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第7章:脱出
11:約束の時
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ロージーの判断は早かった。
「詠唱入力『正邪の秤』。『絶対なる盾』発動許可申請……」
――汝、我の力を欲するか?
(ええ。あなたの力を全部、わたしにちょうだいっ!)
――汝、我を全てを護るための盾として使うか?
(そうよっ! 皆をS.N.O.Jから護るための盾がほしいのっ!)
――汝、ならば同時に神殺しの剣を使うがよい。
(えっ? それってどういう意味?)
――汝は知ることになるだろう。正邪の秤の真なる力を。さあ、想い人にも薔薇乙女の細剣の力を解き放てと命じよ!
ロージーはどこからか聞こえてくる正体不明の声に戸惑いながらも、クロの方に顔を向け
「クロ! よくわからないけれど、あなたも薔薇乙女の細剣の御業を発動させて! とにかく、早くっ!!」
「あ、ああっ! わかった! 詠唱入力『薔薇乙女の細剣』。『棘の道程』発動許可申請……」
クロードが詠唱を開始する。彼の身体からは黄金色の魔力があふれ出し、彼の狐色の双眸は輝きを増して、魔力と同じ色の黄金色へと変わっていくのであった。それと同時に薔薇乙女の細剣はクロードの魔力を吸い上げて行き、その刀身から黄金色の粒子を大量に発するのであった。
「『絶対なる盾』発動よっ! わたしたちを護って!」
ロージーがそう叫ぶと同時に、その場に集う皆をすっぽりと包み込むように直径20メートル、高さ10メートルの半球状の薔薇色の防御壁が具現化されることになる。その防御壁に巻きつくように、紅き竜と雷鳴の竜たちが、その身体を散々にぶつけていくのであった。
衝撃が防御壁に襲い掛かるたびに、ロージーは端正な顔を苦痛で歪ませることになる。紅き竜と雷鳴の竜が障壁にぶつかると同時に激しい痛みが彼女の全身に襲い掛かるのであった。ひざから崩れ落ちそうになる彼女の腰にクロードは左腕を回して、彼女の支えとなる。
そんな全身の痛みに襲われる彼女にまたしても、どこからともなく声が聞こえてくる。
――汝、耐えるが良い。汝の痛みの全てが神殺しの剣と薔薇乙女の細剣の糧となる。
――汝は護られるだけの存在では無い。汝は盾であり、同時に矛である。さあ、痛みを力に変えよ。全ての罪を穿つ存在となれ!
半球状の薔薇色の障壁には紅き竜と雷鳴の竜の続けざまの体当たりにより、そこら中に亀裂が走っていた。
(正邪の秤の力と言えども、始祖神:S.N.O.Jの力に対抗できるモノではないのですか?)
地に伏していたハジュン=ド・レイはこの世に起きる現象とは思えない光景を目の当たりにしながら、絶望感で心が押しつぶされそうになっていた。いや、ハジュンだけでは無かっただろう。コッシローも、ヌレバも、ミサ=ミケーンも、セイ=ゲンドーも諦めかけていたのである。
だが、オルタンシア=オベールだけは違った。娘であるローズマリー=オベールとその想い人であるクロード=サインが互いにその身を支え合いながら、その両足でしっかりと大地を踏みしめて、異形なるモノと対峙し続けていた。
オルタンシアは両膝を地面につけて、両手を胸の前で力いっぱいに握りしめる。
(あなた……。どうか、2人の力になって……!)
オルタンシアは夫であるカルドリア=オベールに祈った。
(ヤオヨロズ=ゴッドさま……。どうか、2人の力になって……!)
オルタンシアは神に祈った。その神たちの始祖たる神が、娘たちの敵とも知らずに。
ついに薔薇色の障壁の亀裂は余すところなく、縦横無尽に走り、100枚以上のガラスが一度に割れるような音が響き渡る。
しかしだ。薔薇色の障壁は細切れになったものの、ひとつひとつの欠片は薔薇の花弁へと生まれ変わる。
そして薔薇の花弁の全ては、ロージーの左手に持つ神殺しの剣と、クロードが右手に持つ薔薇乙女の細剣に吸収されていく。
さらにはロージーとクロードの2人は黄金色のオーラに包まれる。
「『全ての罪を穿つ存在』発動よ!!」
ロージーの左手に持つ神殺しの剣から、薔薇色の螺旋を描く光線が発せられる。
「『棘の道程』発動だ!!」
クロードの右手に持つ薔薇乙女の細剣から黄金色の1本の極太の馬上槍がまっすぐに始祖神:S.N.O.Jへと放たれる。
薔薇色の螺旋と黄金色の槍が混じり合い、溶けあっていく。
――汝たちに祝福あれ! 『約束』の時、きたれり!!
溶けあった薔薇色の螺旋と黄金色の槍は黒い渦へと到達し、そこを起点として爆発的に真っ白な光を発する。
ロージーとクロードは同時に叫ぶ。
「『幸せへの福音歌』発動! 始祖神:S.N.O.Jよ、ここからいなくなれえええ!!」
その光は原初の光であった。
神がこの世を創ったあとに言った言葉がのちの世に残されている。その言葉は……。
『光あれ』
そして、神は続けて言った。
『お前たちに罪と罰を与える』
神はさらに付け加えた。
『のちに罪と罰は、お前たちの幸となる』
「詠唱入力『正邪の秤』。『絶対なる盾』発動許可申請……」
――汝、我の力を欲するか?
(ええ。あなたの力を全部、わたしにちょうだいっ!)
――汝、我を全てを護るための盾として使うか?
(そうよっ! 皆をS.N.O.Jから護るための盾がほしいのっ!)
――汝、ならば同時に神殺しの剣を使うがよい。
(えっ? それってどういう意味?)
――汝は知ることになるだろう。正邪の秤の真なる力を。さあ、想い人にも薔薇乙女の細剣の力を解き放てと命じよ!
ロージーはどこからか聞こえてくる正体不明の声に戸惑いながらも、クロの方に顔を向け
「クロ! よくわからないけれど、あなたも薔薇乙女の細剣の御業を発動させて! とにかく、早くっ!!」
「あ、ああっ! わかった! 詠唱入力『薔薇乙女の細剣』。『棘の道程』発動許可申請……」
クロードが詠唱を開始する。彼の身体からは黄金色の魔力があふれ出し、彼の狐色の双眸は輝きを増して、魔力と同じ色の黄金色へと変わっていくのであった。それと同時に薔薇乙女の細剣はクロードの魔力を吸い上げて行き、その刀身から黄金色の粒子を大量に発するのであった。
「『絶対なる盾』発動よっ! わたしたちを護って!」
ロージーがそう叫ぶと同時に、その場に集う皆をすっぽりと包み込むように直径20メートル、高さ10メートルの半球状の薔薇色の防御壁が具現化されることになる。その防御壁に巻きつくように、紅き竜と雷鳴の竜たちが、その身体を散々にぶつけていくのであった。
衝撃が防御壁に襲い掛かるたびに、ロージーは端正な顔を苦痛で歪ませることになる。紅き竜と雷鳴の竜が障壁にぶつかると同時に激しい痛みが彼女の全身に襲い掛かるのであった。ひざから崩れ落ちそうになる彼女の腰にクロードは左腕を回して、彼女の支えとなる。
そんな全身の痛みに襲われる彼女にまたしても、どこからともなく声が聞こえてくる。
――汝、耐えるが良い。汝の痛みの全てが神殺しの剣と薔薇乙女の細剣の糧となる。
――汝は護られるだけの存在では無い。汝は盾であり、同時に矛である。さあ、痛みを力に変えよ。全ての罪を穿つ存在となれ!
半球状の薔薇色の障壁には紅き竜と雷鳴の竜の続けざまの体当たりにより、そこら中に亀裂が走っていた。
(正邪の秤の力と言えども、始祖神:S.N.O.Jの力に対抗できるモノではないのですか?)
地に伏していたハジュン=ド・レイはこの世に起きる現象とは思えない光景を目の当たりにしながら、絶望感で心が押しつぶされそうになっていた。いや、ハジュンだけでは無かっただろう。コッシローも、ヌレバも、ミサ=ミケーンも、セイ=ゲンドーも諦めかけていたのである。
だが、オルタンシア=オベールだけは違った。娘であるローズマリー=オベールとその想い人であるクロード=サインが互いにその身を支え合いながら、その両足でしっかりと大地を踏みしめて、異形なるモノと対峙し続けていた。
オルタンシアは両膝を地面につけて、両手を胸の前で力いっぱいに握りしめる。
(あなた……。どうか、2人の力になって……!)
オルタンシアは夫であるカルドリア=オベールに祈った。
(ヤオヨロズ=ゴッドさま……。どうか、2人の力になって……!)
オルタンシアは神に祈った。その神たちの始祖たる神が、娘たちの敵とも知らずに。
ついに薔薇色の障壁の亀裂は余すところなく、縦横無尽に走り、100枚以上のガラスが一度に割れるような音が響き渡る。
しかしだ。薔薇色の障壁は細切れになったものの、ひとつひとつの欠片は薔薇の花弁へと生まれ変わる。
そして薔薇の花弁の全ては、ロージーの左手に持つ神殺しの剣と、クロードが右手に持つ薔薇乙女の細剣に吸収されていく。
さらにはロージーとクロードの2人は黄金色のオーラに包まれる。
「『全ての罪を穿つ存在』発動よ!!」
ロージーの左手に持つ神殺しの剣から、薔薇色の螺旋を描く光線が発せられる。
「『棘の道程』発動だ!!」
クロードの右手に持つ薔薇乙女の細剣から黄金色の1本の極太の馬上槍がまっすぐに始祖神:S.N.O.Jへと放たれる。
薔薇色の螺旋と黄金色の槍が混じり合い、溶けあっていく。
――汝たちに祝福あれ! 『約束』の時、きたれり!!
溶けあった薔薇色の螺旋と黄金色の槍は黒い渦へと到達し、そこを起点として爆発的に真っ白な光を発する。
ロージーとクロードは同時に叫ぶ。
「『幸せへの福音歌』発動! 始祖神:S.N.O.Jよ、ここからいなくなれえええ!!」
その光は原初の光であった。
神がこの世を創ったあとに言った言葉がのちの世に残されている。その言葉は……。
『光あれ』
そして、神は続けて言った。
『お前たちに罪と罰を与える』
神はさらに付け加えた。
『のちに罪と罰は、お前たちの幸となる』
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