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第12章:ロケット・パンチ
第3話:遺伝子
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そもそもとして、今、ロック=イートを倒すことは何の得にもならないことはミーナ=バーナン自身も理解している。エキシビジョンマッチとは言わば余興である。誰のための余興かと言えば、アンゴルモア大王とこの会場に集まる観客たちを指していることは自明の理だ。ならば、自分はその余興を盛り上げるために一役担えと言われたも同然である。ならば、その役目を果たすためにミーナ=バーナンは口を動かすこととなる。
「アンゴルモア大王がおっしゃっていたように、ミーナちゃんとキミは同じ師を持つ間柄だピョン。ただし、ミーナちゃんは『竜の涙』出身で、キミは『虎の穴』出身という違いがあるんだピョン」
ミーナ=バーナンの言葉を受けて、ロック=イートは何かが繋がっていく感覚に襲われる。お師匠様が言っていた『裏の顔』が『竜の涙』であることに。そして、『裏』とはまさにミーナ=バーナンの存在そのものであることを。
「ミーナ=バーナン。お前の存在はお師匠様の『裏の顔』そのものなんだな?」
「察しが良くて助かるピョン。モトカード拳法には『表』と『裏』があるピョン。『表』は打拳・投法・蹴倒の三本柱で成り立っているのは言わずともわかるピョンね?」
ロック=イートはミーナ=バーナンにコクリと頷き、それを肯定する。ロック=イートが打拳。姉弟子:サラ=ローランが投法。そして兄弟子:コタロー=サルガミが蹴倒であることはロック=イートも理解していた。
あの日、お師匠様の庵で拳聖の後継者として自分から指名を受けた以上、ロック=イートは姉弟子と兄弟子の技を吸収し、本物の拳聖へと育っていく予定であることを泥酔していた拳聖:キョーコ=モトカードから伝えられていた。だが、それだけでは足りぬと言われ、『裏の顔』を知る必要があると言った後に、拳聖:キョーコ=モトカードが眠りに落ちたという経緯をはっきりと思い出すに至る。
「あの酔っ払いっ! 肝心なところで寝落ちしやがってっ!!」
ロック=イートが毒づくのを聞いて、ミーナ=バーナンはまたもやハアアア……と長いため息をつく。ミーナ=バーナンはこの時になって気づいたのだ。拳聖の後継者として指名された男が自分たち『裏』の存在をほとんど知らずじまいである事実に。ミーナ=バーナンは身体から力とやる気が抜け落ちていく感覚に襲われる。
眼の前で片膝をついている男はアンゴルモア大王が画策している計画において、鍵を握る人物である。だからこそ、エキシビジョンマッチという形で、本当にこの男がアンゴルモア大王の利益になる男かを確かめろと言われている気がしてならないミーナ=バーナンである。そんな面倒くさいことを押し付けられた以上、ミーナ=バーナンとしてもアンゴルモア大王に対して、嫌がらせをしてやろうと考えつく。
「真に拳聖の名を継ぐのであれば、打拳・投法・蹴倒を修めるだけではなく、『裏』の事情も理解しなきゃならないピョン。でも、アルカード様はキミとは慣れあう気がないんだピョン」
ロック=イートはここでアルカードという名前を出され、いまいちピンとこないといった表情へ変わってしまう。どこかで聞いたことのある名前であることは確かなのだが、ちゃんと思い出せない。ロック=イートは右手でゴツンと一発、自分のコメカミを叩き、その名がどこで出てきたのかを思い出すに至る。
「サラ姐がこの上覧武闘会で登録していた名前がアルカード=カラミティ……?」
「そうだピョン。モトカード流拳法『裏』の代表格がアルカード=カラミティ様なんだピョン。キミはその『裏』の代表格に認められていないと思ってくれて良いんだピョン」
ロック=イートは次々と明らかになる拳聖:キョーコ=モトカードの『裏の顔』についての情報量に溺れそうになっていた。耳はしっかりとミーナ=バーナンの声を聞いているが、頭がついてこずに理解が進まない。ロック=イートは頭を強めに左右に振り、自分はいったい何をしたいのかを思い出す。
「俺は拳聖:キョーコ=モトカード様に憧れてはいる……。でも、俺が本当になりたいのは拳聖じゃないっ! 俺は『世界最強の生物』になりたいんだっ!」
「そう。キミはそれで良いんだピョン。だからこそ、アルカード様はキミが気に入らないんだピョン。拳聖になれるだけの素質と器を持ちながら、自分の夢に殉じようとするキミが嫌いなんだピョンッ!」
ミーナ=バーナンはそう叫ぶや否や、ロック=イートの顔面に右足の甲をぶち込む。彼としゃべっていると心の底から憎悪が沸き起こり、いてもたってもいられず、その顔を苦痛で歪ませてやりたくなってしまったのだ。ロック=イートは未だ満足に動ける状態に無く、ミーナ=バーナンの蹴りをまともに喰らってしまい、石畳の上に倒れ込んでしまう。ミーナ=バーナンは死に体のロック=イートの相手などしていられるかとばかりに、倒れ込んだロック=イートの脇腹に足刀を叩きこむ。
そして、ロック=イートの傷口がさらに開かんとばかりに足の裏で彼の左脇腹を踏みつける。ロック=イートはグアアア……と苦悶の声をあげる。その声を聞き、少しばかりは気分がすっきりしたミーナ=バーナンは抱え込んでいた緋緋色金製の手甲をひとつだけ石畳の上に放り投げ、空いた右手を唇に当ててピュゥッ! と口笛を吹く。
するとだ。石畳に映る彼女の影から魔物と思わしき存在がいきなり現れ出でることとなる。そいつは虎でありながら、ニンゲンのように二本足で立ちあがる。体毛は黒を基調とし、紅い縞模様が浮かび上がっている。両目は虎眼石そのものの色をしており、鋭い歯を剥き出しにしている。明らかにその様はロック=イートに対して、敵愾心を抱いていることは一目瞭然であった。
「この子は拳聖:キョーコ=モトカードの遺伝子を失敬して生み出された合成獣だピョン。まだまだ調整不足でミーナちゃんやキミの足元にも及ばないほどの力しか発揮できないけど、今のキミ程度なら良い相手になってくれるんだピョン」
「なん……だと?」
「『人類最強計画の申し子』たちはアンゴルモア四天王たちの手により、この世からほとんど消されてしまったけど、アンゴルモア大王は次の計画を進めていたんだピョン。それが『人類合成獣化計画』なんだピョン」
「アンゴルモア大王がおっしゃっていたように、ミーナちゃんとキミは同じ師を持つ間柄だピョン。ただし、ミーナちゃんは『竜の涙』出身で、キミは『虎の穴』出身という違いがあるんだピョン」
ミーナ=バーナンの言葉を受けて、ロック=イートは何かが繋がっていく感覚に襲われる。お師匠様が言っていた『裏の顔』が『竜の涙』であることに。そして、『裏』とはまさにミーナ=バーナンの存在そのものであることを。
「ミーナ=バーナン。お前の存在はお師匠様の『裏の顔』そのものなんだな?」
「察しが良くて助かるピョン。モトカード拳法には『表』と『裏』があるピョン。『表』は打拳・投法・蹴倒の三本柱で成り立っているのは言わずともわかるピョンね?」
ロック=イートはミーナ=バーナンにコクリと頷き、それを肯定する。ロック=イートが打拳。姉弟子:サラ=ローランが投法。そして兄弟子:コタロー=サルガミが蹴倒であることはロック=イートも理解していた。
あの日、お師匠様の庵で拳聖の後継者として自分から指名を受けた以上、ロック=イートは姉弟子と兄弟子の技を吸収し、本物の拳聖へと育っていく予定であることを泥酔していた拳聖:キョーコ=モトカードから伝えられていた。だが、それだけでは足りぬと言われ、『裏の顔』を知る必要があると言った後に、拳聖:キョーコ=モトカードが眠りに落ちたという経緯をはっきりと思い出すに至る。
「あの酔っ払いっ! 肝心なところで寝落ちしやがってっ!!」
ロック=イートが毒づくのを聞いて、ミーナ=バーナンはまたもやハアアア……と長いため息をつく。ミーナ=バーナンはこの時になって気づいたのだ。拳聖の後継者として指名された男が自分たち『裏』の存在をほとんど知らずじまいである事実に。ミーナ=バーナンは身体から力とやる気が抜け落ちていく感覚に襲われる。
眼の前で片膝をついている男はアンゴルモア大王が画策している計画において、鍵を握る人物である。だからこそ、エキシビジョンマッチという形で、本当にこの男がアンゴルモア大王の利益になる男かを確かめろと言われている気がしてならないミーナ=バーナンである。そんな面倒くさいことを押し付けられた以上、ミーナ=バーナンとしてもアンゴルモア大王に対して、嫌がらせをしてやろうと考えつく。
「真に拳聖の名を継ぐのであれば、打拳・投法・蹴倒を修めるだけではなく、『裏』の事情も理解しなきゃならないピョン。でも、アルカード様はキミとは慣れあう気がないんだピョン」
ロック=イートはここでアルカードという名前を出され、いまいちピンとこないといった表情へ変わってしまう。どこかで聞いたことのある名前であることは確かなのだが、ちゃんと思い出せない。ロック=イートは右手でゴツンと一発、自分のコメカミを叩き、その名がどこで出てきたのかを思い出すに至る。
「サラ姐がこの上覧武闘会で登録していた名前がアルカード=カラミティ……?」
「そうだピョン。モトカード流拳法『裏』の代表格がアルカード=カラミティ様なんだピョン。キミはその『裏』の代表格に認められていないと思ってくれて良いんだピョン」
ロック=イートは次々と明らかになる拳聖:キョーコ=モトカードの『裏の顔』についての情報量に溺れそうになっていた。耳はしっかりとミーナ=バーナンの声を聞いているが、頭がついてこずに理解が進まない。ロック=イートは頭を強めに左右に振り、自分はいったい何をしたいのかを思い出す。
「俺は拳聖:キョーコ=モトカード様に憧れてはいる……。でも、俺が本当になりたいのは拳聖じゃないっ! 俺は『世界最強の生物』になりたいんだっ!」
「そう。キミはそれで良いんだピョン。だからこそ、アルカード様はキミが気に入らないんだピョン。拳聖になれるだけの素質と器を持ちながら、自分の夢に殉じようとするキミが嫌いなんだピョンッ!」
ミーナ=バーナンはそう叫ぶや否や、ロック=イートの顔面に右足の甲をぶち込む。彼としゃべっていると心の底から憎悪が沸き起こり、いてもたってもいられず、その顔を苦痛で歪ませてやりたくなってしまったのだ。ロック=イートは未だ満足に動ける状態に無く、ミーナ=バーナンの蹴りをまともに喰らってしまい、石畳の上に倒れ込んでしまう。ミーナ=バーナンは死に体のロック=イートの相手などしていられるかとばかりに、倒れ込んだロック=イートの脇腹に足刀を叩きこむ。
そして、ロック=イートの傷口がさらに開かんとばかりに足の裏で彼の左脇腹を踏みつける。ロック=イートはグアアア……と苦悶の声をあげる。その声を聞き、少しばかりは気分がすっきりしたミーナ=バーナンは抱え込んでいた緋緋色金製の手甲をひとつだけ石畳の上に放り投げ、空いた右手を唇に当ててピュゥッ! と口笛を吹く。
するとだ。石畳に映る彼女の影から魔物と思わしき存在がいきなり現れ出でることとなる。そいつは虎でありながら、ニンゲンのように二本足で立ちあがる。体毛は黒を基調とし、紅い縞模様が浮かび上がっている。両目は虎眼石そのものの色をしており、鋭い歯を剥き出しにしている。明らかにその様はロック=イートに対して、敵愾心を抱いていることは一目瞭然であった。
「この子は拳聖:キョーコ=モトカードの遺伝子を失敬して生み出された合成獣だピョン。まだまだ調整不足でミーナちゃんやキミの足元にも及ばないほどの力しか発揮できないけど、今のキミ程度なら良い相手になってくれるんだピョン」
「なん……だと?」
「『人類最強計画の申し子』たちはアンゴルモア四天王たちの手により、この世からほとんど消されてしまったけど、アンゴルモア大王は次の計画を進めていたんだピョン。それが『人類合成獣化計画』なんだピョン」
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