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第10章:神槍

第2話:目覚めの一発

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 ロック=イートは石突部分で殴られながら、舐められたものだと憤慨しそうになる。神槍:ブリトニー=ノーガゥは聖槍:ロンギヌスの穂先を木製のカバーで覆い尽くしているし、そうしているからこそ、殺傷力は落としているはずなのに、その部分で攻撃してこない。あくまでも打撃用部分である石突で攻撃を繰り返してくることにイラつきを覚えてしまうロック=イートであった。

(せめて、あの木製のカバーを外すくらいには追い込んでやりたいぜ……)

 ロック=イートは身を無理やり起こされた後は身体をひねり、神槍:ブリトニー=ノーガゥの石突部分による連続攻撃を回避する。鼻に向かってくる突きを身体を大きく後ろに逸らすことで回避し、次に来る攻撃を後方バク転で距離を置く。彼との距離を空けることは悪手であることはわかっていたが、一度、退くことで突進力を得ようとしたのである。

 ロック=イートはバク転して、両足を地面に着地させると同時にまたしてもロケット・パンチを放つ。しかし、その動きは神槍:ブリトニー=ノーガゥも読んでおり、金属製の槍を横に振りまわして、ロック=イートを迎撃してしまう。横っ腹にドスンッと重い衝撃を受けたロック=イートはロケット・パンチの軌道を変えられてしまうのであった。

 ロック=イートはロケット・パンチをのべ4度回避されてしまうが、それでも果敢にブリトニー=ノーガゥに接近していく。そんな彼に対して、ブリトニー=ノーガゥはやや呆れたという表情になり、ロック=イートにあてがうように槍を斜めに持ち、柄の部分で彼を押し出すのであった。

「まったく……。主導権をこちらに握らせたくないのはわかりますが、それではただの猪突猛進です。もう少し、頭を使ってみてはどうでしょう?」

「うるせぇっ! これが俺のやり方だっ!」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥがやや説教交じりに、ロック=イートの戦法について注文をつける。ロック=イートは余計なお世話だとばかりに彼の言いを否定する。ロック=イートは左足を大きく前に踏み出し、左腕を斜め下から斜め上へと振り上げる。神槍:ブリトニー=ノーガゥはそのアッパーを軽々と回避し、上から下へと叩きつけるように聖槍:ロンギヌスを振りぬく。

 しかしながら、それはロック=イートの誘いであった。距離を詰めているため、上から下への槍の振り下ろしには勢いがない。ロック=イートは右腕の腕先部分で聖槍:ロンギヌスを受け止めて、さらには右方向へと払いのける。そうすることで、申し訳ない程度に神槍:ブリトニー=ノーガゥの体幹が右から左へ崩れることとなる。彼がおっとっと! と言っているところへ、ロック=イートは左腕を真っ直ぐと伸ばし、渾身のストレートをブリトニー=ノーガゥの右胸へと発射する。

 だが、ブリトニー=ノーガゥも黙ってそれを喰らうことは無い。穂先の方をロック=イートの右腕で弾かれたわけだが、その勢いを利用し、石突部分を時計回りの方向へと回し、ロック=イートの左腕を跳ね上げてしまう。次に体幹を崩されたのはロック=イートであった。左腕が宙を泳ぎ、左の脇腹ががら空きとなる。そこに回り込んできた槍の穂先を真っ直ぐに突きこまれる形となる。

 ロック=イートは左腕を上方へと跳ね上げられたままの姿勢で身体を申し訳ない程度に右にひねる。槍の穂先がロック=イートの背中側を削るように突っ込まれるのだが、その軌道はロック=イートの思い描く通りであった。ロック=イートは背中を用いて聖槍:ロンギヌスを受け流したのだ。そして、ロック=イートはさらに身体を右へとひねり、完全に背中を神槍:ブリトニー=ノーガゥに向ける形となる。

 この時、神槍:ブリトニー=ノーガゥは油断していた。ロック=イートが自分の身体の正面にぴったりと背中をつけてしまったために、攻撃など出来ぬと踏んでいたのだ。しかし、ロック=イートは徒手空拳による『打撃のスペシャリスト』であった。両手のみで闘うわけではないのである。

「ロケット・テツザンコウ!」

 ロック=イートは背中を神槍:ブリトニー=ノーガゥの正面に押し付けた後、さらに右足をブリトニー=ノーガゥの両足の間に突っ込ませる。その右足に全体重を移動させることにより、背中側に突進エネルギーが生じる。ドンッ! という音と共に、神槍:ブリトニー=ノーガゥは尻餅をつく形で吹き飛ばされてしまうことになる。

「ざまあみやがれっ!」

 ロック=イートはロケット・テツザンコウがキレイに決まり、気分爽快となってしまう。これでダウンが取れるわけではないが、神槍:ブリトニー=ノーガゥにインパクトを与えるには十分な技であった。実際に彼は眼を白黒とさせている。あの状態から打撃技を出せることに驚いているのは一目瞭然だった。

「いやあ……。ロックくんを舐めていましたよ。まさかあの体勢から技を繰り出せることに戦々恐々せんせんきょうきょうとなってしまいます」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥは聖槍:ロンギヌスを杖代わりにして、その場で起き上がる。今までのロック=イートの動きは十分に計算されているものであったことに気づくのであった。わざわざ自分に恥をかかせるために背中を密着させる動きを見せたのだと。神槍:ブリトニー=ノーガゥが今大会で尻餅をつくようなことは、これが初めての経験であった。さすがは準決勝まで駒を進めてきただけはあると、ロック=イートへの評価を爆上げさせるのであった。

「ロックくん。キミが立派な戦士であることを今ここで認めましょう。ですので、ここらで降参してくれますかね?」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥはあくまでも上から目線でそうロック=イートに告げる。まるでその言い様からはブリトニー=ノーガゥがロック=イートの技を確認するための審査員であるかのようであった。ロック=イートは右手の親指で鼻の穴を片方、外側から押して、フンッ! と空気を吐き出す。すると、空いているもう片方の鼻の穴から、血が噴き出すこととなる。

 石突部分の攻撃を喰らっていた時に、ロック=イートは鼻にも良いのを喰らっていたのである。それにより、鼻の奥で軽く出血が起こり、そこに段々と血が溜まっていたのだ。それを無理やり鼻の外へと追いやる。血で詰まりかけていた鼻の気道を確保したその姿勢から、ロック=イートは降参する気などないと示したのである。

「やれやれ……。この上覧武闘会はあくまでもキミのような戦士たちの実力を推し量るためだというのに……。自分は必要以上に相手を痛めつける性癖は持ち合わせていませんよ?」
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