壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉

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第一章  

夢を彷徨うアメリア

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 エデュアルトがアメリアを気に食わないのは、貴族らしからぬその無知だ。
 貴族には貴族の責務がある。平民とは違う。
 貴族は決して遊び惚けて暮らしているわけではない。
 男なら国や家に尽くす。爵位を得たときから強制的に貴族議員となり、国政を担う。同時に、いかに自分の領地の民が幸せに暮らすか日々思案する。
 領地管理はワイン片手に易々と出来る仕事ではない。
 領地の把握、小作人との遣り取り、円滑な資金の流用、あらゆる知識が必要となる。統計学、測量に加え、貴族の公用語では小作人と遣り取り出来ないから彼らの言語も習得しなければならないし、状況によっては外交も必要だから最低二カ国くらいの言語は身につけておかなければならない。勿論、諸外国の礼儀をわかっていなければ始まらない。
 領地管理が上手くいかなければ暴動となり、すぐさま「無能」の烙印を押されて、国に領地を取り上げられ、末路は悲惨だ。
 実際に力量不足で爵位返上となった無能は何人もいる。
 男だけが重積ではない。
 妻だって、一日中部屋に篭って刺繍したり、甘い菓子を食べ漁っているわけにはいかない。
 貴族同士の繋がりの維持のために、お茶会と名の腹の探り合いはあるし、夫の代理として小作人と遣り取りしなければならない場合もある。礼状や依頼状を書くのも妻の役目だ。恥じない美しい文字であって当然。妻の行動一つが家の格を落とすから、貴族としてのマナーも必然だ。
 アメリアは、そのうちのほんの息抜きしか見ておらず、貴族を非難する。
 エデュアルトがアメリアを子供扱いするのは、そこだ。
 しかし、彼女はそこのところがまだよくわかっていない。
 未だに絵本のような、「素敵な王子様と結婚しました。めでたし、めでたし」という御伽話を理想とし、その先にある現実から目を背けている。
 二十歳を越えても未だ夢を彷徨ったままだ。
 そうした結果が「壁の花」。
 決して彼女は無能ではない。
 亡くなった前ヴィンセント伯爵夫妻は躾けには厳しく、家庭教師も一流と評判の人物を雇っていた。
 アメリアの書く文字は美しく、貴族の公用語の他、三ヶ国は習得している。計算が得意な方ではないと言いつつこなせているし、マナーもどの令嬢と比べても何ら恥じない。むしろ、彼女のお辞儀カーテシーは完璧だ。
 王宮に仕えてもおかしくない淑女。
 それなのに、両親が亡くなり代替わりした途端、甘えが出た。
 ヴィンセントも妹を可愛がって、好き放題させている。
 表だって我儘を出さないから、尚更、性質たちが悪い。
 彼女は他の令嬢のような無茶は口にしないし、慎ましく控えている。まさに、かすみ草のような可憐さだ。
 かすみ草の花言葉は、清らかな心。無邪気。
 アメリアにピッタリ嵌まる。特に「無邪気」な部分が。
 
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