拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

文字の大きさ
上 下
55 / 122
第6章:予選大会

第4話:闘いの美学

しおりを挟む
 ロック=イートたちが控室で休んでいると、予選会場には大きなどよめきと、それに付随してのため息が沸き起こる。ロック=イートたちは一体、どんな試合が執り行われたのだろうと思うが、ついにそれを確かめることは出来ないでいた。しかしながら、試合場から運ばれてきた戦士の姿を見て、3人とも絶句してしまう。

 身体全体を何か鋭い爪で掻きむしられたかのように、その戦士はズタボロであった。身に着けている金属製の鎧ごと、身体の表面を削られている。身体のそこかしこから血が噴き出し、見るも凄惨な姿になっていたのである。控室は医務室も兼ねていたが、ここの施設では治療が間に合わぬということで、その戦士は控室では無く、予選会場の外にある専門の治療施設へと運ばれることとなる。

「いったい、どんな猛獣と戦ったら、あんなことになるんですかねえ?」

「わたくし、血の気がゾッと引いてしまいましたわ……。あそこまでむごたらしく、相手を完膚無きまで叩きのめすモノですの?」

 セイ=レ・カンコーが顎を右手でさすりながら、渋い表情へと変わっている。そしてリリー=フルールは青ざめたことで、白い頬がさらに白くなっており、生気を若干失くしてしまっているのがロック=イートの眼にはっきりとわかる。ロック=イートはそんな彼女の顔を見て、なんだか怒りがわいてきてしまう。先ほど運ばれてきた戦士は自分の負けをなかなかに認めなかったために、不必要に相手側が攻撃を繰り出さなければならなかったのかもしれない。

 しかし、これはロック=イートの希望的観測である。考えられることとして、もう一方の胸くそが悪くなるような可能性も考えられる。それはわざと相手をじわじわと追い詰めた場合だ。要はなぶり者にしたということだ。運ばれていった戦士をちらっとしか見ていないロック=イートであったために、次に当たる予選決勝の相手はどちらの方なのかを判別できないでいた。ロック=イートは一介の戦士として闘いを楽しむ男である。しかし、相手をなぶり者にすることは好まない男だ。自分のその時に出せる限りの全力をもってして、相手を打ちのめす。そこに自分なりの闘いの美学を持っている。

 もちろん、これは相手が自分より数段劣る格下にも同じというわけではない。そういった相手には、実力の差を見せつけて、早々に決着をつけてしまうタイプだ。ロック=イートは右手で左腕をさすり、自分が万全の体勢になっているのかのチェックをする。もし、相手が敵対する者をいたぶるような性格の持ち主であるならば、一気に決着をつけてしまわねば、要らぬ怪我を負ってしまう可能性が高い。次の試合はあくまでも予選決勝であり、本戦ではないのだ。こんなところでつまづいている余裕など、ロック=イートには無いと断言できよう。

 3人それぞれに思うところがあるが、控室の中では言葉少なくなっていた。リリー=フルールはロック=イートの身の安全を願っているが、何か言わんとすれば、それが現実に起こりうる可能性がありそうな気がしてたまらなかった。だからこそ、ロック=イートにかける言葉が見つからない状態だったのである。そんな彼女に対して、ロック=イートは右手でポンポンと軽くリリー=フルールの頭を撫でる。

「大丈夫だって。俺は『世界最強の生物』になる男だぜ? こんなところでつまらない怪我なんかしないって」

「そう……だけど。でも、やっぱり心配なのですわ。ロックがさっきのヒトみたいに傷だらけになってしまうんじゃないかと思うと」

「だから、大丈夫だって。てか、そろそろ観客席に戻っておいたほうが良いと思うぞ? コープ様まで控室にやってきたら、俺の集中力が切れそうだからさ?」

 ロック=イートがそう言うモノの、リリー=フルールは唇をアヒルのクチバシのように尖らせて、不満気な表情をその顔に映す。なかなかその場から動かぬリリー=フルールの背中を押したのはセイ=レ・カンコーであった。最終調整に入るから、ふたりっきりにしてほしいですぜと、とにかく理由をつけて、リリー=フルールを控室の外へと追い出してしまう。

「んで……。ロックさん。相手の武器はいったい何だと思います? あっしの予想を言っていいですかい?」

「いや、なんとなく俺も察しているから、それは良いかな。というよりかは、変な予測を立てるよりも、自分の眼で直接確かめたほうが結果的に良さそうな気はする」

「じゃあ、いつも通りの最終調整といきましょうぜ。左腕に違和感が無いかどうかのチェックが一番大事ですなっ」

 セイ=レ・カンコーがそう言うと、両手に革製の厚手のミットをハメる。そして、ベッドから身を起こしたロック=イートがそのミット目がけて、左右交互にパンチを繰り出す。いついかなる時も基本を忘れないことこそが、ロック=イートの強みでもあった。

 そうこうしているうちに、会場の準備が出来上がり、試合管理人のひとりがロック=イートたちがいる控室へとやってくる。そして、あと10分ほどで予選決勝が執り行われるので、準備を怠らないようにと伝達される。そして、何かのついでのように、この予選決勝に勝った者が主アンゴルモア大王からいくばくかの報奨をもらえることも、彼らに伝えるのであった。その試合管理人のひとりが控室から退出すると、セイ=レ・カンコーが冗談交じりに

「ロックさんは主アンゴルモア大王に何をもらうんですかい? 貴方様が座っている玉座を俺に譲れとでも言うんですかい?」

「ははっ。譲ってもらっても嬉しくも何ともないよ。ああいうのは自分の手で奪い取ってだとおもうけどな?」

 ロック=イートの返しにセイ=レ・カンコーは口元をミットで隠してクックックと笑ってしまう。譲られても嬉しくない。奪ってこそ価値があると言い切るロック=イートの矜持を感じられる台詞にセイ=レ・カンコーは嬉しくなってしまう。

「さすがはロックさんですぜ。じゃあ、次の試合は是が非でも負けらせませんなあ?」

「出来る限りのことはするさ。予選決勝まで残った相手に無傷で済むなんて甘いことは一切考えていないよ。リリー様にまた治療魔術を施してもらうことになることになるけど、さすがに辟易とした顔をされちまうかなあ?」

 リリー=フルールはロック=イートのためにこの2カ月余り、水の魔術を用いた治療魔術を学んできたのである。屋敷に魔術大学所属の高位魔術師ハイ・コンジュラーを呼び、特別な訓練を施してもらったのである。コープ=フルールは彼を雇うのに経費で落ちないかとフルール商会本部へ相談しにいったという裏話もあるが、それは今はあまり関係無い話なので割愛させてもらおう。

 とにかくリリー=フルールもまた、ロック=イートと共に闘おうという決意に燃えており、基礎だけで通常1年は習得にかかるというのに、リリー=フルールは愛の力をもってして、2カ月余りでを治療魔術の基礎を会得してしまったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】聖女戦記物語。結局、誰が聖女役?-魔法より武力と丈夫な体に自信があります-

ジェルミ
ファンタジー
聖女召喚再び。失敗したと誰もが思ったが、現れたのは…. 17歳でこの世を去った本郷 武は異世界の女神から転移を誘われる。 だが転移先は魔物が闊歩し国が荒れていた。 それを収めるため、国始まって以来の聖女召喚を行った。 そして女と男が召喚された。 女は聖女ともてはやされ、男は用無しと蔑まれる。 しかし召喚に巻き込まれたと思われていた男こそ、聖女ではなく聖人だった。 国を逃げ出した男は死んだことになり、再び聖女召喚が始まる。 しかし、そこには…。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。  この作品は嗜好が分かれる作品となるかと思います。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

処理中です...