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第11章:慟哭
第9話:傷の理由
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(攻めろ、攻めろ、攻めろっ!!)
ロック=イートの心臓は早鐘を打つかのように激しく早く鼓動を繰り返していた。酸素を肺に満足に送り込むことも出来ずに、連打をずっと続けていたのだ。サラ=ローランが試合場である石畳の上から右足を踏み外した時点で、ロック=イートの肺の中にある酸素は使い切っていた。だが、それでもロック=イートは呼吸を止めたままで左右交互に連打を繰り出し続ける。
ロック=イートの右の拳がサラ=ローランの左の二の腕にヒットする。だが、それでは足りぬと、ロック=イートはさらに両足を踏み出す。サラ=ローランは二の腕から肩へと被弾を開始させられる。それでも彼女はその位置でロック=イートの攻撃を捌こうとする。ついにはサラ=ローランの顔面左側に覆面越しでロック=イートの右の拳がめり込むこととなる。
サラ=ローランはたまらず態勢を左から右へと傾ける。そこにすかさずロック=イートの左の拳が襲いかかる。サラ=ローランは倒れることすら許されずに、そのパンチを顔面右側に喰らうこととなり、身体を無理やり起こされる。ロック=イートは彼女を逃がす気などまったくなかったのだ。頭を右斜め下から跳ね上げられたサラ=ローランは意識が寸断されそうになる。だが、眼をギラつかせ、次にやってくるだろう左のフックに警戒を抱く。そして、彼女の予想通りに大きく弧を描く左の拳がやってくることになる。
彼女は右腕を用いて内側から外側へ左の拳を払いのける。それと同時に右手をロック=イートの左腕に絡ませて、投げ飛ばそうとする。だが、サラ=ローランの思い通りにはいかず、ロック=イートは空いた右胸のやや下に向かって、真っ直ぐに右の拳を叩きこむ。それは先ほど放ったレバーブローであった。肝臓を思いっ切り殴られたサラ=ローランの動きが一気に鈍くなる。苦痛で顔を歪めることになるが、その表情はロック=イートには認識できなかった。それゆえにロック=イートは彼女にさらに追撃を行う。
ロック=イートは弾かれた左腕をすぐに自分の左わき腹へと持っていき、下から上へとアッパーカットを繰り出す。もちろん、その一撃もまたレバーブローであった。サラ=ローランは三撃目となるレバーブローを喰らい、膝から崩れ落ちることとなる。まっすぐ下へと沈んでいくサラ=ローランの顔面に向かって、ロック=イートはトドメとなる右のフックを叩きこもうとする。だが、彼女の倒れるスピードのほうが上であり、ロック=イートの右の拳はサラ=ローランが被る覆面の頭頂部をかすめるに留まるのであった。
「ぶはあっ! はあはあっ!!」
ロック=イートはサラ=ローランがダウンしたのを確認し、ようやく肺の中に酸素を取り込むことが出来るようになる。呼吸を止めていたのは2分間も無かったのだが、ロック=イートの顔は白色を通り越してすっかり紫色に変色してしまっていた。しかしながら、荒い呼吸を続けているうちに、彼の顔は朱の色に染まっていくことになる。サラ=ローランを倒したことによる興奮ももちろんあるのだが、一気に体内に酸素が送り込まれたことによる反作用とも言える身体の反応でもあったのだ。
サラ=ローランがダウンし、ロック=イートが試合場である石畳の中央へと下がる。弓神:ダルシゥム=カーメンによる10カウントはすでに行われており、ロック=イートは勝ちを確信していた。それほどまでにレバーブローへの連打がキレイに決まっていたからだ。弓神:ダルシゥム=カーメンが突然、10カウントを数えるのを止めてしまう。それと同時に観客たちがおおいに湧くことになる。
この時、ロック=イートは弓神:ダルシゥム=カーメンが10カウント数えるまでも無いと考えて、止めしてまったのだと考えた。だがそれはまったくもって違う。ロック=イートの予想を裏切ることが起きる。サラ=ローランの状態を確認しようとロック=イートが振り向くと、彼女はまるで幽鬼のように頭をぐったりとうなだれたままに立ち上がっていたのである。
「サラ姐……?」
ロック=イートがそう彼女に声をかけた時であった。彼女は顔を天に向けて、大きく口を開きウオオオン!! と吼える。次の瞬間、彼女の身体に異変が起きる。サラ=ローランの身体中の筋肉が盛り上がり、さらには彼女が両腕に装着していた手甲まで変形しだしたのだ。その両手の指を覆う部分の先端にはまるで獰猛な虎を思わせるような鋭い爪が生えだす。
そして、サラ=ローランはその爪で自分の覆面を細切れにしながら剥いでしまうのだ。この時、ロック=イートは控室に現れた彼女の頬に爪で抉られたような傷跡があったのかを思い出してしまう。そう……、サラ=ローランの頬の爪痕は彼女自身が成したことだと。誰かに傷つけられたのではなく、自傷行為により出来上がったモノだというイメージが鮮烈にロック=イートの脳裏に焼き付けられることとなる。
「サラ姐っ!!」
ロック=イートは叫ばずにはいられなかった。かつての姉弟子は先祖返りの力に飲み込まれようとしているのだ。サラ=ローランの意識は既にどこか彼方に飛んで行ってしまっている。ロック=イートの眼の前に居るのは、彼女でありながら彼女ではない何かであった。サラ=ローランの眼は真っ赤に染まり上がり、グルルル……と唸る口からは犬歯を剥き出しにしていた。
半犬半人である彼女はまるでシベリアンハスキーとドーベルマンを掛け合わせたような顔へと変貌していた。顔の形まで変貌を遂げるような先祖返りなど、ロック=イートの記憶では師匠である拳聖:キョーコ=モトカードしか該当しなかった。それを成し遂げたのがサラ=ローランであったのだ。
「ロック=イートォォォ! あんたはあたしを捨てていったァァァ!!」
サラ=ローランはそう叫ぶや否や、ロック=イートに向かって、手足を駆使して走っていく。それはまるで野原を駆ける野獣のようでもあった。手の先から生える爪で石畳を掴み、足で石畳を蹴っ飛ばし、ロック=イートに肉薄する。ロック=イートはそんな彼女に対して、苦渋の判断を迫られることとなる。彼は苦々しい顔になりつつも、眼尻に涙を溜める。サラ=ローランの慟哭がロック=イートの胸に突き刺さり、ロック=イートはひと筋の涙を両目から流れさせてしまう……。
ロック=イートの心臓は早鐘を打つかのように激しく早く鼓動を繰り返していた。酸素を肺に満足に送り込むことも出来ずに、連打をずっと続けていたのだ。サラ=ローランが試合場である石畳の上から右足を踏み外した時点で、ロック=イートの肺の中にある酸素は使い切っていた。だが、それでもロック=イートは呼吸を止めたままで左右交互に連打を繰り出し続ける。
ロック=イートの右の拳がサラ=ローランの左の二の腕にヒットする。だが、それでは足りぬと、ロック=イートはさらに両足を踏み出す。サラ=ローランは二の腕から肩へと被弾を開始させられる。それでも彼女はその位置でロック=イートの攻撃を捌こうとする。ついにはサラ=ローランの顔面左側に覆面越しでロック=イートの右の拳がめり込むこととなる。
サラ=ローランはたまらず態勢を左から右へと傾ける。そこにすかさずロック=イートの左の拳が襲いかかる。サラ=ローランは倒れることすら許されずに、そのパンチを顔面右側に喰らうこととなり、身体を無理やり起こされる。ロック=イートは彼女を逃がす気などまったくなかったのだ。頭を右斜め下から跳ね上げられたサラ=ローランは意識が寸断されそうになる。だが、眼をギラつかせ、次にやってくるだろう左のフックに警戒を抱く。そして、彼女の予想通りに大きく弧を描く左の拳がやってくることになる。
彼女は右腕を用いて内側から外側へ左の拳を払いのける。それと同時に右手をロック=イートの左腕に絡ませて、投げ飛ばそうとする。だが、サラ=ローランの思い通りにはいかず、ロック=イートは空いた右胸のやや下に向かって、真っ直ぐに右の拳を叩きこむ。それは先ほど放ったレバーブローであった。肝臓を思いっ切り殴られたサラ=ローランの動きが一気に鈍くなる。苦痛で顔を歪めることになるが、その表情はロック=イートには認識できなかった。それゆえにロック=イートは彼女にさらに追撃を行う。
ロック=イートは弾かれた左腕をすぐに自分の左わき腹へと持っていき、下から上へとアッパーカットを繰り出す。もちろん、その一撃もまたレバーブローであった。サラ=ローランは三撃目となるレバーブローを喰らい、膝から崩れ落ちることとなる。まっすぐ下へと沈んでいくサラ=ローランの顔面に向かって、ロック=イートはトドメとなる右のフックを叩きこもうとする。だが、彼女の倒れるスピードのほうが上であり、ロック=イートの右の拳はサラ=ローランが被る覆面の頭頂部をかすめるに留まるのであった。
「ぶはあっ! はあはあっ!!」
ロック=イートはサラ=ローランがダウンしたのを確認し、ようやく肺の中に酸素を取り込むことが出来るようになる。呼吸を止めていたのは2分間も無かったのだが、ロック=イートの顔は白色を通り越してすっかり紫色に変色してしまっていた。しかしながら、荒い呼吸を続けているうちに、彼の顔は朱の色に染まっていくことになる。サラ=ローランを倒したことによる興奮ももちろんあるのだが、一気に体内に酸素が送り込まれたことによる反作用とも言える身体の反応でもあったのだ。
サラ=ローランがダウンし、ロック=イートが試合場である石畳の中央へと下がる。弓神:ダルシゥム=カーメンによる10カウントはすでに行われており、ロック=イートは勝ちを確信していた。それほどまでにレバーブローへの連打がキレイに決まっていたからだ。弓神:ダルシゥム=カーメンが突然、10カウントを数えるのを止めてしまう。それと同時に観客たちがおおいに湧くことになる。
この時、ロック=イートは弓神:ダルシゥム=カーメンが10カウント数えるまでも無いと考えて、止めしてまったのだと考えた。だがそれはまったくもって違う。ロック=イートの予想を裏切ることが起きる。サラ=ローランの状態を確認しようとロック=イートが振り向くと、彼女はまるで幽鬼のように頭をぐったりとうなだれたままに立ち上がっていたのである。
「サラ姐……?」
ロック=イートがそう彼女に声をかけた時であった。彼女は顔を天に向けて、大きく口を開きウオオオン!! と吼える。次の瞬間、彼女の身体に異変が起きる。サラ=ローランの身体中の筋肉が盛り上がり、さらには彼女が両腕に装着していた手甲まで変形しだしたのだ。その両手の指を覆う部分の先端にはまるで獰猛な虎を思わせるような鋭い爪が生えだす。
そして、サラ=ローランはその爪で自分の覆面を細切れにしながら剥いでしまうのだ。この時、ロック=イートは控室に現れた彼女の頬に爪で抉られたような傷跡があったのかを思い出してしまう。そう……、サラ=ローランの頬の爪痕は彼女自身が成したことだと。誰かに傷つけられたのではなく、自傷行為により出来上がったモノだというイメージが鮮烈にロック=イートの脳裏に焼き付けられることとなる。
「サラ姐っ!!」
ロック=イートは叫ばずにはいられなかった。かつての姉弟子は先祖返りの力に飲み込まれようとしているのだ。サラ=ローランの意識は既にどこか彼方に飛んで行ってしまっている。ロック=イートの眼の前に居るのは、彼女でありながら彼女ではない何かであった。サラ=ローランの眼は真っ赤に染まり上がり、グルルル……と唸る口からは犬歯を剥き出しにしていた。
半犬半人である彼女はまるでシベリアンハスキーとドーベルマンを掛け合わせたような顔へと変貌していた。顔の形まで変貌を遂げるような先祖返りなど、ロック=イートの記憶では師匠である拳聖:キョーコ=モトカードしか該当しなかった。それを成し遂げたのがサラ=ローランであったのだ。
「ロック=イートォォォ! あんたはあたしを捨てていったァァァ!!」
サラ=ローランはそう叫ぶや否や、ロック=イートに向かって、手足を駆使して走っていく。それはまるで野原を駆ける野獣のようでもあった。手の先から生える爪で石畳を掴み、足で石畳を蹴っ飛ばし、ロック=イートに肉薄する。ロック=イートはそんな彼女に対して、苦渋の判断を迫られることとなる。彼は苦々しい顔になりつつも、眼尻に涙を溜める。サラ=ローランの慟哭がロック=イートの胸に突き刺さり、ロック=イートはひと筋の涙を両目から流れさせてしまう……。
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