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第6章:予選大会
第7話:予選決勝の勝者
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ロック=イートに起きた変化はそれだけではなかった。右の義腕までもが先祖返りに反応し、いびつな形状をした蒼色の手甲を装備した形へと変化したのである。だが、そのことに気づいていなかったロック=イートは左腕で鎖状の鞭を自分の方へ引っ張り、ヨーコ=タマモの身体を無理やりに自分の方へと移動させ、その異形な形の右の義腕を深々と彼女の腹へ突き刺したのだ。
「ロケット……腹パンッ!」
ドギャリンッ! とまるで金属と金属がぶつかりへし折れるような音がヨーコ=タマモの腹辺りから響き渡ることとなる。彼女が全身から出している鎖状の鞭は彼女の胴回りに巻かれていて、そこを中心にして展開されていたからである。ロック=イートはその中心部に自分の右の拳をぶち込んだ形となったのだ。
ヨーコ=タマモは腹に受けた衝撃で、ウゲッ! と女性らしからぬ声と共に透明な胃液を吐き出すこととなる。だが、ロック=イートの追撃がさらに彼女の腹に慈悲も無く突き刺さる。
「ロケット……腹パンッッッ!!」
ロック=イートはもう一度、ドンッ! と砂地の地面を右足で力強く踏みしめ、右の拳を下から斜め上へやや弧を描くようにヨーコ=タマモの腹へとぶち込む。そして、まるで料理がたくさん積み上げられたテーブルをひっくり返したかのようなガラガラガッシャーンという音が彼女の腹辺りから響き渡ることとなる。彼女の胴周りを覆っていた鎖が根本から破砕されたのだ。
ヨーコ=タマモの眼の黒い部分はグルンと上方向へと回り込み、白目を剥いてしまうことになる。さらに彼女は口から赤い色をした泡を吹きだしてしまう。そして彼女は砂地の地面に膝から崩れ落ち、その地面に突っ伏して倒れてしまう。ロック=イートの容赦ない腹への二撃を喰らい、彼女は失神へと至ってしまったのだ。
そんな彼女を差し置いて、ロック=イートは異形な形へと変貌した右腕を高々と振り上げ、ウオオオォン! と狼そのもののような雄叫びを上げる。同時にそれは勝利者としての宣言でもあった。試合管理人は試合終了を告げる銅鑼を叩くようにと部下に命じる。その部下は慌てた表情でジャンジャンジャーン! と3度、銅鑼を叩く。
「勝者、ロック=イート!!」
観客席からは一層大きな声援が巻き起こる。ヨーコ=タマモに賭け金を積んでいた会場内を占める8割の男たちも巻き込んでの大声援であった。ヨーコ=タマモが計9本の鎖状の鞭を展開し、一方的にロック=イートを打ちのめしていた時点で、ロック=イートに勝ち目などないと思っていたのだ。だが、彼はそこから奇跡の大逆転を観客に見せつけたのである。この試合展開に異を唱える者など誰ひとりとて居なかった。観客席に座る者たちは誰しもが想像を絶する逆転劇をほのかに期待しているモノである。その想いを叶えたのがロック=イートであったのだ。
観客席からはあの男はいったい何者なのだと、いったいどこの流派で修行を積んだのかと、どよめきと熱を伴いつつ喧々ごうごうと彼らは言い合いを続けたのである。その観客の中で異質の者が1名居た。観客たちがロック=イートの出自について、あることないことを予想しているが、それについて知っているのは自分だけという自負を持った男が居たのだ。その男の名はコープ=フルールである。彼はタイミングを計っていたのだ。ロック=イートの出自を言いふらすその瞬間を。ロック=イート自身の値段を一気に吊り上げれるそのタイミングを推し量っていた。そして、彼は今はまだその時では無いと判断する。
噂は噂を呼び、ロック=イートの不可思議性は否応なく高まっていくだろう。そして、観客たちの熱が最大限に高まった時に、コープ=フルールは皆に真実をつげようと考えていたのである。だからこそ、コープ=フルールは自分の屋敷に勤める使用人たちに、決して、ロック=イートのことに関して、要らぬことを言わないようにと厳命している。そして、娘であるリリー=フルールに対しても同じであった。
彼女としては観客席で立ち上がり、ロック=イートは拳聖:キョーコ=モトカードの後継者として指名され、そして今は『世界最強の生物』になる夢を持っていることを告げれるモノなら告げたかった。しかし、そんな彼氏自慢をすることよりも、やらなければならぬことが彼女にはあった。彼女は席を立ち、急いで控室へと走っていく。ロック=イートは鎖状の鞭で散々に打ちのめされていたのだ。そして、彼は風の噂でしか聞いたことのない先祖返りを行った。その反動はとてつもないモノだと伝え聞いている。だからこそ、彼女はロック=イートの身を案じて、控室に飛び込むようにして、その中へと入っていくのであった。
しかしながら、控室に飛び込んだは良いが、ロック=イートの対戦相手であったヨーコ=タマモまでもが同じ控室に運ばれていたのである。セイ=レ・カンコーが困ったような顔をしていることから、何か手違いがあり、対戦者同士が同室となったことがリリー=フルールには察せられたのである。
「リリーお嬢様。ロックさんの治療を頼んでいいですかい?」
「ええ。もちろん、そのつもりでこの控室にやってきたのですわ。ロックの具合はどうなの?」
リリー=フルールがセイ=レ・カンコーにそう問うが、彼は渋面となっていた。リリー=フルールがこの控室にやってくる前にセイ=レ・カンコーは彼の身体に包帯を巻けるだけ巻いたのだが、その包帯は元は白色をしていたというのに、瞬く間に血で汚れてしまい、今や真っ赤に染まっていたのである。
「決して楽観視できる状態じゃないことは確かなんですぜ。リリーお嬢様はロックさんの状態を見ながら、治療魔術をかけてほしいです。一度に魔力を流し込んだりしたら、ショック死してしまうかもしれませんから……」
ロック=イートは全身の7割近くを包帯でグルグル巻きにされていた。そして、リリー=フルールは頭の中でどのような順番で治療魔術を施していくべきかを考える。全身くまなく一度に治療魔術をかければ、それにより発生したぶり返しの痛みで、ロック=イートが余計に疲弊してしまうことはリリー=フルールにも自明の理であった。だからこそ、彼女は身体の中で最も重要だと言われている臓器が詰まっている胴部分から治療魔術をかけていくことに決めたのであった……。
「ロケット……腹パンッ!」
ドギャリンッ! とまるで金属と金属がぶつかりへし折れるような音がヨーコ=タマモの腹辺りから響き渡ることとなる。彼女が全身から出している鎖状の鞭は彼女の胴回りに巻かれていて、そこを中心にして展開されていたからである。ロック=イートはその中心部に自分の右の拳をぶち込んだ形となったのだ。
ヨーコ=タマモは腹に受けた衝撃で、ウゲッ! と女性らしからぬ声と共に透明な胃液を吐き出すこととなる。だが、ロック=イートの追撃がさらに彼女の腹に慈悲も無く突き刺さる。
「ロケット……腹パンッッッ!!」
ロック=イートはもう一度、ドンッ! と砂地の地面を右足で力強く踏みしめ、右の拳を下から斜め上へやや弧を描くようにヨーコ=タマモの腹へとぶち込む。そして、まるで料理がたくさん積み上げられたテーブルをひっくり返したかのようなガラガラガッシャーンという音が彼女の腹辺りから響き渡ることとなる。彼女の胴周りを覆っていた鎖が根本から破砕されたのだ。
ヨーコ=タマモの眼の黒い部分はグルンと上方向へと回り込み、白目を剥いてしまうことになる。さらに彼女は口から赤い色をした泡を吹きだしてしまう。そして彼女は砂地の地面に膝から崩れ落ち、その地面に突っ伏して倒れてしまう。ロック=イートの容赦ない腹への二撃を喰らい、彼女は失神へと至ってしまったのだ。
そんな彼女を差し置いて、ロック=イートは異形な形へと変貌した右腕を高々と振り上げ、ウオオオォン! と狼そのもののような雄叫びを上げる。同時にそれは勝利者としての宣言でもあった。試合管理人は試合終了を告げる銅鑼を叩くようにと部下に命じる。その部下は慌てた表情でジャンジャンジャーン! と3度、銅鑼を叩く。
「勝者、ロック=イート!!」
観客席からは一層大きな声援が巻き起こる。ヨーコ=タマモに賭け金を積んでいた会場内を占める8割の男たちも巻き込んでの大声援であった。ヨーコ=タマモが計9本の鎖状の鞭を展開し、一方的にロック=イートを打ちのめしていた時点で、ロック=イートに勝ち目などないと思っていたのだ。だが、彼はそこから奇跡の大逆転を観客に見せつけたのである。この試合展開に異を唱える者など誰ひとりとて居なかった。観客席に座る者たちは誰しもが想像を絶する逆転劇をほのかに期待しているモノである。その想いを叶えたのがロック=イートであったのだ。
観客席からはあの男はいったい何者なのだと、いったいどこの流派で修行を積んだのかと、どよめきと熱を伴いつつ喧々ごうごうと彼らは言い合いを続けたのである。その観客の中で異質の者が1名居た。観客たちがロック=イートの出自について、あることないことを予想しているが、それについて知っているのは自分だけという自負を持った男が居たのだ。その男の名はコープ=フルールである。彼はタイミングを計っていたのだ。ロック=イートの出自を言いふらすその瞬間を。ロック=イート自身の値段を一気に吊り上げれるそのタイミングを推し量っていた。そして、彼は今はまだその時では無いと判断する。
噂は噂を呼び、ロック=イートの不可思議性は否応なく高まっていくだろう。そして、観客たちの熱が最大限に高まった時に、コープ=フルールは皆に真実をつげようと考えていたのである。だからこそ、コープ=フルールは自分の屋敷に勤める使用人たちに、決して、ロック=イートのことに関して、要らぬことを言わないようにと厳命している。そして、娘であるリリー=フルールに対しても同じであった。
彼女としては観客席で立ち上がり、ロック=イートは拳聖:キョーコ=モトカードの後継者として指名され、そして今は『世界最強の生物』になる夢を持っていることを告げれるモノなら告げたかった。しかし、そんな彼氏自慢をすることよりも、やらなければならぬことが彼女にはあった。彼女は席を立ち、急いで控室へと走っていく。ロック=イートは鎖状の鞭で散々に打ちのめされていたのだ。そして、彼は風の噂でしか聞いたことのない先祖返りを行った。その反動はとてつもないモノだと伝え聞いている。だからこそ、彼女はロック=イートの身を案じて、控室に飛び込むようにして、その中へと入っていくのであった。
しかしながら、控室に飛び込んだは良いが、ロック=イートの対戦相手であったヨーコ=タマモまでもが同じ控室に運ばれていたのである。セイ=レ・カンコーが困ったような顔をしていることから、何か手違いがあり、対戦者同士が同室となったことがリリー=フルールには察せられたのである。
「リリーお嬢様。ロックさんの治療を頼んでいいですかい?」
「ええ。もちろん、そのつもりでこの控室にやってきたのですわ。ロックの具合はどうなの?」
リリー=フルールがセイ=レ・カンコーにそう問うが、彼は渋面となっていた。リリー=フルールがこの控室にやってくる前にセイ=レ・カンコーは彼の身体に包帯を巻けるだけ巻いたのだが、その包帯は元は白色をしていたというのに、瞬く間に血で汚れてしまい、今や真っ赤に染まっていたのである。
「決して楽観視できる状態じゃないことは確かなんですぜ。リリーお嬢様はロックさんの状態を見ながら、治療魔術をかけてほしいです。一度に魔力を流し込んだりしたら、ショック死してしまうかもしれませんから……」
ロック=イートは全身の7割近くを包帯でグルグル巻きにされていた。そして、リリー=フルールは頭の中でどのような順番で治療魔術を施していくべきかを考える。全身くまなく一度に治療魔術をかければ、それにより発生したぶり返しの痛みで、ロック=イートが余計に疲弊してしまうことはリリー=フルールにも自明の理であった。だからこそ、彼女は身体の中で最も重要だと言われている臓器が詰まっている胴部分から治療魔術をかけていくことに決めたのであった……。
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