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第3章:コッシローとの邂逅

5:心の刃

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(こいつ……。いったい何を考えているのかしら? わたしの心をかき乱して楽しんでいる? それとも本当に宰相:ツナ=ヨッシーとその手下のモル=アキスに復讐をする手伝いを買ってでてくれているだけ?)

 ロージーにはわからないことだらけであった。得体の知れぬ【黒い湖ブラックレイクの大魔導士】とまで呼ばれたコッシローが何故、このような白い体毛に覆われたネズミの姿であること。そして、何故、コッシローが自分を挑発しているのか? 自分の復讐劇に付き合うことで彼に何の利益があるのか?

 激しい動悸を必死に抑えながらも、ロージーは懸命に眼の前のコッシローが何を考えているのかを思索するのであった。しかし、そんなロージーを見透かすかのようにコッシローが、ちゅっちゅっちゅと不気味に笑う。

「あまり良い出会いじゃなかったせいで、ボクはロージーちゃんに疑われているでッチュウ。では、誤解を解くためにも、ボクがここにやってくることになった経緯いきさつを説明させてもらうでッチュウ」

 コッシローはそう言うと、白いテーブルの上にお尻をトスンと降ろして、身振り手振りでロージーとクロードに経緯いきさつを説明しだすのであった。

 彼が言うには、四大貴族のひとり、ハジュン=ド・レイがクロードと邂逅したあと、本格的に宰相:ツナ=ヨッシーをどうにかしないといけないと決断したのが始まりであったと告げる。

 その一言に今度はクロードが動揺させられることになる。コッシローが再三に渡り、ロージーを挑発することになった発端は、クロードにも責任の一端があったことがわかったからだ。

 動揺するクロードを見ながら、コッシローはまたもや、ちゅっちゅっちゅと不敵に笑う。クロードは、くっと唸りながら、自分の感情を抑えコッシローに続きを言うように促すのであった。

「もう少し、慌てふためいてくれても良いのでッチュウのに、キミたちはボクの期待を悪い意味で裏切ってくれるコンビでッチュウね? まあ、それは今は置いておくのでッチュウ。さて、四大貴族はそれぞれに派閥を組んでいるでッチュウ。そして、二大派閥を作り上げて、いがみ合っているでッチュウ。そのいがみ合いに巻き込まれたのがロージーちゃんのお父上という話でッチュウ」

「うちのパパがボサツ家への嫌がらせのためだけに、事実無根の罪を被らせられたのは知っているわ……。クロードがハジュンさまから手に入れた情報を、包み隠さずにわたしに教えてくれたもの……」

 クロードとしては、宰相:ツナ=ヨッシーのボサツ家への嫌がらせのためだけにロージーの父親が冷凍睡眠刑にされたという真実を、ロージーに開示したくなかった。だが、そのことを黙っていたほうが後々、ロージーが何か厄介なことに巻き込まれるのでは? という疑念があった。

 それゆえ、クロードは機会を見つけて、ロージーにそのことを告げたのだが、その時のロージーは意外と冷静であった。ロージー自身は薄々気づいていたのである。深慮遠謀な計画に巻き込まれたわけではなく、貴族同士の感情的ないざこざに巻き込まれただけだということに。ただ、ロージーには確証が無いので、感情任せにそれを口にするのをはばかっただけであった。

「ちゅっちゅっちゅ。さすがは狐と狸が化かし合う貴族社会で育ってきただけはあるでッチュウね、ロージーちゃんは。それゆえ、ボクが挑発を繰り返しても、感情を抑えきることが出来た、というわけでッチュウか。これは挑発する相手を間違えたでッチュウね。クロードを籠絡する手を使えば良かったでッチュウ」

「お生憎あいにくさまね。クロはわたしの忠実な騎士さまなの。わたしが『お座り!』と命じれば、クロは喜んで、わたしの足まで舐めるわよ?」

 ロージーの台詞を聞いて、コッシローはこれは一本取られたとばかりに、ちゅっちゅっちゅ! と高笑いをするのであった。クロードが何か言いたげな不満な表情を顔に浮かべているが、ロージーは冗談だから、抑えて抑えてと左手でジェスチャーを取り、クロードに発言するのを控えさせるのである。

「さて、さらに話を進めさせてもらうでッチュウよ?」

「ええ、良いわよ? 何を言われても、わたしは復讐のために動かないから」

「まあ、話を最後まで聞いてから判断してほしいでッチュウ。ハジュンの小僧が宰相派と事を構えるきっかけを作ったのはクロードが一因なのは確かでッチュウ。オベール家への行き過ぎた嫌がらせにハジュンの小僧らしくもなく腹を立てたんでッチュウ。あいつ、ヒトには冷静沈着でいろと言いつつ、自分はそうじゃないところが厄介なのでッチュウ」

 コッシローの説明では、オベール家の当主:カルドリア=オベールが冷凍睡眠刑に処され、それで過剰なストレスを受けた奥方:オルタンシア=オベールが心身衰弱し、オルタンシアがあわやというところまで追い詰められたことに非常に立腹したことをロージーたちに告げる。

 クロードはその話を聞いて驚いたのは無理がなかった。かつて、クロードがハジュンと邂逅した時には、ハジュンに一喝されたからだ。『あなたは直情的すぎる』と。だが、自分に説教をしたハジュンが、自分以上に腹を立てていた事実に困惑してしまうのであった。

「ハジュンさまは、俺に『ローズマリーくんがどうなるかわかっているのですか?』的なことを言っていたのに……。そんなハジュンさまがどうして……」

「ちゅっちゅっちゅ。ハジュンの小僧の厄介なところは、直情的でありながら、その感情を抑えて、淡々と復讐の機会を待てるところでッチュウ。クロード。キミとハジュンの小僧とでは大違いでッチュウ。その時の感情任せに相手を痛めつけるのではダメなのでッチュウ。やるなら、相手を再起不能になるまで完膚無きに叩き伏せる。そして、さらに再起不能にした上で、二度と這い上がってこれないようにトドメまできっちり取ることでッチュウ」

 クロードは、なるほど……と思わざるを得なかった。自分に足りないものが何であるかをコッシローに教えられた気分である。

「ハジュンの小僧がクロードにあの時、『動けない』と言ったのは準備が整ってなかっただけなのでッチュウ。クロード。キミには何かを成し遂げるためには『屈辱』や『怨嗟』で、心の刃を磨かなければならない時期があることを知るべきなのでッチュウ。お前の飼い主であるロージーちゃんを見習うべきなのでッチュウ」

「ちょっと、待ちなさいよ。わたしは復讐なんて考えてないって言っているでしょ? 勝手にわたしを巻き込まないでくれるかしら?」
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