拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

文字の大きさ
上 下
111 / 122
第11章:慟哭

第10話:藍より青し

しおりを挟む
 ロック=イートはいっそこのままこの場から一歩も動かず、サラ=ローランが突きだしてきている鋭利な爪で突き刺されてしまえば良いと考えた。サラ=ローランが今こうなってしまった原因は自分にあると思ったロック=イートは自責の念にかられてしまう。せめて、彼女の手にかかり、自分が死ねばいいとさえ思ってしまう。

 だが、ロック=イートの意思を無視して、身体が勝手に動く。猛然とこちら側に向かってくる獣と化したサラ=ローランを回避してしまうのだ。ロック=イートは自分の身体が自分の意思に従わぬことに眼を白黒とさせてしまう。突進をかわされてしまったサラ=ローランがギャリギャリギャリ! と石畳を爪でひっかきつつ、もう一度、ロック=イートに向かっていく。だが、二度目の突進もロック=イートの足が自然と動き、まともには喰らわない。

(俺の身体は死にたくないと言っている!?)

 ロック=イートは自分の両の手のひらを見つめ、何故に自分の意思に反して身体が勝手に動くのかと自問自答する。ロック=イートが見つめるその手には熱が宿っていた。それは死に行く者が発する熱量とはとてもではないが思えない。ロック=イートはまぶたを閉じ、身体の声を聞こうとする。観客たちの悲鳴にも似た声が耳から遠ざかる。サラ=ローランが口からまき散らす慟哭さえも遠ざかる。そして聞こえてくるのはドクンドクン! と力強く脈打つ自分の心臓であった。

(俺は生きたいんだっ! 俺は、俺は……、俺はっ!!)

 ロック=イートは眼を見開き、またもや突進を繰り出すサラ=ローランを真っ直ぐに見る。その時、ロック=イートの瞳には紅い焔の意思が宿っていた。自分に嘘はつかない。自分の心を自分で折る気は無いと、その瞳の色がはっきりとそう告げていた。

「ロケット・パーーーンチッ!!」

 ロック=イートは真っ直ぐに突っ込んでくるサラ=ローランに向かって、今持てる力の全てを込めた渾身の正拳突きをぶっこむ。サラ=ローランはすんででそれをかわし、身を翻してロック=イートの右肩を鋭い爪で引き裂く。さらには互いの身体が交差すると同時に両足でロック=イートの背中を蹴っ飛ばす。ロック=イートは前のめりに体勢を崩し、あわや石畳の上で転がりそうになる。

 しかしながら、ロック=イートはふんばりを利かせて、体勢を整える。両足に力を込めつつ、右腕を身体の内側へと折り曲げる。サラ=ローランの手の先に生える虎のような爪はロック=イートが着ている道着を易々と引き裂き、ロック=イートの右肩からはドクドクと血があふれ出している。だが、それでもロック=イートは右の義腕を用いて、サラ=ローランを打ち倒すこそが彼女にとっての最善だと思ってしまう。

 この義腕をとりつけてくれたのはサラ=ローラン本人だ。生身の右腕は5年前のあの日に切断された。その代わりに自分に託されたのが、この黒光りする義腕であった。ロック=イートはこの新しい右腕を自分のモノにするために5年の歳月を費やした。ならば、自分が歩んできたこの5年間をサラ=ローランに告げるには、このこぶしでなければならないと感じたのだ。

 4本足の獣と化したサラ=ローランがグルルゥ……と低くうなりながら、ロック=イートとの間合いを推し量る。彼を中心として時計回りに移動しつつ、仕掛けるタイミングを計っていた。サラ=ローランが自分から見て、右側へと移動していくので、ロック=イートもまた彼女の動きに合わせて、両足をスライドさせていく。観客たちは固唾を飲んで彼らを見守る。次の一撃こそがこの勝負の行く末を決めると信じて疑わなかったのだ。

「わたくしの騎士様! どうか、勝利をもぎとってほしいのですわっ!」

「ロックさんっ! サラさんをどうかお願いいたしますぜっ!」

「ロック! 昔の女など遥か彼方にぶっとばしてやれぃ! 手向けの一撃を食らわしてやるのじゃっ!!」

 試合場である石畳の外に広がる芝生の上で試合を観戦していたリリー=フルール、セイ=レ・カンコー、ヨーコ=タマモがロック=イートの背中を押すような一声をそれぞれに掛ける。ロック=イートはその声援を背中に受け、ただ一言。

「おうっ!!」

 ロック=イートはそう叫ぶと同時に、左足で石畳を蹴り飛ばし、それによって生まれたエネルギーを推進力へと変える。サラ=ローランとの距離を一気に縮めたロック=イートは右足でドスンッ! と石畳を踏みつける。それと同時にサラ=ローランは虎の前足を連想させるような両腕をロック=イートの脇腹に横から押し当てる。その腕の先には鋭い爪がギラリと怪しげな光を放っていた。ロック=イートは両脇腹に大きくて鋭い爪を突き立てられるが、それでもかまわぬとばかりに右足から伝わってくるエネルギーを打拳力へと変換する。

 ロック=イートの身を護る道着はズタボロの雑巾のようになり、サラ=ローランの両手の爪が徐々にロック=イートの身体にめり込んでいく。ロック=イートは腹に激痛を感じたが、それでも上半身をひねり、背筋、右肩、右ひじ、こぶしへと打拳力を伝播させていく。狙うはサラ=ローランの眉間ただひとつ。ロック=イートは折りたたんでいた右腕をひねりながら真っ直ぐそこにぶっこむ。

 ロック=イートの正拳突きがサラ=ローランの眉間に突き立ったと同時にロック=イートが口を動かし、とある言葉を彼女に告げる。

「モトカード流拳法 第4条:青は藍より出でて藍より青し。ロック流拳法の始まり:ロケット・パンチ」

 ロック=イートがそう宣言するや否や、サラ=ローランの目玉はグルンと上を向き、彼女は白目を剥く。そして、口の端から血の色をした泡を吹き、膝から崩れ落ちるように石畳の上に倒れていく。サラ=ローランは石畳をベッドにしながら、段々と元の姿へと戻っていく。彼女の肥大化した筋肉は収縮を始め、それと同時に彼女の身体を覆っていた獣の毛も抜け落ちていく。

 次第に彼女は産まれたままの姿へと変わっていく。先祖返りジュウジンモードによって、彼女が身に着けていたレスリングスーツはとっくの昔に弾け飛んでしまっていた。さらには、その裸体を覆い隠していた獣の体毛も抜け落ちてしまっている。彼女が今、身体に身に着けているのは両腕に装着している緋緋色金製の手甲ナックル・カバーのみである。

 10カウントを数え終わった弓神:ダルシゥム=カーメンが妙齢の女性が観客たちに裸を見られるのは酷であろうと考える。石畳へと上がり、彼女に自分が羽織っている碧玉サファイア色の外套マントを外し、彼女の身体にかけようとするのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...