【完結】婚約破棄された悪役令嬢は童貞公爵様の恋愛指南役となる

晴 菜葉

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誘惑の朝4※

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 誰にも見せたことのない部分があけっぴろげになって、マーレイの白く透き通る肌は今や火を吹かんばかりに赤く染まっている。
「サーフェス様も」
「あ、ああ」
 サーフェスは初めてのことに戸惑うばかりで、そんなマーレイの肌の赤さになど構っている余裕はなかった。
 マーレイから促された彼は、急いで履いていた物を取り払う。
「きゃっ」
 昨日の朝は見るばかりか大胆にも口にも含んだものだが、やはり慣れない。両手で顔を覆って視界を遮るマーレイ。
「こ、これからどうすれば良いのだ? 」
 世の中の男女は、このように恥ずかしいことを難なく行っているのだろうか。
 今すぐ裸足のまま逃げ出したい衝動と必死に戦いつつ、マーレイはやたらに深呼吸を繰り返してその感情を抑え込む。
「え、えっと……リシュエルは確か……」
 『或る愛の軌跡』の主人公が下着を脱いだら、相手役のジャックは一体どのような動きをしていただろうか。マーレイは必死に頭の中でページを繰る。
「ん? 」
「い、いえ。独り言です。えっと……まず、首筋から舌を這わせて」
 監獄のシーンを思い出す。
「こ、こうか? 」
 よもや小説をなぞっているなど考えにも及ばないサーフェスは、促されるままにマーレイの首筋をべろりと舐めた。
「あっ……」
 ゾクゾクっと震えが全身を駆け抜ける。
「マーレイ? 」
 小刻みに揺れる体に、何か間違いでも犯したかと不安げに見下ろしてくるサーフェス。
「は、はい……そ、その後は、鎖骨を強めに吸って……」
 息を荒らしながら、マーレイは頭の中で次のページを捲った。
 サーフェスは言われるがまま、彼女の首に顔を埋めた。
「あ、痕がついたぞ」
「か、構いませんわ。そう言うものです」
「そ、そうか」
 果たして正解かどうかわからないが、取り敢えず言っておく。
 その間にも、小説の登場人物らの行為を記憶から引っ張り出した。
「む、胸の先を舐めていたと思います。確か」
「わ、わかった」
 ピンクに色づいた花芯を強めに吸われ、マーレイの顎が仰け反った。
「あっ……ああ…やっ……」
 中心から体の隅々まで、ジンとした痺れが広がっていく。こそばゆさと、微かな痛みを伴う感覚。マーレイは叫んでしまいたい衝動を奥歯を噛んで堪えた。
「き、気持ち良いのか? 」
 えもいわれぬ快感に必死に耐えるその顔は、眉間に皺が寄って、不機嫌に捉えかねない。
 不安そうな問いかけに、マーレイは素直に答えた。
「は……はい……」
 安堵の息が彼女の耳を掠めた。
「もう片方も舐めて良いのか? 」
「で、ですから。いちいち聞かなくてもよろしいですから」
 それを許可と受け取ったサーフェスは、片側にも同じように施す。
 敏感に反応したマーレイは、ますます息を荒げ、足の指をピンと尖らせた。
「マーレイ……」
 甘い囁きがマーレイの肌に乗る。
 太腿に摺り寄せられた彼のものは、物凄い硬さを伴い、さらに膨張していく。
「君のこの部分に、私のものを」
 経験がないといえども、娼婦をあてがわれたことのあるサーフェスには、知識は備わっている。
 マーレイも、将来のためにと学んではいた。
「お、お待ちになって」
 彼の意図していることに気づいたマーレイは、たちまち緊張の糸を張る。
 厚い胸板を両手で押し退けようとしたが、びくともしない。
 むしろ、ぐいぐいとさらに素肌に擦り付け、存在をアピールしている。
「だ、駄目です。この先は」
「何故だ」
「万が一がございます」
「私は構わない」
「い、いけません。あなたは公爵である身。何が火種になるか」
「しかし……」
「生まれてくる子供が不幸な目に遭うのは、避けなければ」
 結婚もしないうちから行為に及ぶ者は珍しくない。
 しかし、それに比例して、望まれぬまま生を成す子供がいるのは確かだ。その子供らの多くは、未来は決して明るいものではない。存在すら認められず、闇に葬られていく子供もいる。
 そのような子供を作らせないためにも、ここで拒絶しなければ。
 マーレイとサーフェスに与えられた義務だ。
 一時の感情に流されてはいけない。
「……そうだな」
 マーレイの必死の訴えに、サーフェスの滾っていた血が冷えていった。自責の念にかられるように、前髪をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「私としたことが……誰よりも、その気持ちを知っていたのに……」
「えっ……? 」
 彼の呟きを拾ったものの、その答えを聞くのは空気で拒まれている。
「すまない」
 あらゆる感情をその一言に集約し、サーフェスは頭を下げた。
「きちんと準備を整えてから、いたしましょうね」
 彼がこれで終わりにするつもりがないことは、ちゃんとマーレイには伝わっている。
 鳶色の髪をそっと撫でた。
「その方が良いな」
 サーフェスは緩く微笑むと、マーレイの頬に軽いキスを落とした。
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