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第8章:目覚めの兆し

第8話:ロケット・3連打

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「クックック。ハーハッハッ!」

 ロック=イートは左足でコッチロー=ネヅの一撃を止めると、いきなり高笑いしだしたのであった。そして、さらに左足に力を込めて、コッチロー=ネヅの体幹を戦槌バトル・ハンマごと崩したのである。コッチロー=ネヅは眼を白黒させながら、後ずさりする他無かった。そして、追撃を許してなるモノかと、体勢を崩しながらも、戦槌バトル・ハンマを構え直して、右から左へと横薙ぎに振り回す。

 次の瞬間、コッチロー=ネヅの表情が凍り付く。ロック=イートが身体の左側から回り込むように迫ってくる戦槌バトル・ハンマに対して、左腕を真っ直ぐに横へ突き出す。そのなんともおざなりなパンチの一撃で戦槌バトル・ハンマの片面に無数の亀裂が走ったのだ。その亀裂はコッチロー=ネヅが握る柄にまで走っていき、コッチロー=ネヅは思わず、戦槌バトル・ハンマをその手から離してしまうのであった。そのまま柄を握っていれば、自分の身体にまで亀裂が伝播するのではないかという恐怖からだ。


「モトカード流拳法・『常世』 第3条:真理の裏を衝け……か。チッ! コッチロー=ネヅめ。要らぬ者を目覚めさせやがったってかい……」

 上覧武闘会のとある場所で身を潜めながら、試合の成り行きを見守っていた人物が苦々しい表情でそう呟く。そして、自分と同じく隣で身を潜めている女性に声をかけ、その場から完全に存在感を消し去さろうとする。

「でも良いんですかピョン? あのままロックを放っておいて?」

「ふんっ。運命の巡り合わせというモノが本当にこの世に存在するならば、必ず俺様の行く道とロックの道は交差する。その時、本当にどちらが選ばれた者かを思い知らせてやろう……」

 男は女性にそう言うと、次の瞬間にはその場から居なくなってしまう。そして女性もまた男を追いかけるように消えていってしまうのであった……。


 コッチロー=ネヅは武器を失い、戦意喪失してしまっていた。倒したはずの男が何事もなかったように立ち上がり、自分の戦槌バトル・ハンマを受け止めるだけでは足りずに破壊までしてしまったからだ。だが、それでも眼の前の男は攻撃の手を緩めることはなかった。

「ロケット……マッハ・パンチッ!」

 ロック=イートは戦槌バトル・ハンマを破壊した左手で今度はコッチロー=ネヅのふくよかな腹を包み込んでいる金属製の鎧に一撃を加えたのである。それにより、コッチロー=ネヅの胴回りの鎧に亀裂が走る。

「ロケット……スマッシュ・パンチッ!」

 だがロック=イートはそれだけでは飽き足らず、続けてロケットパンチの2射目を発射する。コッチロー=ネヅの鎧に走る亀裂がどんどんと広がっていき、ついにはバキーンッ! という金属が無理やり砕けさせられる音が会場に響き渡ることとなる。

「ロケット……マグナム・パンチッ!!」

 ロック=イートは剥き出しとなった横っ腹に向けて、トドメの一撃を放つ。一撃目と二撃目は左から右へと弧を描いていたのだが、トドメとなる三撃目は的をまっすぐと射貫くような左のストレートであった。しかしながら、コッチロー=ネヅの運が良かったことは腹の筋肉を厚い脂肪が覆っていたことである。ロック=イートのパンチは厚い脂肪を貫くことになったが、衝撃は吸収されてしまい、その奥にある筋肉の壁までは完全に破壊できなかったのであった。

 それでもコッチロー=ネヅは深手を負い、腹に開いた穴から血を大量に流すこととなる。ロック=イートはさも面白くないといった表情で左手を抜き、右の義手でコッチロー=ネヅの横っ面に裏拳を叩き込んでしまう。コッチロー=ネヅはその裏拳をまともに喰らって、意識を寸断させられてしまう。コッチロー=ネヅは膝から崩れるように石畳の上に倒れ込み、うつ伏せ状態となり、そこに血の池を創り出す。

 ロック=イートはそんな彼の後頭部に右足を乗せて、血で濡れた左腕を高々と上げて、ハーハハッ! と高笑いをしながら、勝利者であることを宣言するのであった……。

 観客席に座る観衆たちはそんなロック=イートから眼を背けていた。ロック=イートが立ち上がり、コッチロー=ネヅの戦槌バトル・ハンマを砕いた時までは、うおおおっ! と熱狂した声援を送っていたのだが、すでに戦意喪失していたコッチロー=ネヅを追い込んだその冷酷さに眉根をひそめたのだ。

「しょ、勝者、ロック=イート! 担架を急いでもってくるのでごわすっ! 早くコッチロー=ネヅを治療してやるのでごわすっ!」

 試合場のすぐ近くで試合の成り行きを見守っていた弓神:ダルシゥム=カーメンがロック=イートの勝利を認めたと同時に、他の試合管理人たちにすぐに担架を持ってくるようにと指示を飛ばす。そして、敗者をそれ以上、侮辱するなとロック=イートに警告するのであった。ロック=イートはチッ! と明らかに不満を表す舌打ちをし、コッチロー=ネヅの後頭部に乗せていた右足をどかすのであった。そしてロック=イートは何かを思案するように右手を顎に当てつつ、独り言をぶつぶつと言い出す。

「ふ~~~む。久方ぶりにこいつの身体を乗っ取れたというのに、そろそろ時間切れのようだな。まあ良い。なかなかに修練を積み上げているようだ。さらなる向上を期待しておこう……」

 ロック=イートは誰にも聞こえぬ小声でそう呟くと、石畳の上から足を降ろす。そして、場外に広がる芝生に足をつけるや否や、操り糸が切れた人形のように、その場で崩れ落ちるように倒れ込む。それに驚いたのは試合の趨勢を見守っていたリリー=フルール、ヨーコ=タマモ、セイ=レ・カンコーの3人であった。彼女らはロック=イートへと駆け寄り、ロック=イートの身を支える。既に彼の身体から発せられていた邪悪なオーラはどこかへと吹き飛んでおり、3人はホッと安堵の息を口から漏らす。

「ロック……。どうしちゃったのよ……。あんなのわたくしの騎士らしくありませんわ……」

 リリー=フルールが不安げな表情のままにロック=イートの背中を右腕で支えつつ、彼の顔を覗き込む。同時に左腕でロック=イートを支えていたセイ=レ・カンコーがそれよりもロック=イートをこの場から動かそうと提案する。

「事情はよくわかりやせんが、とりあえず控室へロックさんを運びましょうぜ。タマモさん、手を貸してもらいませんか? あっしが右で、タマモさんが左で」

「うむ、わかったのじゃ。ロックには聞きたいことがやまほどあるが、今は観衆の眼からロックを物理的に離すことじゃな。リリー嬢よ、わらわと交代するのじゃ」
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