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第10章:神槍

第6話:強制解除

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「ッ!?」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥが聖槍:ロンギヌスの穂先がロック=イートの左胸に刺さっていかないことに驚きの表情を顔に浮かべてしまう。彼のカラテ着を穂先が貫通出来ずにいたのだ。それどころか、槍を押し戻されることとなり、槍自体が大きくたわむこととなる。そのたわみは波のエネルギーと化し、神槍:ブリトニー=ノーガゥの手にまで伝播する。そして、そのエネルギーに耐えきれぬために彼は聖槍:ロンギヌスに手を弾かれてしまうこととなる。

 身を護るすべを失くした神槍:ブリトニー=ノーガゥはロック=イートが放ったロケット・パンチにより、左わき腹を抉られることとなる。彼が幸運だったことは彼の着こんでいる下地が白金プラチナ色の全身鎧フルプレート・メイルの存在があったことであろう。ロック=イートの右のこぶしを中心として、その緋緋色金製の全身鎧フルプレート・メイルに幾筋の亀裂が走る。そして、衝撃は鎧部分だけで留まらずに神槍:ブリトニー=ノーガゥの内臓にまでダメージを与える。だが、それでも神槍:ブリトニー=ノーガゥは倒れない。再び、彼は口から血反吐を吐き出すのみであった。

「やってくれ……ますね。ここまで自分を追い詰めたのはアンゴルモア四天王の中では剣聖:プッチィ=ブッディと拳聖:キョーコ=モトカードのみです。キミはその実力を誇って良いですよ?」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥはそう言った後、ロック=イートの腹に右足で前蹴りを入れて、無理やりに彼との距離を取る。そして、右手を自分の身体の右側へとかざす。するとだ。石畳の上に転がっていた聖槍:ロンギヌスがひとりでに宙に浮き、次の瞬間には神槍:ブリトニー=ノーガゥの右手に納まる形となったのだ。手元へ戻ってきた槍の柄を彼は両手で掴む。そして基本も基本の構えへと移行し、真っ直ぐにロック=イートを見据える。そんな彼に対してロック=イートはグルルルゥ……と低く唸る。

 槍は迎撃にも優れた武器である。先ほどのように穂先を心臓に合わせられたのではたまったモノではない。奇跡は二度と起きないであろうことはロック=イートは百も承知であった。ロック=イートがこの試合で着こんでいるインナーシャツとカラテ着にはとある仕込みがコープ=フルールの手でなされていた。そのため、ただのカラテ着というよりは鎖帷子として機能していたのだ。

 しかし、これはあくまでも防御力を高める一手段に過ぎず、もし先祖返りジュウジンモードを発動してない状態であったら、聖槍:ロンギヌスは自分の身体を刺し貫いていたに違いない。仕込みが施されたカラテ着と緩衝材となる筋肉の層が致命傷を防いでくれただけなのだ。その証拠にカラテ着とインナーシャツには小さな穴が開き、そこを中心として紅い色が白いカラテ着をジワジワと染めつつあったのだ。

 ロック=イートは次が最後の攻撃となることはわかりきっていた。神槍:ブリトニー=ノーガゥが次に狙うのは首から上の部分であることは自明の理である。あの聖槍:ロンギヌスの穂先を喉から顔面にかけて絞り込んで突いてくるであろうと。ロック=イートは動かぬ左腕を放置し、右腕にあらんばかりの魔力を集中させていく。

 その時、ロック=イートの身体に異変が起きる。なんと今の今まで展開していた先祖返りジュウジンモードが突然、解除されてしまったのだ。肥大化していた筋肉が元の形へと戻っていき、さらに全身を覆いつくすように生えていた獣の毛が抜け落ちていく。身体全体から力が抜け落ちていくことにロック=イートは唖然としてしまう。そんな驚き慌てふためる彼に対して、神槍:ブリトニー=ノーガゥはククッ! と意地悪く笑ってしまうのである。

「やれやれ……。ようやく効果が出始めましたか。さそり座アンタレスの毒が全身を犯しはじめたようですね。ロックくん、キミは無防備に自分の技を喰らいすぎましたね?」

 毒という単語を聞き、ロック=イートは驚きの表情までも、その顔に浮かべるのであった。こういった公式大会で武器の毒を塗るのはご法度のはずである。それを神槍とも呼ばれる者がしたのかと愕然となりそうになる。そんな困惑するロック=イートに対して、神槍:ブリトニー=ノーガゥは弁明をおこなうこととなる。

「ええっと……。勘違いしてもらいたくないので説明させてもらいますと……。キミほどの実力者となれば、先祖返りジュウジンモードを使用可能であることは容易に想像できます。というわけで、先祖返りジュウジンモードの使用時間を大幅に減らすための技術テクニックを自分は持っているというわけです」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥはさらに説明を追加する。ロック=イートの身体を木製のカバー付きの穂先で突きに突きまくったのはそれなりの理由があったことを。ニンゲンの身体には1000を越えるツボというものが存在し、それを穂先で刺激したというのである。そのツボの中には先祖返りジュウジンモードにも影響を与えるモノがあり、そこを丹念に突かせてもらったと言うのであった。

 ロック=イートはもちろん、そんな技術テクニックが存在することを知らなかった。というよりは、それを知っている者など限られていると言ったほうが良いのだろう。ロック=イートはいくら逆転勝ちを狙うためといえども、神槍:ブリトニー=ノーガゥの攻撃に身体を晒してすぎてしまったことを今更ながらに後悔するのであった。

(チッ……。彼我との実力差はわかりきっていたことだけど、ここまで開いているとは思わなかったなっ!)

 ロック=イートは苦々しい表情のままに、眼の前の敵を睨みつける。睨みつけられている相手はかなり余裕ができたのがわかるほどの表情へと変わっている。だが、構えは解かずにいるのは、さすがに神槍だと思えるのであった。ロック=イートは身体から先祖返りジュウジンモードの力が抜け落ちていく中、それでも右腕に残った力の全てを注ぎ込んでいる真っ最中であった。次の一撃に全てを賭けるのは変わりはないのだった。

「俺はあんたを倒してみせる。それが俺の夢を叶えるためになるからだっ!」

「ハハッ! この期に及んでもまだ『世界最強の生物』になろうというのですかっ! さすがは『人類最強計画の申し子』なだけはありますねっ! さあ、来なさい……。自分も老体に鞭を打っている状態です……」

 ロック=イートと神槍:ブリトニー=ノーガゥは左右の足を徐々に広げて、ゆっくりと腰を落としていく。最後の一撃を相手に食らわせるために……。
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