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第3章:コープ=フルール
第9話:不満と贅沢
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コープ=フルールは公平な信賞必罰こそ、部下たちをまとめあげる点において重要だと考えている。それは自分の屋敷で雇っている使用人たちにも同じことだと。有能な人材には出来る限り手厚く報酬を与え、そうでないにも関わらず、怠慢を働くニンゲンが嫌いであった。そして、今、自分に盾突いたロック=イートはどちら側のニンゲンであろうかと推し量ろうとする。
「例えばの話ですが、ロックくんは3人くらいの武装した暴漢に囲まれた場合は、いったいどうやって対処するんです?」
「質問の意図がよくわかりませんが、俺ならまともに立ち会おうとは思いません。何か手を尽くして、1対1の状況下に持っていくと思います」
ロック=イートの応えになるほどなるほどとうなずくコープ=フルールであった。冒険と無謀は別物だと言うことをちゃんとロック=イートはわかっていることを、この発言から伺いしれることとなるコープ=フルールである。ならば、それが出来ない状況ならば、この眼の前の男はどう対処するのか、1度、見てみたいと思ってしまうといった意地の悪いことを考えてしまうのは彼ならではの悪癖としか言いようがなかった。
「はい、わかりました。あなたへの罰はこちらで用意しておきます。でも、罰というよりかは難題と言ったほうがまだ優しい言い方かもしれませんね」
「それはどういう意味なのですか?」
ロック=イートは訝し気な視線をコープ=フルールに送る。だが、彼はフフッと不敵な笑みを零すのみで、まともに返答する気はないらしく
「まあ、ちょっとした好奇心ってやつですよ。リリー、よかったですね。正義の騎士様のご登場により、悪者の魔法使いの私は一旦、退くことに決めました。また策を練り直して再登場するので、どうぞお楽しみにしておいてくださいね?」
コープ=フルールは中庭に残る面々にそう告げると、執事のゴーマ=タールタルを連れて、仕事へと戻っていくのであった。彼に質問したいことは他にもあったが、騒ぎの原因となったリリー=フルールはうつむき加減で押し黙っているし、コープ=フルールは居なくなってしまったりで、なんとなく彼にかわされてしまったなと思うしかないロック=イートであった。それよりもだ。ロック=イートがコープ=フルールの命令で三日後に裏武闘会へ出場するのは変わりない。今出来ることをやろうと思い直し、ロック=イートはセイ=レ・カンコーにミット打ちの続きを願い出ることとなる。
「ありがとう。そして、ごめんなさいね。お父様が何か企むかもしれないけれど、頑張ってね?」
ロック=イートとセイ=レ・カンコーがミット打ちを再開して3分もすると、ようやくリリー=フルールが口を開く。感謝の念を伝えると同時に謝罪を申し出るので、ロック=イートは、つい手を止めてしまうことになる。だが、ロック=イートが彼女に何かを言う前にスタスタと歩いてリリー=フルールは中庭から退出してしまうのであった。
「なんだったんだろ。急にしおらしくなっちまって。それに俺はあいつに礼を言われるようなことをしたっけ?」
「乙女心は複雑だということっしょ。あと、礼を言われたなら、どういたしましてと返すのが筋ですぜ」
セイ=レ・カンコーがニヤニヤとした顔つきであったが、ロック=イートにはその理由がいまいちわからないでいた。自分はあの場で言うべきことはしっかり言わなければならないとそう思ったまでのことである。リリー=フルールに助け舟を出すつもりとか、そんなことはあまり考えていなかった。ただ、親が娘に言う台詞では無いだろうという義憤にかられただけのことだ。その結果がどうなるかなど、この時点では考えもしていなかった。セイ=レ・カンコーとは真逆の態度にでた。ただそれだけである。
それからしばらくロック=イートとセイ=レ・カンコーは試合に向けて調整を続けていた。ミット打ちが終わった後、次は組手を開始する。ここで問題なことはセイ=レ・カンコーではロック=イートの組手の相手としては不十分であることだ。ロック=イートは寸止めで対処し、セイ=レ・カンコーには思いっ切り打ち抜いてきてほしいと願い出ている。だが、それでもロック=イートのほうがセイ=レ・カンコーよりも腕前では遥かに上を行っている。
「申し訳ないですぜ。色々と口ではアドバイスできやすが、実践を意識した組手の相手としては不十分なのは、自分でもわかっているんですよ」
「ああ、動かない的を一方的に殴るよりかは遥かに自分のためになっているよ。でも、少し練習方法を考えたほうが良いかもしれないな」
ロック=イートの言う通り、物言わぬ木製の人形相手に技の修練をするよりかは、セイ=レ・カンコーのほうが遥かにマシと言ったところであった。だが、やはり拳聖:キョーコ=モトカードの後継者として指名されるほどの実力の持ち主であるロック=イートには彼は不十分な相手である。それでもトレーナーという存在は練習において、重要なことは変わりない。自分1人の力では、もし間違った方向に行ってしまった場合の修正が非常に難しい。
改めて思うことは、セイ=レ・カンコーとは監獄:東の果てからの付き合いだ。その前は兄弟子のコタロー=サルガミ。姉弟子のサラ=ローランが修行仲間であった。2人の存在はとてつもなく自分にとっての宝物だったことを今更ながらに思い知らされる。あの2人のうち、どちらかが今この場にいてくれていたら、どれほど心強かっただろう。しかし、居ない人物を頼ってどうするのかと、ロック=イートは左の拳で自分のコメカミを一発、ガツンと殴る。
「どうしたんですかい!? いきなり、自分の顔を殴って!?」
セイ=レ・カンコーとしては何故にロック=イートがそんなことをしだしたのかがわからない。もしかして、何か不満があり、それに対して怒りという感情が芽生えたのかと思ってしまう。だが、ロック=イートはそんなことではないときっぱりと否定する。
「俺は贅沢者だなと思っただけだよ。セイさん、東の果ての頃から、俺をサポートしてくれてありがとう」
ロック=イートはセイ=レ・カンコーに対して、詫びを入れる。自分1人なら、どこかで心が折れていたかもしれない。だが、セイ=レ・カンコーが一緒にいてくれたからこそ、ここまでどうにかやってきたのだ。そんな彼に対して、不満を持ってしまった自分が心底、恩知らずなニンゲンだということを込めて、自分のこめかみを自分の拳で殴ったのである。
「う~ん。まあ、あっしにはよくわからないですけど、思い悩むことがあったなら、気軽に打ち明けてほしいですぜ。なんせ、同じ収容所のメシを喰った仲なんですから!」
「例えばの話ですが、ロックくんは3人くらいの武装した暴漢に囲まれた場合は、いったいどうやって対処するんです?」
「質問の意図がよくわかりませんが、俺ならまともに立ち会おうとは思いません。何か手を尽くして、1対1の状況下に持っていくと思います」
ロック=イートの応えになるほどなるほどとうなずくコープ=フルールであった。冒険と無謀は別物だと言うことをちゃんとロック=イートはわかっていることを、この発言から伺いしれることとなるコープ=フルールである。ならば、それが出来ない状況ならば、この眼の前の男はどう対処するのか、1度、見てみたいと思ってしまうといった意地の悪いことを考えてしまうのは彼ならではの悪癖としか言いようがなかった。
「はい、わかりました。あなたへの罰はこちらで用意しておきます。でも、罰というよりかは難題と言ったほうがまだ優しい言い方かもしれませんね」
「それはどういう意味なのですか?」
ロック=イートは訝し気な視線をコープ=フルールに送る。だが、彼はフフッと不敵な笑みを零すのみで、まともに返答する気はないらしく
「まあ、ちょっとした好奇心ってやつですよ。リリー、よかったですね。正義の騎士様のご登場により、悪者の魔法使いの私は一旦、退くことに決めました。また策を練り直して再登場するので、どうぞお楽しみにしておいてくださいね?」
コープ=フルールは中庭に残る面々にそう告げると、執事のゴーマ=タールタルを連れて、仕事へと戻っていくのであった。彼に質問したいことは他にもあったが、騒ぎの原因となったリリー=フルールはうつむき加減で押し黙っているし、コープ=フルールは居なくなってしまったりで、なんとなく彼にかわされてしまったなと思うしかないロック=イートであった。それよりもだ。ロック=イートがコープ=フルールの命令で三日後に裏武闘会へ出場するのは変わりない。今出来ることをやろうと思い直し、ロック=イートはセイ=レ・カンコーにミット打ちの続きを願い出ることとなる。
「ありがとう。そして、ごめんなさいね。お父様が何か企むかもしれないけれど、頑張ってね?」
ロック=イートとセイ=レ・カンコーがミット打ちを再開して3分もすると、ようやくリリー=フルールが口を開く。感謝の念を伝えると同時に謝罪を申し出るので、ロック=イートは、つい手を止めてしまうことになる。だが、ロック=イートが彼女に何かを言う前にスタスタと歩いてリリー=フルールは中庭から退出してしまうのであった。
「なんだったんだろ。急にしおらしくなっちまって。それに俺はあいつに礼を言われるようなことをしたっけ?」
「乙女心は複雑だということっしょ。あと、礼を言われたなら、どういたしましてと返すのが筋ですぜ」
セイ=レ・カンコーがニヤニヤとした顔つきであったが、ロック=イートにはその理由がいまいちわからないでいた。自分はあの場で言うべきことはしっかり言わなければならないとそう思ったまでのことである。リリー=フルールに助け舟を出すつもりとか、そんなことはあまり考えていなかった。ただ、親が娘に言う台詞では無いだろうという義憤にかられただけのことだ。その結果がどうなるかなど、この時点では考えもしていなかった。セイ=レ・カンコーとは真逆の態度にでた。ただそれだけである。
それからしばらくロック=イートとセイ=レ・カンコーは試合に向けて調整を続けていた。ミット打ちが終わった後、次は組手を開始する。ここで問題なことはセイ=レ・カンコーではロック=イートの組手の相手としては不十分であることだ。ロック=イートは寸止めで対処し、セイ=レ・カンコーには思いっ切り打ち抜いてきてほしいと願い出ている。だが、それでもロック=イートのほうがセイ=レ・カンコーよりも腕前では遥かに上を行っている。
「申し訳ないですぜ。色々と口ではアドバイスできやすが、実践を意識した組手の相手としては不十分なのは、自分でもわかっているんですよ」
「ああ、動かない的を一方的に殴るよりかは遥かに自分のためになっているよ。でも、少し練習方法を考えたほうが良いかもしれないな」
ロック=イートの言う通り、物言わぬ木製の人形相手に技の修練をするよりかは、セイ=レ・カンコーのほうが遥かにマシと言ったところであった。だが、やはり拳聖:キョーコ=モトカードの後継者として指名されるほどの実力の持ち主であるロック=イートには彼は不十分な相手である。それでもトレーナーという存在は練習において、重要なことは変わりない。自分1人の力では、もし間違った方向に行ってしまった場合の修正が非常に難しい。
改めて思うことは、セイ=レ・カンコーとは監獄:東の果てからの付き合いだ。その前は兄弟子のコタロー=サルガミ。姉弟子のサラ=ローランが修行仲間であった。2人の存在はとてつもなく自分にとっての宝物だったことを今更ながらに思い知らされる。あの2人のうち、どちらかが今この場にいてくれていたら、どれほど心強かっただろう。しかし、居ない人物を頼ってどうするのかと、ロック=イートは左の拳で自分のコメカミを一発、ガツンと殴る。
「どうしたんですかい!? いきなり、自分の顔を殴って!?」
セイ=レ・カンコーとしては何故にロック=イートがそんなことをしだしたのかがわからない。もしかして、何か不満があり、それに対して怒りという感情が芽生えたのかと思ってしまう。だが、ロック=イートはそんなことではないときっぱりと否定する。
「俺は贅沢者だなと思っただけだよ。セイさん、東の果ての頃から、俺をサポートしてくれてありがとう」
ロック=イートはセイ=レ・カンコーに対して、詫びを入れる。自分1人なら、どこかで心が折れていたかもしれない。だが、セイ=レ・カンコーが一緒にいてくれたからこそ、ここまでどうにかやってきたのだ。そんな彼に対して、不満を持ってしまった自分が心底、恩知らずなニンゲンだということを込めて、自分のこめかみを自分の拳で殴ったのである。
「う~ん。まあ、あっしにはよくわからないですけど、思い悩むことがあったなら、気軽に打ち明けてほしいですぜ。なんせ、同じ収容所のメシを喰った仲なんですから!」
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