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サーフェスからの戒め
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「あなたを騙しておりました」
仮面の下から熱い涙が溢れてくる。
マーレイの心には、後悔からくる黒い渦が巻いていた。
サーフェスはジゼルを愛していると憚らない。
マーレイのことは、あくまで友人であると。
その友人に対して、甘い言葉を吐いていたのだ。
何より、あれほど焦がれた「かすみ草の淑女」が、この世には存在していなかった。
「サーフェス様のお怒りはもっともですわ」
マーレイは俯くなり、ドレスの生地をギュッと握りしめた。
「どのような罰も受ける覚悟は出来ております」
サーフェスの顔の半分が仮面に隠されており、心の内側が読み取れない。
余計にそれがマーレイを苦しめる。
「へえ。どのような罰も受けると? 」
サーフェスの声は皮肉っているように抑揚がない。彼は静かに怒りを滾らせている。
「勿論ですわ」
マーレイはきっぱりと口にする。
「家を取り潰しされても仕方ないことをいたしましたもの」
サーフェスの力を使えば、ヴィンセント家など簡単に潰せるだろう。普通なら、由緒ある伯爵家を取り潰すなど、たとえ女王であろうと至難の業だ。後ろ盾を一つ無くすことになるのだから。
しかし、サーフェスならあり得ないことではない。
あらぬことをでっち上げ、責任を追及し、廃嫡へと追い込むなど造作がなさそうだ。
「あなたのお気持ちは察しております」
父や兄、新婚の兄の妻、そしてケアランを始めとする使用人ら。その全てを路頭に迷わせてしまう。
自分の浅はかな行いによって。
そこまで至り、わっとマーレイは声をあげて泣いた。
伯爵令嬢らしからぬ感情の起伏だ。
「私の気持ちを知っているだと? 随分とわかったふうな口を聞くのだな」
取り乱すマーレイとは違って、淡々とサーフェスは尋ねた。
「何故、早い段階で打ち明けなかった? 」
「そ、それは」
マーレイはぐっと喉に声を詰まらせる。
「それは……」
サーフェスを愛しているから。
たとえジゼルを通してだろうと、彼から向けられる愛に溢れた眼差しを独占出来たから。
そのようなことは、口が裂けても言えない。
マーレイは上手い返し方を思いつかず俯く。
足元へポタリと涙が垂れ落ち、絨毯に丸い染みを作った。
「言いたくない、か」
わざとらしい嘆息が頭上から降ってくる。
騙されたといった怒りを孕んでいるのか。はたまた、淑女らしからぬ痴態に呆れ返っているのか。
俯いたままのマーレイには判別出来ない。
「罰を受けると言ったな」
「はい」
「なら、今、受けろ」
サーフェスの声が一段低くなる。
「え……」
「私は女性に暴力を振るう趣味はないが。今回は別だ」
マーレイを殴りつけることで、マーレイの振る舞いを帳消しにしようとしているのだ。
自分が頬を腫らすだけで、ヴィンセントの面々の生活が保証されるなら。
マーレイは拳を握ると、顔を上げた。
迷いのない真っ直ぐな目をサーフェスに向ける。
目が合って。
サーフェスはごくりと息を呑んだ。
「覚悟は出来ておりましてよ」
今しがたまでメソメソと泣いていた弱さは、そこにはない。
いつでも来い。マーレイは迷いなく彼を見据える。
サーフェスは微かに頷くと、前髪をぐしゃぐしゃと掻き上げた。
「歯を食い縛りたまえ、マーレイ」
言われるがまま、マーレイは奥歯を噛み締める。顎に負荷がかかり、耳が痛いほどだ。
「目を閉じて」
サーフェスの声が僅かに震えた気がした。
マーレイは目を閉じ、降りかかる痛みに備えていたため、それは確かめようがなかった。
仮面の下から熱い涙が溢れてくる。
マーレイの心には、後悔からくる黒い渦が巻いていた。
サーフェスはジゼルを愛していると憚らない。
マーレイのことは、あくまで友人であると。
その友人に対して、甘い言葉を吐いていたのだ。
何より、あれほど焦がれた「かすみ草の淑女」が、この世には存在していなかった。
「サーフェス様のお怒りはもっともですわ」
マーレイは俯くなり、ドレスの生地をギュッと握りしめた。
「どのような罰も受ける覚悟は出来ております」
サーフェスの顔の半分が仮面に隠されており、心の内側が読み取れない。
余計にそれがマーレイを苦しめる。
「へえ。どのような罰も受けると? 」
サーフェスの声は皮肉っているように抑揚がない。彼は静かに怒りを滾らせている。
「勿論ですわ」
マーレイはきっぱりと口にする。
「家を取り潰しされても仕方ないことをいたしましたもの」
サーフェスの力を使えば、ヴィンセント家など簡単に潰せるだろう。普通なら、由緒ある伯爵家を取り潰すなど、たとえ女王であろうと至難の業だ。後ろ盾を一つ無くすことになるのだから。
しかし、サーフェスならあり得ないことではない。
あらぬことをでっち上げ、責任を追及し、廃嫡へと追い込むなど造作がなさそうだ。
「あなたのお気持ちは察しております」
父や兄、新婚の兄の妻、そしてケアランを始めとする使用人ら。その全てを路頭に迷わせてしまう。
自分の浅はかな行いによって。
そこまで至り、わっとマーレイは声をあげて泣いた。
伯爵令嬢らしからぬ感情の起伏だ。
「私の気持ちを知っているだと? 随分とわかったふうな口を聞くのだな」
取り乱すマーレイとは違って、淡々とサーフェスは尋ねた。
「何故、早い段階で打ち明けなかった? 」
「そ、それは」
マーレイはぐっと喉に声を詰まらせる。
「それは……」
サーフェスを愛しているから。
たとえジゼルを通してだろうと、彼から向けられる愛に溢れた眼差しを独占出来たから。
そのようなことは、口が裂けても言えない。
マーレイは上手い返し方を思いつかず俯く。
足元へポタリと涙が垂れ落ち、絨毯に丸い染みを作った。
「言いたくない、か」
わざとらしい嘆息が頭上から降ってくる。
騙されたといった怒りを孕んでいるのか。はたまた、淑女らしからぬ痴態に呆れ返っているのか。
俯いたままのマーレイには判別出来ない。
「罰を受けると言ったな」
「はい」
「なら、今、受けろ」
サーフェスの声が一段低くなる。
「え……」
「私は女性に暴力を振るう趣味はないが。今回は別だ」
マーレイを殴りつけることで、マーレイの振る舞いを帳消しにしようとしているのだ。
自分が頬を腫らすだけで、ヴィンセントの面々の生活が保証されるなら。
マーレイは拳を握ると、顔を上げた。
迷いのない真っ直ぐな目をサーフェスに向ける。
目が合って。
サーフェスはごくりと息を呑んだ。
「覚悟は出来ておりましてよ」
今しがたまでメソメソと泣いていた弱さは、そこにはない。
いつでも来い。マーレイは迷いなく彼を見据える。
サーフェスは微かに頷くと、前髪をぐしゃぐしゃと掻き上げた。
「歯を食い縛りたまえ、マーレイ」
言われるがまま、マーレイは奥歯を噛み締める。顎に負荷がかかり、耳が痛いほどだ。
「目を閉じて」
サーフェスの声が僅かに震えた気がした。
マーレイは目を閉じ、降りかかる痛みに備えていたため、それは確かめようがなかった。
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