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第一章
繁殖期のうさぎ
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エデュアルトはアメリアの年を聞いて、さらに鼻で笑った。
「では、エイスティン夫人より三歳下か」
アメリアの年齢をわかっていながら、義理の姉と三歳違いであることをいちいち確かめてきた。
「それが何か? 」
小馬鹿にしたような言い方にカチンときて、アメリアは思わず拳を握り締める。
何となく彼の言いたいことは、わかっている。
たかだか三歳違いだが、義姉とは天と地ほどに格差があると言いたいのだ。
輝くばかりの波打つ金髪に、アメジストを彷彿とさせる瞳。しなやかな体のライン、豊かに揺れる胸。まるで陶磁器の精巧な人形のごとく美しいエイスティン。
対する自分は、痩せて抱き心地悪そうな体、貧弱な胸、髪型も少女のときのまま、顔立ちも幼く、化粧気もなく、十代半ばにしか見えない。
「夜会に来ている男らは、お子様の子守りをしに来たのではないんだぞ」
エデュアルトは喉を鳴らす。
アメリアの目元が怒りで赤く染まった。
「私が子供だと言いたいの? 」
「お前のどこが大人だ? 」
すぐさま返され、ますますアメリアは憤怒する。
エデュアルトは、そんな彼女を冷ややかに見下ろしてきた。
「新婚夫婦の厄介者でありながら、図々しくも居座り、しかも開き直って。楽をして好き勝手振る舞い、まるで寄生虫だ」
「ひ、酷いわ! 寄生虫だなんて! 」
兄夫婦の好意に甘えているのは自覚しているが、酷い例えにダンダンと足を踏み鳴らす。
「繁殖期のうさぎよりマシよ! 」
キーッと声を軋ませて言い返した。
「それは俺の比喩か? 」
エデュアルトは整えた眉を僅かに動かした。
「他に誰がいるというの? 」
挑むような目つきとなる。普段は大人しくて陰口に対しても素知らぬふうを決め込むアメリアだが、エデュアルトの言動はいちいち見過ごせない。
「誰彼構わず盛って、そこら中にタネを撒き散らしているじゃない」
「失敬だな。ちゃんと避妊はしている」
そのような意味で言ったわけではない。避妊だなんて生々しい単語に、アメリアは頬を赤らめた。
「それに、誰でも良いわけではない」
思わせぶりに、チラリとアメリアに視線を向けてきた。
「俺が求めるのは、俺を受け入れることが出来る、身も心も成熟した女性だよ」
アメリアの頭のてっぺんから足の先まで視線を沿わす。
「少なくともお前じゃない」
彼の視線はぺったんこのアメリアの胸元で止まった。
「こ、こっちから願い下げよ! 」
沸騰せんばかりに真っ赤になったアメリアは、さらにヒールの踵で白砂利を叩きつける。
「ちょ、ちょっと女性からきゃいきゃい騒がれてるからって、調子に乗って! そのうち、手痛いしっぺ返しされるから! 」
高級娼婦だの、舞台女優だの、王宮勤めの侍女だの、果ては商家の未亡人。彼が薄ら寒い愛の言葉を吐いたとか言う噂の相手は、夜会のたびに違っている。
「この俺がか? 」
エデュアルトは鼻白んだ。
「そこのところは、抜かりはない。俺は最初から最後まで紳士だからな。お前は知らないだろうがな」
「し、知りたくもないわ! そんなこと! 」
この国の貴族は下半身がだらしない者ばかり。夜会で流れてくるのは、吐き気がするくらいの閨ごとばかり。
そのような爛れた貴族と一線を画す、一途に一人だけを想う兄を、アメリアは尊敬していた。
「あなたみたいな人が兄の親友だなんて! 信じられない! 」
「俺はお前を甘やかせるヴィンセントが信じられないよ」
エデュアルトは下手くそな芝居じみた肩の竦め方をして、わざとアメリアを煽る。
「お前の亭主を見つけるんだと息巻いているが。幾ら持参金を積まれようが、ごめんだな。こんな子供は」
「こ、子供ですって! 」
「事実だろ。アメリア」
「取り消して! 」
「いいや。取り消さない」
腕を組むと、力強く首を横に振った。
「さっさと認めろ。お前はエイスティン夫人を悩ませてる子供だと」
「お、お義姉様はいつまでも屋敷にいてもらって構わないと」
「そう言わざるを得ないエイスティン夫人の心の内を図れ」
まるでエイスティンが迷惑がっているのを前提にした言い方だ。
彼にとってエイスティンは、あくまで親友の妻。それ以上の関係性はない。それなのに、やけにエデュアルトはわかったふうな口をきく。
断言されて、アメリアは血が滲むくらいに唇を噛んだ。
「では、エイスティン夫人より三歳下か」
アメリアの年齢をわかっていながら、義理の姉と三歳違いであることをいちいち確かめてきた。
「それが何か? 」
小馬鹿にしたような言い方にカチンときて、アメリアは思わず拳を握り締める。
何となく彼の言いたいことは、わかっている。
たかだか三歳違いだが、義姉とは天と地ほどに格差があると言いたいのだ。
輝くばかりの波打つ金髪に、アメジストを彷彿とさせる瞳。しなやかな体のライン、豊かに揺れる胸。まるで陶磁器の精巧な人形のごとく美しいエイスティン。
対する自分は、痩せて抱き心地悪そうな体、貧弱な胸、髪型も少女のときのまま、顔立ちも幼く、化粧気もなく、十代半ばにしか見えない。
「夜会に来ている男らは、お子様の子守りをしに来たのではないんだぞ」
エデュアルトは喉を鳴らす。
アメリアの目元が怒りで赤く染まった。
「私が子供だと言いたいの? 」
「お前のどこが大人だ? 」
すぐさま返され、ますますアメリアは憤怒する。
エデュアルトは、そんな彼女を冷ややかに見下ろしてきた。
「新婚夫婦の厄介者でありながら、図々しくも居座り、しかも開き直って。楽をして好き勝手振る舞い、まるで寄生虫だ」
「ひ、酷いわ! 寄生虫だなんて! 」
兄夫婦の好意に甘えているのは自覚しているが、酷い例えにダンダンと足を踏み鳴らす。
「繁殖期のうさぎよりマシよ! 」
キーッと声を軋ませて言い返した。
「それは俺の比喩か? 」
エデュアルトは整えた眉を僅かに動かした。
「他に誰がいるというの? 」
挑むような目つきとなる。普段は大人しくて陰口に対しても素知らぬふうを決め込むアメリアだが、エデュアルトの言動はいちいち見過ごせない。
「誰彼構わず盛って、そこら中にタネを撒き散らしているじゃない」
「失敬だな。ちゃんと避妊はしている」
そのような意味で言ったわけではない。避妊だなんて生々しい単語に、アメリアは頬を赤らめた。
「それに、誰でも良いわけではない」
思わせぶりに、チラリとアメリアに視線を向けてきた。
「俺が求めるのは、俺を受け入れることが出来る、身も心も成熟した女性だよ」
アメリアの頭のてっぺんから足の先まで視線を沿わす。
「少なくともお前じゃない」
彼の視線はぺったんこのアメリアの胸元で止まった。
「こ、こっちから願い下げよ! 」
沸騰せんばかりに真っ赤になったアメリアは、さらにヒールの踵で白砂利を叩きつける。
「ちょ、ちょっと女性からきゃいきゃい騒がれてるからって、調子に乗って! そのうち、手痛いしっぺ返しされるから! 」
高級娼婦だの、舞台女優だの、王宮勤めの侍女だの、果ては商家の未亡人。彼が薄ら寒い愛の言葉を吐いたとか言う噂の相手は、夜会のたびに違っている。
「この俺がか? 」
エデュアルトは鼻白んだ。
「そこのところは、抜かりはない。俺は最初から最後まで紳士だからな。お前は知らないだろうがな」
「し、知りたくもないわ! そんなこと! 」
この国の貴族は下半身がだらしない者ばかり。夜会で流れてくるのは、吐き気がするくらいの閨ごとばかり。
そのような爛れた貴族と一線を画す、一途に一人だけを想う兄を、アメリアは尊敬していた。
「あなたみたいな人が兄の親友だなんて! 信じられない! 」
「俺はお前を甘やかせるヴィンセントが信じられないよ」
エデュアルトは下手くそな芝居じみた肩の竦め方をして、わざとアメリアを煽る。
「お前の亭主を見つけるんだと息巻いているが。幾ら持参金を積まれようが、ごめんだな。こんな子供は」
「こ、子供ですって! 」
「事実だろ。アメリア」
「取り消して! 」
「いいや。取り消さない」
腕を組むと、力強く首を横に振った。
「さっさと認めろ。お前はエイスティン夫人を悩ませてる子供だと」
「お、お義姉様はいつまでも屋敷にいてもらって構わないと」
「そう言わざるを得ないエイスティン夫人の心の内を図れ」
まるでエイスティンが迷惑がっているのを前提にした言い方だ。
彼にとってエイスティンは、あくまで親友の妻。それ以上の関係性はない。それなのに、やけにエデュアルトはわかったふうな口をきく。
断言されて、アメリアは血が滲むくらいに唇を噛んだ。
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