拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

文字の大きさ
上 下
58 / 122
第6章:予選大会

第7話:予選決勝の勝者

しおりを挟む
 ロック=イートに起きた変化はそれだけではなかった。右の義腕までもが先祖返りジュウジンモードに反応し、いびつな形状をした蒼色の手甲ナックル・カバーを装備した形へと変化したのである。だが、そのことに気づいていなかったロック=イートは左腕で鎖状の鞭を自分の方へ引っ張り、ヨーコ=タマモの身体を無理やりに自分の方へと移動させ、その異形な形の右の義腕を深々と彼女の腹へ突き刺したのだ。

「ロケット……腹パンッ!」

 ドギャリンッ! とまるで金属と金属がぶつかりへし折れるような音がヨーコ=タマモの腹辺りから響き渡ることとなる。彼女が全身から出している鎖状の鞭は彼女の胴回りに巻かれていて、そこを中心にして展開されていたからである。ロック=イートはその中心部に自分の右のこぶしをぶち込んだ形となったのだ。

 ヨーコ=タマモは腹に受けた衝撃で、ウゲッ! と女性らしからぬ声と共に透明な胃液を吐き出すこととなる。だが、ロック=イートの追撃がさらに彼女の腹に慈悲も無く突き刺さる。

「ロケット……腹パンッッッ!!」

 ロック=イートはもう一度、ドンッ! と砂地の地面を右足で力強く踏みしめ、右のこぶしを下から斜め上へやや弧を描くようにヨーコ=タマモの腹へとぶち込む。そして、まるで料理がたくさん積み上げられたテーブルをひっくり返したかのようなガラガラガッシャーンという音が彼女の腹辺りから響き渡ることとなる。彼女の胴周りを覆っていた鎖が根本から破砕されたのだ。

 ヨーコ=タマモの眼の黒い部分はグルンと上方向へと回り込み、白目を剥いてしまうことになる。さらに彼女は口から赤い色をした泡を吹きだしてしまう。そして彼女は砂地の地面に膝から崩れ落ち、その地面に突っ伏して倒れてしまう。ロック=イートの容赦ない腹への二撃を喰らい、彼女は失神へと至ってしまったのだ。

 そんな彼女を差し置いて、ロック=イートは異形な形へと変貌した右腕を高々と振り上げ、ウオオオォン! と狼そのもののような雄叫びを上げる。同時にそれは勝利者としての宣言でもあった。試合管理人は試合終了を告げる銅鑼を叩くようにと部下に命じる。その部下は慌てた表情でジャンジャンジャーン! と3度、銅鑼を叩く。

「勝者、ロック=イート!!」

 観客席からは一層大きな声援が巻き起こる。ヨーコ=タマモに賭け金を積んでいた会場内を占める8割の男たちも巻き込んでの大声援であった。ヨーコ=タマモが計9本の鎖状の鞭を展開し、一方的にロック=イートを打ちのめしていた時点で、ロック=イートに勝ち目などないと思っていたのだ。だが、彼はそこから奇跡の大逆転を観客に見せつけたのである。この試合展開に異を唱える者など誰ひとりとて居なかった。観客席に座る者たちは誰しもが想像を絶する逆転劇をほのかに期待しているモノである。その想いを叶えたのがロック=イートであったのだ。

 観客席からはあの男はいったい何者なのだと、いったいどこの流派で修行を積んだのかと、どよめきと熱を伴いつつ喧々ごうごうと彼らは言い合いを続けたのである。その観客の中で異質の者が1名居た。観客たちがロック=イートの出自について、あることないことを予想しているが、それについて知っているのは自分だけという自負を持った男が居たのだ。その男の名はコープ=フルールである。彼はタイミングを計っていたのだ。ロック=イートの出自を言いふらすその瞬間を。ロック=イート自身の値段を一気に吊り上げれるそのタイミングを推し量っていた。そして、彼は今はまだその時では無いと判断する。

 噂は噂を呼び、ロック=イートの不可思議性は否応なく高まっていくだろう。そして、観客たちの熱が最大限に高まった時に、コープ=フルールは皆に真実をつげようと考えていたのである。だからこそ、コープ=フルールは自分の屋敷に勤める使用人たちに、決して、ロック=イートのことに関して、要らぬことを言わないようにと厳命している。そして、娘であるリリー=フルールに対しても同じであった。

 彼女としては観客席で立ち上がり、ロック=イートは拳聖:キョーコ=モトカードの後継者として指名され、そして今は『世界最強の生物』になる夢を持っていることを告げれるモノなら告げたかった。しかし、そんな彼氏自慢をすることよりも、やらなければならぬことが彼女にはあった。彼女は席を立ち、急いで控室へと走っていく。ロック=イートは鎖状の鞭で散々に打ちのめされていたのだ。そして、彼は風の噂でしか聞いたことのない先祖返りジュウジンモードおこなった。その反動はとてつもないモノだと伝え聞いている。だからこそ、彼女はロック=イートの身を案じて、控室に飛び込むようにして、その中へと入っていくのであった。

 しかしながら、控室に飛び込んだは良いが、ロック=イートの対戦相手であったヨーコ=タマモまでもが同じ控室に運ばれていたのである。セイ=レ・カンコーが困ったような顔をしていることから、何か手違いがあり、対戦者同士が同室となったことがリリー=フルールには察せられたのである。

「リリーお嬢様。ロックさんの治療を頼んでいいですかい?」

「ええ。もちろん、そのつもりでこの控室にやってきたのですわ。ロックの具合はどうなの?」

 リリー=フルールがセイ=レ・カンコーにそう問うが、彼は渋面となっていた。リリー=フルールがこの控室にやってくる前にセイ=レ・カンコーは彼の身体に包帯を巻けるだけ巻いたのだが、その包帯は元は白色をしていたというのに、瞬く間に血で汚れてしまい、今や真っ赤に染まっていたのである。

「決して楽観視できる状態じゃないことは確かなんですぜ。リリーお嬢様はロックさんの状態を見ながら、治療魔術をかけてほしいです。一度に魔力を流し込んだりしたら、ショック死してしまうかもしれませんから……」

 ロック=イートは全身の7割近くを包帯でグルグル巻きにされていた。そして、リリー=フルールは頭の中でどのような順番で治療魔術を施していくべきかを考える。全身くまなく一度に治療魔術をかければ、それにより発生したぶり返しの痛みで、ロック=イートが余計に疲弊してしまうことはリリー=フルールにも自明の理であった。だからこそ、彼女は身体の中で最も重要だと言われている臓器が詰まっている胴部分から治療魔術をかけていくことに決めたのであった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】聖女戦記物語。結局、誰が聖女役?-魔法より武力と丈夫な体に自信があります-

ジェルミ
ファンタジー
聖女召喚再び。失敗したと誰もが思ったが、現れたのは…. 17歳でこの世を去った本郷 武は異世界の女神から転移を誘われる。 だが転移先は魔物が闊歩し国が荒れていた。 それを収めるため、国始まって以来の聖女召喚を行った。 そして女と男が召喚された。 女は聖女ともてはやされ、男は用無しと蔑まれる。 しかし召喚に巻き込まれたと思われていた男こそ、聖女ではなく聖人だった。 国を逃げ出した男は死んだことになり、再び聖女召喚が始まる。 しかし、そこには…。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。  この作品は嗜好が分かれる作品となるかと思います。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...