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第6章:宮廷騒乱
7:対決
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「ロージー! しっかりしろ、ロージー!」
政務室で倒れ込んで昏倒してしまったロージーの上半身を抱きかかえるようにしながら、クロードはロージーに対して声をかけ続ける。だが、ロージーはハアハアと荒い呼吸をし、クロードに対して、何かの返答をすることはなかった。
ロージーは正邪の秤に隠された御業を発動したために、その身に宿る魔力の多くを消耗してしまったのであった。そのため、身体が休息を求めた結果、彼女はその場で眠ってしまうことになったのだ。
「むう……。クロードよ。このまま、ここに居ては危険なのでもうす。我輩がローズマリー殿を背負って運ぶゆえに、露払いはクロード、お前に任せるのでもうす」
「わかりました、ヌレバ師匠。ロージーのことをしっかり護ってください……。俺だと鎧を着こんだロージーを上手く運べるとは思えないから……」
「なあに……。そんなに気に病む必要はないのでもうす。頼れる者がいるのであれば、手を貸してもらうのも間違った選択ではないのでもうす」
クロードはロージーを抱きかかえ、ヌレバの背にロージーを預けるのであった。
(出来れば、俺がロージーをおぶってやりたかったけど、今はそんなことを言っている状況じゃない。ヌレバ師匠なら、ロージーを抱えたままでも片手で戦えるんだ。今は包囲されないように気をつけるべきなんだ)
クロードはそう自分に言い聞かせて、師匠であるヌレバにロージーを託すのであった。そして彼らは政務室をあとにする。宰相:ツナ=ヨッシーを屠ったクロードたちは、一度、ハジュン=ド・レイが居る詰め所に向かい、ハジュンにツナ=ヨッシーの最後を報告しようとするのであった。
しかし、運命とは残酷かな? クロードたちが急ぎ足で政務室から詰め所に向かっていく最中、庭園に抜けるための中庭にある回廊の途上にて、碧玉色の鎧を着こんだ兵士10人とばったり出くわすのであった。しかもだ、その兵士たちの一団の中に、クロードが見知った顔の騎士が居たのである。
「貴様らっ! その鎧の色を見ればわかるぞっ! ハジュン=ド・レイの子飼いであろうっ!」
「むう……。これは厄介なことになったのでもうす……。まさか、宰相:ツナ=ヨッシーの子飼いの騎士:モル=アキスとこんなところで出くわすとは思っていなかったのでもうす。これぞまさに『ヤオヨロズ=ゴッドのみぞ知る』運命というものでもうすか?」
ヌレバが唸っていると、ひと際装飾の成された紺碧の鎧に身を包んだ騎士:モル=アキスが、自分たちの部下に怒号にも似た声で指示を飛ばす。そして、さも興味がなさそうに
「ふんっ。今は皇女さまの護衛を宰相:ツナ=ヨッシーさまから指示されているっ! 貴様ら、運が良かったなっ!」
モル=アキスがそう捨て台詞を吐いて、外套をひるがえし、先に進んだ兵士たちの後を追おうとする。ヌレバもロージーを背負っていたため、ここは戦いを避けれたことに少し安堵したのだった。だが、モル=アキスの姿を見たクロードはつま先から頭のてっぺんまでを怒りに染めあげてしまっていた。
「おい、待てよ……。この盗賊上がりのクソ野郎……」
「ああぁっ!? おい、貴様、今、何て言いやがったっ!?」
モル=アキスがそう叫ぶので、紺碧色の鎧を着た兵士たちは、一度、モル=アキスの方に向き直すのであるが、彼は先に行っていろっ! と兵士たちに再び怒号を飛ばす。モル=アキスもまた『盗賊上がり』と言われて、一瞬で頭に血が昇ってしまったのである。
「おい、お前……。俺様が見逃してやろうと言ってやったのが聞こえなかったのかぁぁぁ!?」
「うるせえって言ってるだろうが! てめえの口からプンプン、ドブネズミみたいな匂いがするんだよ!」
モル=アキスとクロードが口汚い言葉の応酬を繰り返す。ヌレバは見かねてクロードの左肩に右手を乗せて、抑えろと言おうとするが、クロードはヌレバの右手を自分の右手で払い飛ばす。
「ヌレバ師匠。先に詰め所に向かってください。俺はロージーのもうひとりの仇を討ってから行きます……」
「いや、しかしでもうすよ? あちらはこちらを見逃してくれると言っているのでもうす。ローズマリー殿の身を護ることを第一に考えるのであれば、応えは明らかでもうすよ?」
「そんなことはわかっているんです……。でも、こいつをここで見失ったら、二度と、俺とロージーはこいつに会えなくなる。そんな気がしてたまらないんです!」
クロードには何か理由はわからないが、心の底から嫌な予感がした。ここでこのモル=アキスを絶対に逃がしてはならない。そんな予感めいた何かがクロードの心を支配するのであった。
「ヌレバ師匠。ロージーを頼みますっ! 俺はこいつを何とかしてから、あとを追いますっ!」
「わかったのでもうす……。しかし、無茶をしてはいけないのでもうすよ? モル=アキスは性根こそ腐りきっているでもうすが、その剣の実力は宰相:ツナ=ヨッシーから召し抱えられるほどなのでもうすからな?」
――モル=アキス。彼はかつては風の国:オソロシアで盗賊団を率いていた男であった。しかし、彼は盗賊出身だというのに、その剣の腕を買われて、宰相:ツナ=ヨッシーの子飼いの騎士として迎えられたのだ。
魔物狩人がその腕を見込まれて、騎士団に所属することは確かにある。だが、盗賊から【士爵】に成り上がった者など、ポメラニア帝国250年の歴史において、モル=アキスただひとりであったのだ。
そのモル=アキス相手にクロードは1対1で対峙しようとしたのである。ヌレバは師匠として、クロードを鍛え上げてきたが、それでもモル=アキス相手では結果はどうなるかわからなかった。後ろ髪引かれる思いではあったが、ヌレバはクロードからローズマリー=オベールを預けられた以上、ローズマリーの安全を第一に優先するのであった。
ヌレバがロージーを背負ったまま、その場から立ち去って、数分後、クロードとモル=アキスは腰に佩いた長剣を抜いて、幾度も剣戟をかわしあっていた。
「キーヒヒッ! ヌレバ=スオーが去ってくれたのはありがたいわっ! あいつ含めて1対2では、こちらが勝つ算段は立てられそうにもなかったんだからなあああっ!」
(ちっ! この野郎っ! 俺がひとりなら、お茶の子さいさいって言いたいのかよっ!)
確かにモル=アキスは騎士とは思えぬような身のこなしで、あらゆる態勢から次々と突きを出してくる。モル=アキスは明らかに実践慣れした剣の使い手であったのだった。
政務室で倒れ込んで昏倒してしまったロージーの上半身を抱きかかえるようにしながら、クロードはロージーに対して声をかけ続ける。だが、ロージーはハアハアと荒い呼吸をし、クロードに対して、何かの返答をすることはなかった。
ロージーは正邪の秤に隠された御業を発動したために、その身に宿る魔力の多くを消耗してしまったのであった。そのため、身体が休息を求めた結果、彼女はその場で眠ってしまうことになったのだ。
「むう……。クロードよ。このまま、ここに居ては危険なのでもうす。我輩がローズマリー殿を背負って運ぶゆえに、露払いはクロード、お前に任せるのでもうす」
「わかりました、ヌレバ師匠。ロージーのことをしっかり護ってください……。俺だと鎧を着こんだロージーを上手く運べるとは思えないから……」
「なあに……。そんなに気に病む必要はないのでもうす。頼れる者がいるのであれば、手を貸してもらうのも間違った選択ではないのでもうす」
クロードはロージーを抱きかかえ、ヌレバの背にロージーを預けるのであった。
(出来れば、俺がロージーをおぶってやりたかったけど、今はそんなことを言っている状況じゃない。ヌレバ師匠なら、ロージーを抱えたままでも片手で戦えるんだ。今は包囲されないように気をつけるべきなんだ)
クロードはそう自分に言い聞かせて、師匠であるヌレバにロージーを託すのであった。そして彼らは政務室をあとにする。宰相:ツナ=ヨッシーを屠ったクロードたちは、一度、ハジュン=ド・レイが居る詰め所に向かい、ハジュンにツナ=ヨッシーの最後を報告しようとするのであった。
しかし、運命とは残酷かな? クロードたちが急ぎ足で政務室から詰め所に向かっていく最中、庭園に抜けるための中庭にある回廊の途上にて、碧玉色の鎧を着こんだ兵士10人とばったり出くわすのであった。しかもだ、その兵士たちの一団の中に、クロードが見知った顔の騎士が居たのである。
「貴様らっ! その鎧の色を見ればわかるぞっ! ハジュン=ド・レイの子飼いであろうっ!」
「むう……。これは厄介なことになったのでもうす……。まさか、宰相:ツナ=ヨッシーの子飼いの騎士:モル=アキスとこんなところで出くわすとは思っていなかったのでもうす。これぞまさに『ヤオヨロズ=ゴッドのみぞ知る』運命というものでもうすか?」
ヌレバが唸っていると、ひと際装飾の成された紺碧の鎧に身を包んだ騎士:モル=アキスが、自分たちの部下に怒号にも似た声で指示を飛ばす。そして、さも興味がなさそうに
「ふんっ。今は皇女さまの護衛を宰相:ツナ=ヨッシーさまから指示されているっ! 貴様ら、運が良かったなっ!」
モル=アキスがそう捨て台詞を吐いて、外套をひるがえし、先に進んだ兵士たちの後を追おうとする。ヌレバもロージーを背負っていたため、ここは戦いを避けれたことに少し安堵したのだった。だが、モル=アキスの姿を見たクロードはつま先から頭のてっぺんまでを怒りに染めあげてしまっていた。
「おい、待てよ……。この盗賊上がりのクソ野郎……」
「ああぁっ!? おい、貴様、今、何て言いやがったっ!?」
モル=アキスがそう叫ぶので、紺碧色の鎧を着た兵士たちは、一度、モル=アキスの方に向き直すのであるが、彼は先に行っていろっ! と兵士たちに再び怒号を飛ばす。モル=アキスもまた『盗賊上がり』と言われて、一瞬で頭に血が昇ってしまったのである。
「おい、お前……。俺様が見逃してやろうと言ってやったのが聞こえなかったのかぁぁぁ!?」
「うるせえって言ってるだろうが! てめえの口からプンプン、ドブネズミみたいな匂いがするんだよ!」
モル=アキスとクロードが口汚い言葉の応酬を繰り返す。ヌレバは見かねてクロードの左肩に右手を乗せて、抑えろと言おうとするが、クロードはヌレバの右手を自分の右手で払い飛ばす。
「ヌレバ師匠。先に詰め所に向かってください。俺はロージーのもうひとりの仇を討ってから行きます……」
「いや、しかしでもうすよ? あちらはこちらを見逃してくれると言っているのでもうす。ローズマリー殿の身を護ることを第一に考えるのであれば、応えは明らかでもうすよ?」
「そんなことはわかっているんです……。でも、こいつをここで見失ったら、二度と、俺とロージーはこいつに会えなくなる。そんな気がしてたまらないんです!」
クロードには何か理由はわからないが、心の底から嫌な予感がした。ここでこのモル=アキスを絶対に逃がしてはならない。そんな予感めいた何かがクロードの心を支配するのであった。
「ヌレバ師匠。ロージーを頼みますっ! 俺はこいつを何とかしてから、あとを追いますっ!」
「わかったのでもうす……。しかし、無茶をしてはいけないのでもうすよ? モル=アキスは性根こそ腐りきっているでもうすが、その剣の実力は宰相:ツナ=ヨッシーから召し抱えられるほどなのでもうすからな?」
――モル=アキス。彼はかつては風の国:オソロシアで盗賊団を率いていた男であった。しかし、彼は盗賊出身だというのに、その剣の腕を買われて、宰相:ツナ=ヨッシーの子飼いの騎士として迎えられたのだ。
魔物狩人がその腕を見込まれて、騎士団に所属することは確かにある。だが、盗賊から【士爵】に成り上がった者など、ポメラニア帝国250年の歴史において、モル=アキスただひとりであったのだ。
そのモル=アキス相手にクロードは1対1で対峙しようとしたのである。ヌレバは師匠として、クロードを鍛え上げてきたが、それでもモル=アキス相手では結果はどうなるかわからなかった。後ろ髪引かれる思いではあったが、ヌレバはクロードからローズマリー=オベールを預けられた以上、ローズマリーの安全を第一に優先するのであった。
ヌレバがロージーを背負ったまま、その場から立ち去って、数分後、クロードとモル=アキスは腰に佩いた長剣を抜いて、幾度も剣戟をかわしあっていた。
「キーヒヒッ! ヌレバ=スオーが去ってくれたのはありがたいわっ! あいつ含めて1対2では、こちらが勝つ算段は立てられそうにもなかったんだからなあああっ!」
(ちっ! この野郎っ! 俺がひとりなら、お茶の子さいさいって言いたいのかよっ!)
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