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紫が定番
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バークレイ劇場のお芝居は、三日後に特別席が用意されており、これにはさすがのマーレイも呆れてしまった。
「手紙が届いてから三日後なんて。幾ら何でも展開が早いのではなくて? 」
勿論、当人には言うはずがない。
愚痴ったのは、ケアランに対してだ。
「まあまあ。結局のところ観劇なさりますのでしょう? よろしかったではありませんか? 」
ケアランは薄紫色の首の詰まったドレスか、はたまた濃い紫の襟ぐりの開いたドレスにするかで悩みながらも、マーレイの呟きに返した。
「でも、付き合いもない若いカップルが二人きりなんて。世間はどう思うかしら? 」
「あら、まあ。今更ですか? 」
「私は伯爵令嬢なのよ」
「そんなことを気になさるのは、お嬢様くらいですよ。どこぞの子爵令嬢なぞは、大人しい顔をして奔放に遊び回っているそうですよ」
「まあ、何てふしだらな」
片耳朶に白珊瑚の丸いイヤリングをくっつけながら憤る。
「せっかくの殿方との逢引きですし。この間のような、色の違ったドレスなど試してみては? 」
困ったように頬肉を垂れ下げながら、ケアランは紫のドレスを一旦クローゼットに仕舞うと、代わりに純白と薄水色のレースやリボンで装飾されたドレスを引っ張り出した。
紫ばかりだと嘆いた父が、勝手に誂えたもの。
「純白のドレスなんて着たから、公爵から厄介な役目を押し付けられたのよ」
ギロリと純白の絹地のドレスを睨みつける。
夜会用の派手さはないものの、多分に父の好みが入る、大きなリボンが腰回りに付いたデザインだ。
シンプルを好むマーレイからは、大きく外れている。
おそらく、サーフェスがイメージする「かすみ草の淑女」にピッタリの衣装だ。
「悪役令嬢マーレイと言えば、紫が定番でしょう? 」
元から目鼻立ちがくっきりしているから、これでもかと白粉をはたき、付け睫をビシビシさせているように思われるが、マーレイは至って薄化粧だ。申し訳程度に白粉をはたき、薄青のシャドウを瞼に乗せているのみ。
もう片方にイヤリングを付け終える。
仮面舞踏会でのジゼルから、ますます遠ざかった気がする。
「でしたら、せっかくの逢引きなのですし。せめて髪型くらいは変えられては? 」
ケアランは挫けずに提案した。
「帽子を被るのだから。そんなもの、わからないじゃない」
「観劇の際は取払いますよ」
「……私は誰に媚を売るつもり? 」
どうもケアランは、マーレイと公爵の距離が縮まるように奮闘しているように思えてならない。
「ですから、公爵に」
ケアランは認めた。
マーレイは、やれやれとわざとらしく溜め息をつく。
「公爵は、ジゼルに懸想されているのよ。それはもう、盲目なほどに」
「ジゼルもお嬢様ですよ」
「それは違うわ、ケアラン」
マーレイは緩く首を横に振って、彼女の考えを打ち消す。
「ジゼルは、私とは違う、別個の存在よ」
マーレイは紫のドレスが詰まったクローゼットを一瞥した。
「仮面舞踏会での私は、私ではなかったの」
仮面舞踏会でサーフェスに出会ったのは、あくまでジゼル。
悪役令嬢マーレイではない。
「手紙が届いてから三日後なんて。幾ら何でも展開が早いのではなくて? 」
勿論、当人には言うはずがない。
愚痴ったのは、ケアランに対してだ。
「まあまあ。結局のところ観劇なさりますのでしょう? よろしかったではありませんか? 」
ケアランは薄紫色の首の詰まったドレスか、はたまた濃い紫の襟ぐりの開いたドレスにするかで悩みながらも、マーレイの呟きに返した。
「でも、付き合いもない若いカップルが二人きりなんて。世間はどう思うかしら? 」
「あら、まあ。今更ですか? 」
「私は伯爵令嬢なのよ」
「そんなことを気になさるのは、お嬢様くらいですよ。どこぞの子爵令嬢なぞは、大人しい顔をして奔放に遊び回っているそうですよ」
「まあ、何てふしだらな」
片耳朶に白珊瑚の丸いイヤリングをくっつけながら憤る。
「せっかくの殿方との逢引きですし。この間のような、色の違ったドレスなど試してみては? 」
困ったように頬肉を垂れ下げながら、ケアランは紫のドレスを一旦クローゼットに仕舞うと、代わりに純白と薄水色のレースやリボンで装飾されたドレスを引っ張り出した。
紫ばかりだと嘆いた父が、勝手に誂えたもの。
「純白のドレスなんて着たから、公爵から厄介な役目を押し付けられたのよ」
ギロリと純白の絹地のドレスを睨みつける。
夜会用の派手さはないものの、多分に父の好みが入る、大きなリボンが腰回りに付いたデザインだ。
シンプルを好むマーレイからは、大きく外れている。
おそらく、サーフェスがイメージする「かすみ草の淑女」にピッタリの衣装だ。
「悪役令嬢マーレイと言えば、紫が定番でしょう? 」
元から目鼻立ちがくっきりしているから、これでもかと白粉をはたき、付け睫をビシビシさせているように思われるが、マーレイは至って薄化粧だ。申し訳程度に白粉をはたき、薄青のシャドウを瞼に乗せているのみ。
もう片方にイヤリングを付け終える。
仮面舞踏会でのジゼルから、ますます遠ざかった気がする。
「でしたら、せっかくの逢引きなのですし。せめて髪型くらいは変えられては? 」
ケアランは挫けずに提案した。
「帽子を被るのだから。そんなもの、わからないじゃない」
「観劇の際は取払いますよ」
「……私は誰に媚を売るつもり? 」
どうもケアランは、マーレイと公爵の距離が縮まるように奮闘しているように思えてならない。
「ですから、公爵に」
ケアランは認めた。
マーレイは、やれやれとわざとらしく溜め息をつく。
「公爵は、ジゼルに懸想されているのよ。それはもう、盲目なほどに」
「ジゼルもお嬢様ですよ」
「それは違うわ、ケアラン」
マーレイは緩く首を横に振って、彼女の考えを打ち消す。
「ジゼルは、私とは違う、別個の存在よ」
マーレイは紫のドレスが詰まったクローゼットを一瞥した。
「仮面舞踏会での私は、私ではなかったの」
仮面舞踏会でサーフェスに出会ったのは、あくまでジゼル。
悪役令嬢マーレイではない。
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※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
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