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第8章:目覚めの兆し

第4話:耐えれぬ恥辱

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「うわ……。さすがにわらわでもドン引きなのじゃ。お尻を顔面にこすりつけて、おならをかましてほしいと願い出たのじゃ……」

「わたくしもさすがにロックの今の発言は無いと思いましたわ。下手をするとそれ以上のことを要求してきそうなのですわ……」

 女性陣が頬を引きつらせながら、ロック=イートに対して物理的に距離を空けていく。彼女らとしては、ロック=イートはもしかして、ヒトには決して言ってはならない悪癖を持っているのではないかという危惧を抱いたのである。そして、ロック=イートはソレを自分たちに要求してくるのではなかろうかという不安感に襲われることとなる。

(わらわとしては、ロックがソレを望むのであれば、付き合ってやらんでもないが……。いやしかし、それでも排泄行為をロック相手と言えども、彼の前で晒すのはさすがに無理じゃなあ……)

 ヨーコ=タマモはそう思案し、そういった変態プレイは正妻が相手するべきであろうと、リリー=フルールの顔を見て、にんまりとした笑顔を作り出す。そして、彼女の左肩を右手でポンと叩き、まるで任せたとばかりにうんうんと頷く。

(ええ!? タマモさんの今の所作はいったい何ですの!? わたくしにロックのお相手をしてさしあげろと言いたいのかしら!? いやでも、わたくしでもさすがに愛するロックのお顔に自分のお尻を乗せることはできませんことよ!?)

 リリー=フルールはヨーコ=タマモにバトンを渡されそうになったが、困惑した表情で勢いよくブンブンと左右に頭を振る。そんな彼女に対して、ヨーコ=タマモは、はあああ……と深いため息をつきだす。そして、ヨーコ=タマモは今度は両手でリリー=フルールの肩をバンバンと叩く。まるでそれはおぬしがやらずに誰がやるのじゃっ! と力強く言われている気がしてならないリリー=フルールであった。彼女は、えええ!? と素っ頓狂な声をあげる他無かったのであった。

 そんなやりとりをする二人をロック=イートは彼女たちは何をしてるんだろう? と言った感じで見る。ロック=イートは自分の発言がどれほど危険を孕んだモノなのかを理解していなかったのである。一歩間違えれば、彼女たちにこの世における羞恥の中で一等級に値することを要求していることになるのだ。だが、そうなのにロック=イートはその可能性について考慮できていなかったのである。

「ロックさん。そろそろ準備を整えておかないとまずいですぜ? リリーお嬢様、タマモさん、ロックさんの顔にお尻を乗せるのは試合が終わった後でも出来やすから、今はロックさんをお借りしますぜ?」

 セイ=レ・カンコーはロック=イートに最終調整をしようと促すのであった。サラ=ローランの突然の介入に始まり、ロック=イートの不穏な発言により、女性陣は困惑し慌てふためくという状況を打破すべく彼は口を開いたのである。ロック=イートの試合が間近に迫っているというのに、今はそんなことに構っている時間など無いだろうと言いたげな感じの口調でセイ=レ・カンコーはそう言いのける。

 ロック=イートは厳しめの口調でセイ=レ・カンコーに言われて、はっ! となる。何故に自分は無駄口を叩いていたのだろうと後悔してしまうのであった。そして、セイ=レ・カンコーが早く打ち込んでくるっすよという言葉に乗っかり、彼の両手にハメられている革製の厚手のミットにワンツーとパンチを繰り出すのであった。

 セイ=レ・カンコーに助け舟を出された格好となったリリー=フルールとヨーコ=タマモは心底、ほっと安堵してしまう。あのままの流れでは、ロック=イートをそこの汚いベッドの上で横になってもらい、自分は彼の顔の上へ馬乗りせざるをえない状況へと陥っていた可能性も考えられたのであった。もちろん、これは彼女たちの杞憂であることは言うまでもない。ロック=イートとしては、そんなことをしてもらおうという気は一切無かったのだ。

 それでもだ。ロック=イートならもしかすると本気でそうされることを願っているような気がしてたまらない女性陣である。

(パンツは履いたまま? それとも直接なのかしら? でも、どちらにしてもせめてお尻はキレイに洗っておかないと、わたくし、恥辱に耐えきれませんわ……)

 その時が来たときはなるべくキレイにお尻を洗ってからにしようとリリー=フルールは心に誓うのであった……。



「そろそろ本日の第1試合が始まるぞ! ロック=イート選手。準備は出来ているかっ!」

 控室にずかずかと足を踏み入れて、上から目線でそう言いのけるのは試合管理人のひとりであった。彼は控室に現れるや否や、怒声に似た声で、ロック=イートが居るのかどうかの確認をおこなう。ロック=イートは彼に対して、右手を軽く上げて、自分はここに居ると主張する。試合管理人はロック=イートの姿を視認すると、うむっ! と息を吐き、ロック=イートの近くまで歩いていく。そして、まじまじと彼の全身を舐めるように見て

「なるほど、なるほど。準備万端のようだな。しかし、もっと良い防具を身に着ける気はないのかな?」

 試合管理人はロック=イートが身に着けているカラテ着を見て、そう感想を述べる。他の戦士は勇壮な鎧に身を包み込んでいると言うのに、ロック=イートは厚手の服1枚なのだ。そんな軽装備よりも劣るような恰好で大丈夫なのか? と言いたげであった。しかしながら、ロック=イートはこれで十分ですと試合管理人に伝える。そう告げられた試合管理人は眉根をひそめることになるが、大怪我するのはロック=イート本人なので、それ以上は何も言わないでおくことにしたのだ。

 そして、ロック=イートにあと5分もすれば会場入りしてもらう運びとなっていることを伝えて、試合管理人は控室から退出していくのであった。あくまでも自分は自分のすべき仕事をやっているだけだという雰囲気をその男から感じるロック=イートであった。

「なあ、セイさん。今のヒトって、ただの役人には思えないな。醸し出す雰囲気から察するに、軍人のように思えるんだけど」

「そうですねえ……。身体の線の太さから予想するに、ただの小役人とは到底思えないですぜ。もしかしたら、名が通った人物である可能性が高いですなあ?」

 ロック=イートたちは知らなかった。上覧武闘会で駆り出されている試合管理人たちがアンゴルモア大王軍に所属する軍人たちであることを。しかもだ、その中には部隊のおさや副長を務めている事実を知らされていなかったりする。そこにアンゴルモア大王の思惑が隠されていることにロック=イートたちが気づくのは後々になってからになる。
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