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第11章:慟哭

第7話:サラ=ローランの投法

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 ロック=イートは空中に放り投げられた後、顔を両腕で護る行動に出る。サラ=ローランとは5年以上もの間、離れ離れであった。そのため、彼女が空中に放り投げた相手に追撃をおこなうための手段を持っている可能性を捨てきれていなかったのだ。

 ロック=イートの予想は的中し、サラ=ローランはその場でクルリとバク転をおこない、ロック=イートの顔面に向けて、サッカーボールキックをかましてきたのだ。ロック=イートが顔の前で交差させていた両腕の中心にサラ=ローランの右足の甲が叩きこまれることとなる。

 ロック=イートは空中での追撃を防ぐことは出来たが、受け身を取ることは出来ずに、背中から石畳の上へと叩き落とされることとなる。サラ=ローランが蹴り技をおこなってきたことにも驚愕していたが、それ以上に背中に受けたダメージのほうが遥かに大きかった。

「いたたたっ。まったく手加減する気はないんだな……」

「そうねっ。この一撃はあたしを置いて、どこかに行ってしまったことへの恩返し」

「それは恩返しじゃねえだろっ!」

 ロック=イートは背中をさすりながら立ち上がりつつ、姉弟子であるサラ=ローランに文句を言う。彼女は覆面越しにフッ……と笑った。そのような気がしてならないロック=イートである。ロック=イートはへへっ……と笑みをこぼした後、左足に力を入れて、それを推進力に変え、またもやサラ=ローランの真正面からこぶしを突き出す。サラ=ローランは手甲ナックル・カバーに覆われた両手でロック=イートの連続突きを次々と捌いていく。ロック=イートのパンチによる衝撃は緋緋色金製の手甲ナックル・カバーに吸収されており、彼女はいともたやすくロック=イートの攻撃を防いでしまう。

 ロック=イートはチッ! と舌打ちをせざるをえない。先ほどのロケット・パンチが効果を発揮できなかった半分の理由はサラ=ローランが装着している手甲ナックル・カバーのせいと言っても過言ではないだろうと予測を立てる。いくらこの5年間、サラ=ローランが独自に投げ技の精度と威力を高めたからといって、ロック=イートも寝ながらその5年間を過ごしたわけではない。

 ロック=イートは改めて、師匠が身に着けていた緋緋色金製の手甲ナックル・カバーが邪魔だと思ってしまう。今、ロック=イートは万全の状態から比べれば、5割程度の実力しか発揮できないでいる。そもそも自分のパンチに威力があまりにも無いことはロック=イート自身も自覚している。だからこそ、あの手甲ナックル・カバー越しにサラ=ローランにダメージを与えるすべを持たない状態だったのだ。

 ロック=イートが10発目のパンチを放ったと同時に、サラ=ローランが新たな動きを見せる。右腕を折りたたみ、肘でロック=イートの左のこぶしを払いのけたと思えば、左手でロック=イートの左側頭部を抑えにかかる。ロック=イートは左から右へと体幹を崩されている。そして左側頭部に添えられた左手にサラ=ローランが体重を乗せてくる。ロック=イートは斜め右前に倒れ込む。そこに先ほど畳み込んでいた右肘を当てつつサラ=ローランが倒れ込んでくるため、ロック=イートとしてはたまったものではなかった。

 踏ん張ろうとしていたロック=イートの右足にサラ=ローランは左足を軽くかけて、ロック=イートをすっころばせる。それにより、ロック=イートは身体の支えを失い、さらには首の後ろへ彼女の右肘を当てがわれた状態で石畳の上へ、頭から倒れ込まされることとなる。

「モトカード流投法:百舌鳥もず落とし。まあでも、これはその変形版だけどね?」

 サラ=ローランが押し倒したロック=イートの耳に自分の唇を近づけて、囁くようにそう言うのであった。本来なら、モトカード流投法:百舌鳥もず落としは宙に高々と相手を投げた後、それに追随するように自分も跳躍し、頭を両腕で押さえて、地面に叩きつける業である。だが、それをサラ=ローランが自分流にアレンジしたモノである。豚ニンゲンオークのような筋肉の塊である魔物モンスターならば、この程度の落差では首の骨をへし折ることは困難であるが、ニンゲン相手であれば昏倒くらいには持っていける業よ? と親切にもロック=イートに説明をする。

 ロック=イートは舐められたモノだと思い、石畳の上で身を翻し、彼女から距離を空けつつ、次の一打でその態度を改めさせようとする。だが、彼女はのっそりと立ち上がり、右の手のひらを上に向けてクイクイッと折り曲げて、かかってこいとばかりの所作をする。カチンッ! と頭にきたロック=イートがストレート系のパンチを止めて、下からすくい上げるように左のアッパーカットを繰り出す。

(これならば、安易に投げられないだろっ!)

 ロック=イートはそう思った。だが、彼の予想を裏切り、サラ=ローランはそのアッパーカットを距離を空けて回避するどころか、ロック=イートと彼女の顔がぶつかりあうくらいまでに接近してきたのだ。驚いたロック=イートは無意識にアッパーカットの軌道を逸らしてしまう。彼女の顎を捉えられなかった左のこぶしは高々と天を衝くことになる。

「あんたはいつまで経っても甘ちゃんねっ。モトカード流投法:ツバメ舞い」

 ロック=イートは左脇にサラ=ローランの右腕を突っ込まれ、まるで男女がダンスを踊るかのように身体を左から右へひねられてしまう。ダンスとは違うことは、ロック=イートたちが横に一回転したところで、サラ=ローランの手によって、背中から石畳の上へと叩きつけられたことであろう。今の投げはどちらかと言えば相撲で言うところの上手うわて投げである。ロック=イートはまたしても無様にサラ=ローランによって投げられてしまうこととなる。

 彼らの試合を見ている観客たちからはどよめきが起きる。神槍:ブリトニー=ノーガゥを打ち倒したロック=イートをまるで赤子の手をひねるように次々と投げ飛ばしてしまうアルカード=カラミティを驚きの表情で見ることしかできなかった。

「アルカードってのは、もしかしてロック=イートよりも遥かに強いのか……?」

「そんなまさか……。神槍:ブリトニー=ノーガゥ様を倒したロック=イートだぞ? 彼はずっと逆転劇を繰り返してきたんだ。今はまだ様子見ってところだろ?」

「そうだそうだ! あのロック=イートがこのまま何も出来ずにやられるわけがないぜ!」
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