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第1章:ロック=イートの夢
第7話:高弟の嫉妬
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拳聖:キョーコ=モトカードにそう言われたサラ=ローランはますます顔を真っ赤に染める。彼女の頭の上にちょこんと乗っている犬耳までもが顔から噴き出る熱により、そちらも赤くなっている。それだけではない。彼女は脳内でめまぐるしく、ロック=イート相手にこれからどう接すれば良いのかと、どのような距離感で付き合いをすれば良いのかなど、思考があちこちに飛び交う。そしてついにはボンッ! という音と共に、彼女の脳みその回線はショートしてしまうのであった。
「カッカッカッ! これは答えを急がせすぎてしまったわい。いきなり夫婦になれと言われて、はいそうですかと納得できるものでもないわいな……。ロック、おぬしはサラが自分の嫁になることには異論はないのかえ?」
多大なる負荷を受けて、思考がフリーズしてしまったサラ=ローランを余所に、拳聖:キョーコ=モトカードは、次にロック=イートの意思を確認するために、彼にそう問うのであった。ロック=イートの方も顔を真っ赤にしており
「お、お、俺はサラ姐を実の姉以上に思っているってのは確かだけど……。それが恋愛感情かどうかはわからない……です。でも……」
「でも? でもとはなんじゃわい」
「あ、はい……。サラ姐を見てて、こんな感情を抱いてはいけないと自分を律している自分がいることは自覚してます……。これって、俺がサラ姐に惚れているってことなんでしょうか?」
キョーコ=モトカードはそのロック=イートの言葉を受けて、あちゃーとばかりに右の手のひらを額に当ててつつ天を仰ぐ。これは自分の施した教育が間違っていたことを示す証でもあった。キョーコ=モトカードは武一辺倒の女性だ。それゆえに、ロック=イートたちに自分が身に着けた武力を伝授してきたが、色恋沙汰においては、いっさいがっさい何も伝えはしなかったのだ。それが災いし、サラ=ローランは頭がフリーズし、ロック=イートに至っては、これは恋愛感情なのか? と間の抜けた回答をさせたのである。
(こりゃ、順序を間違えてしまったようじゃわい……。まあでも、わしゃの言葉をきっかけに、2人の間が急接近するのも間違いないじゃろうて。面白いから放っておいて、経過を楽しむのも悪くないかもしれぬのう……)
拳聖:キョーコ=モトカードはまるで他人事のようにそう考える。もちろん、サラ=ローランとロック=イートの仲が深まるかどうかは本人たち次第なのではあるが、それにしても、言いたいことを言い放ち、それであとは成り行き任せなのはどうかとも思える。しかしながら、2人の仲がこれからどうなっていくかを見守ることは、数年後には隠居を考えているキョーコ=モトカードにとって、老後? の楽しみといった感じである。
「ウキッ。これ以上、付き合っていられません。僕は先に退出させてもらいます!」
きつい口調でそう言い出したのはロック=イートの兄弟子であるコタロー=サルガミであった。彼は怒り心頭であったが、それをどうにか抑えていたのである。しかしながら、彼はキョーコ=モトカードの住処を出ていく際に、ドスンドスンッ! と怒りが滲んだ足音を立てている。キョーコ=モトカードはそんな彼の振る舞いにボリボリと右手で頭を掻くほか無かったのであった。
コタロー=サルガミは拳聖の住処から退出した後、怒りが収まらぬままに、ひとり、タイガー・ホールにある樹齢1000年の神木の前にやって来ていた。そこで、その神木の太い幹を両足で蹴り飛ばし続けたのである。
『不平不満があるならタイガー・ホールの守り主に当たれ』。これはコタロー=サルガミの師匠であるキョーコ=モトカードの言葉であった。拳聖の指導は厳しいの一言では言い表せられないほどの過酷なものであり、その指導に対して、もちろん弟子側からは不平不満は出てくる。しかし、その不満を飲み込むばかりでは、身体も精神も癒されることはない。だからこそ、父のように厳しい拳聖の真逆の存在として、母のようになんでも受け止めてくれる樹齢1000年の神木が必要だったのだ。
コタロー=サルガミは口汚く、拳聖:キョーコ=モトカードを罵りながら、神木に向かって蹴りを放つ。顔を真っ赤に染めながらも、まんざらではないサラ=ローランを非難しながら、神木を蹴り飛ばす。自分を差し置いて、拳聖の後継者として指名されたロック=イートに嫉妬心を抱きながら、神木をへし折らんとばかりに力いっぱいに蹴りを入れる。
「ウッキーーー! 憎い、憎い! 僕は全てが憎いっ!」
コタロー=サルガミは普段の温厚な自分がどこかに消え失せてしまったのではないかとばかりに、およそ30分間にも渡り、神木を蹴り続けた。しかしながら、樹齢1000年の神木は、そんな強烈な蹴りを入れ続けられても、まったくびくともしない。
コタロー=サルガミは段々馬鹿らしくなってきていた。道着のズボンが両足のスネから甲にかけて白から真っ赤に染まっていた。コタロー=サルガミの足の皮膚が破れ、そこから血が流れ出ていたのだ。
「ウキキッ……。僕はいったい何をしているんだ……」
両足にズキンズキンと痛みが広がるのを感じるのと同時に、コタロー=サルガミは冷静になってきていた。自分が拳聖の後継者に選ばれなかったのは、それなりに理由があるのだろうと思うようになってきていた。そもそも、母なる神木に当たり散らすような狭量な自分に呆れを感じていた。
「ウキッ。ウキキッ……。僕みたいな卑屈で矮小なニンゲンが拳聖の後継者になれるわけがないんだ。僕が悪いんだ」
「そんなことないピョン。拳聖:キョーコ=モトカードは最後まで、キミとロック=イートのどちらを後継者にしようか悩んでいたんだピョン」
「ウキキッッッ!?」
突然、どこからともなく若い女性の声が聞こえてきて、コタロー=サルガミは思わず動揺する。しかも、拳聖:キョーコ=モトカードが自分とロック=イート、どちらを自分の後継者にしようかと悩んでいたことを告げられて、嬉しさが沸き上がってくると同時に、自分の腹底から、発散したはずの『恨み』という感情が噴き出してくる。
「どういうことだウキーーー! それが嘘ならば、お前をとっちめてやるぞ!!」
「まったく……。『表』の連中は、すーぐ感情を表に出しちゃうピョン。でも、ミーナちゃんが言ったことは本当だピョン。キョーコ=モトカードは本当に悩みに悩んでいたんだピョン。それこそ、『裏』であるミーナちゃんたちに相談しに来たくらいだピョン。ねえ、マスター」
「そうだ……。キョーコ=モトカードは間違った選択をした。だからこそ、それを是正しなければならないんだぜ。拳聖の真の一番弟子であるコタロー=サルガミ様よ。『裏』と力を合わせる気は無いか?」
「カッカッカッ! これは答えを急がせすぎてしまったわい。いきなり夫婦になれと言われて、はいそうですかと納得できるものでもないわいな……。ロック、おぬしはサラが自分の嫁になることには異論はないのかえ?」
多大なる負荷を受けて、思考がフリーズしてしまったサラ=ローランを余所に、拳聖:キョーコ=モトカードは、次にロック=イートの意思を確認するために、彼にそう問うのであった。ロック=イートの方も顔を真っ赤にしており
「お、お、俺はサラ姐を実の姉以上に思っているってのは確かだけど……。それが恋愛感情かどうかはわからない……です。でも……」
「でも? でもとはなんじゃわい」
「あ、はい……。サラ姐を見てて、こんな感情を抱いてはいけないと自分を律している自分がいることは自覚してます……。これって、俺がサラ姐に惚れているってことなんでしょうか?」
キョーコ=モトカードはそのロック=イートの言葉を受けて、あちゃーとばかりに右の手のひらを額に当ててつつ天を仰ぐ。これは自分の施した教育が間違っていたことを示す証でもあった。キョーコ=モトカードは武一辺倒の女性だ。それゆえに、ロック=イートたちに自分が身に着けた武力を伝授してきたが、色恋沙汰においては、いっさいがっさい何も伝えはしなかったのだ。それが災いし、サラ=ローランは頭がフリーズし、ロック=イートに至っては、これは恋愛感情なのか? と間の抜けた回答をさせたのである。
(こりゃ、順序を間違えてしまったようじゃわい……。まあでも、わしゃの言葉をきっかけに、2人の間が急接近するのも間違いないじゃろうて。面白いから放っておいて、経過を楽しむのも悪くないかもしれぬのう……)
拳聖:キョーコ=モトカードはまるで他人事のようにそう考える。もちろん、サラ=ローランとロック=イートの仲が深まるかどうかは本人たち次第なのではあるが、それにしても、言いたいことを言い放ち、それであとは成り行き任せなのはどうかとも思える。しかしながら、2人の仲がこれからどうなっていくかを見守ることは、数年後には隠居を考えているキョーコ=モトカードにとって、老後? の楽しみといった感じである。
「ウキッ。これ以上、付き合っていられません。僕は先に退出させてもらいます!」
きつい口調でそう言い出したのはロック=イートの兄弟子であるコタロー=サルガミであった。彼は怒り心頭であったが、それをどうにか抑えていたのである。しかしながら、彼はキョーコ=モトカードの住処を出ていく際に、ドスンドスンッ! と怒りが滲んだ足音を立てている。キョーコ=モトカードはそんな彼の振る舞いにボリボリと右手で頭を掻くほか無かったのであった。
コタロー=サルガミは拳聖の住処から退出した後、怒りが収まらぬままに、ひとり、タイガー・ホールにある樹齢1000年の神木の前にやって来ていた。そこで、その神木の太い幹を両足で蹴り飛ばし続けたのである。
『不平不満があるならタイガー・ホールの守り主に当たれ』。これはコタロー=サルガミの師匠であるキョーコ=モトカードの言葉であった。拳聖の指導は厳しいの一言では言い表せられないほどの過酷なものであり、その指導に対して、もちろん弟子側からは不平不満は出てくる。しかし、その不満を飲み込むばかりでは、身体も精神も癒されることはない。だからこそ、父のように厳しい拳聖の真逆の存在として、母のようになんでも受け止めてくれる樹齢1000年の神木が必要だったのだ。
コタロー=サルガミは口汚く、拳聖:キョーコ=モトカードを罵りながら、神木に向かって蹴りを放つ。顔を真っ赤に染めながらも、まんざらではないサラ=ローランを非難しながら、神木を蹴り飛ばす。自分を差し置いて、拳聖の後継者として指名されたロック=イートに嫉妬心を抱きながら、神木をへし折らんとばかりに力いっぱいに蹴りを入れる。
「ウッキーーー! 憎い、憎い! 僕は全てが憎いっ!」
コタロー=サルガミは普段の温厚な自分がどこかに消え失せてしまったのではないかとばかりに、およそ30分間にも渡り、神木を蹴り続けた。しかしながら、樹齢1000年の神木は、そんな強烈な蹴りを入れ続けられても、まったくびくともしない。
コタロー=サルガミは段々馬鹿らしくなってきていた。道着のズボンが両足のスネから甲にかけて白から真っ赤に染まっていた。コタロー=サルガミの足の皮膚が破れ、そこから血が流れ出ていたのだ。
「ウキキッ……。僕はいったい何をしているんだ……」
両足にズキンズキンと痛みが広がるのを感じるのと同時に、コタロー=サルガミは冷静になってきていた。自分が拳聖の後継者に選ばれなかったのは、それなりに理由があるのだろうと思うようになってきていた。そもそも、母なる神木に当たり散らすような狭量な自分に呆れを感じていた。
「ウキッ。ウキキッ……。僕みたいな卑屈で矮小なニンゲンが拳聖の後継者になれるわけがないんだ。僕が悪いんだ」
「そんなことないピョン。拳聖:キョーコ=モトカードは最後まで、キミとロック=イートのどちらを後継者にしようか悩んでいたんだピョン」
「ウキキッッッ!?」
突然、どこからともなく若い女性の声が聞こえてきて、コタロー=サルガミは思わず動揺する。しかも、拳聖:キョーコ=モトカードが自分とロック=イート、どちらを自分の後継者にしようかと悩んでいたことを告げられて、嬉しさが沸き上がってくると同時に、自分の腹底から、発散したはずの『恨み』という感情が噴き出してくる。
「どういうことだウキーーー! それが嘘ならば、お前をとっちめてやるぞ!!」
「まったく……。『表』の連中は、すーぐ感情を表に出しちゃうピョン。でも、ミーナちゃんが言ったことは本当だピョン。キョーコ=モトカードは本当に悩みに悩んでいたんだピョン。それこそ、『裏』であるミーナちゃんたちに相談しに来たくらいだピョン。ねえ、マスター」
「そうだ……。キョーコ=モトカードは間違った選択をした。だからこそ、それを是正しなければならないんだぜ。拳聖の真の一番弟子であるコタロー=サルガミ様よ。『裏』と力を合わせる気は無いか?」
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