてきたエデュアルトのことも、兄ハリーと同じように呼んでいた。
幼かった頃は、その呼び名が許されて嬉しかった。
自分がエデュアルトの特別になった気がして。
さすがに年頃となれば、そのような馴れ馴れしさは憚れる。
社交デビューして五年。
もう、そのように彼を呼ぶことはなかったはずなのに。
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