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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
05 ねぼすけ
しおりを挟む「もぉぉぉぉぉっ!! まっじで、ふざけんなよ。あの腐れ金髪防具立てと髭ジジィがよぉ!! 赤髪ババアも仲間だ仲間!!」
食事が終わる頃にはヴァンドは20杯目に到達していたし、受付に並んでいた若人の列も消え、人は疎らになっていた。
昼を過ぎ、各々が仕事に出かける時間。そんな閑散とした空間だからこそ、ヴァンドの声が良く響く。
「エレの働きを自分らの手柄にして!! ホントに糞だ! ウンコだ! ウンコ! ウーンーコ!!」
「汚ぇなぁ……」
「あの後の祝の席も気に食わねぇ! ちょび髭のおっさんも、オマエにわざとこぼしてたろ!!」
「年齢だからな。足腰が弱くなってるんだろ」
「モスカだってそうだ。アイツ、散々オマエにお世話になってたのに……!! 相応しくないってなんだよ……っ!」
「実際、追放されたんだ。国王の慈悲で出席させてもらわなきゃ、参加しなかったが」
「ケッ!! 笑いもんにするために呼んだんだろうが! なにが慈悲だよ。ジジイのジヒで、ジヒイってか? ジヒいだよナァ!? エレ!!」
ヴァンドがこう愚痴っている暇があるのは、勇者一党はオレが抜けたところの後釜探し中だからだ。
だから、ついてきたとしても咎めることができない。時間の過ごし方は各々の自由だ。
しかし、別宅でゆっくりとしようとしていたのに、愚痴を呼ぶためだけに呼ばれたとしたらこちらとしても困る。
それと、嫌な思い出を一々思い出させるのはなんなんだ?
「あぁ、イヤだなぁ~……。休みが終われば、お前のいない一党で、旅にでないといけないんだろぉ?」
「仕方ないだろ。俺は要らないとの御意向なんだから」
「いるに決まってんだろ。ただでさえ四人っつーアホみたいに少ない人数で挑んでんだ。目覚めたての魔族に冒険者が何人で挑むが知ってるか? 最低人数が四人だ! 推奨人数は十人! なのに魔王退治に? 四人? はぁぁあぁっ!? 馬鹿にしてんのか!? オイ、エレ! 馬鹿にしてんのか!?」
「なんでオレにキレてんだよ……あの王サマに言えよ」
「言えるかよ! すーぐ資産取り押さえて、お先の将来真っ黒だ。アイツはそこまでするぜ? あの顎髭ジーさんにたてつくだなんて誰ができんだよ!」
「……その顎髭ジーさんに『そうあれ』と命じられたんだ。平民の俺は従うしかないだろ。それにモスカにも言われたろ」
オレは自分の両手の平を見た。
「俺、弱くなってんだ。このままお前らについて行っても足を引っ張るだけだよ。だから、妥当だ」
旅が後半に行くにつれ、オレの実力は弱くなっていっていた。
足は遅くなり、膂力は落ちて、思考の処理速落ちてきた。それは自分が一番分かっている事だった。
その原因は分からないが……見当くらいはつく。
「…………戻るにしても、それを治してからだろうさ」
──すみませン! あノ! えぇっト!
その時、組合の受付に誰かが並んだらしい声が聞こえた。
「まっ、俺は正しいことをしたさ。おっ死にそうだった勇者様を抱えて帰って来たんだからな」
「それだけで王女様とお見合いをして、あの王様のことをパパって呼ぶ権利くらいもらえそうだけどな」
「今の親族に飽きたら、そうさせてもらうかな」
想像するだけで身の毛がよだつ。エレは話題を変えた。
「でも、新生勇者の一党かぁ。気になるな。どうするよ、女が入ってきたら」
「なんだよぉ、もう部外者気取りか?」
「そらそう、立派な部外者様だ。たまに村にいる勇者一党にやたら詳しいおじいちゃんみたいなもんさ」
ヴァンドが笑った。思い当たるヒトがいたのだろう。
「その部外者様の言葉だが、しっかりと護ってやれよ? 割れ物を扱う如く、慎重に慎重を期して」
「魔法を使わねぇと火のつけ方も知らねぇ馬鹿二人にしちゃあ、好待遇すぎる気がするが?」
「それでも頑張るんだよ。チリ紙だって人の尻を拭けんだから、人様が己の役目を果たせれない訳がない。護るのは得意だろう?」
「ケッ。どうせなら可愛げのあるモンを護りてぇよ!」
「違いないな」
――包帯だらけの男の人デ! 名前は、えっと、そノ……。
「……?」
受付の方から聞こえた声にまた視線が向く。こんな時間にやってくるということは寝坊助の一人だろうか。
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