拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第1章:ロック=イートの夢

第1話:燃えるウッドランド

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――大王歴1187年2月14日 フランク副王国 ウッドランドと呼ばれた土地にて――

「父さん、母さん!!」

「ロック! お前だけでも逃げるんだっ!」

「ロック! 逃げなさいっ! あなただけでも助かってほしい……」

 10歳前後の半狼半人ハーフ・ダ・ウルフの少年が、がれきの下敷きとなった両親を救うべく、泣きそうな顔でそのがれきをどかそうとしていた。フランク副王国の一地方であるウッドランドは突然、どこかから現れた魔物モンスターたちにより襲撃されることとなる。あまりにも突然の魔物モンスターたちの侵攻により、ウッドランド地方に存在する村落では逃げ遅れる人々が多数発生した。

 そして、その魔物モンスターたちの獰猛な力で、ロックと両親に呼ばれた少年が住む家の屋根が崩れ落ちる。それがロックの逃げ遅れた両親へ過大な重しとなり、さらに運が悪いことにそのがれきの山には猛火が押し寄せてきていた。

 ロックと呼ばれた少年の両親は自分たちはここまでと悟っていた。だからこそ、自分たちの愛と努力の結晶でもある息子だけでも生き延びてほしいと願った。だが、その願いも虚しく、大量の涙をその黒金剛石ブラック・ダイヤのような輝きを持つ眼から零す少年には伝わらない。

 父親たちが逃げろと散々に言い聞かせても、少年は泣きじゃくりながら、がれきに手をかけて、必死にそれをどかそうとする。

「ひぐっ、ひぐっ! 嫌だよ、ぼく、父さんと母さんをこのまま見殺しになんかできないよっ!」

「よく聞けっ! お前は誇り高きイート家のひとり息子なんだっ! そして、私たちはお前もいっしょに死んでほしいとは思っていないっ!」

「そうよ……。父さんの言う通り。あなたは私たちの可愛い息子なのよ……。私たちは人類の希望でもあり夢でもあるあなたに生き延びてほしいの……」

 両親たちは足元に高温が迫ってきていることに気づいていた。このまま息子がここに居続ければ、自分たちが猛火に焼かれる姿を見せつけてしまうことになる。まだ10歳なのだ、自分の息子は。そんなむごたらしい姿を自分の息子に見せつけたくないのは当然であろう。

「誰か、誰か助けてよっ! 僕の父さんと母さんを救ってよっ!」

 少年は両の眼から大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、屋根を支えていた木材を力いっぱい握りしめ、持ち上げようとする。だが、いくら膂力に優れる半狼半人ハーフ・ダ・ウルフと言えども、年端もいかぬ少年なのだ。とてもではないが、彼の今現在の膂力でどうにかできる重量ではなかった。

 もし、下敷きになったのが父親でなければ、どうにか出来た可能性はあった。しかし、運命は少年の命だけを救うことを選んだかのようにも思える。少年は誰かに助けてほしいと願った。両親を救ってほしいと思った。

 しかし、現実は残酷で非情だ。彼には救いの手どころか、魔の手が差し伸べられようとしていたのである。泣きじゃくる少年に近づいてきた生物がいた。それは口からだけでなく身体からも悪臭を放ち、ふくよかというよりは醜いほどに肥え太った身体をのっしのっしと揺らしながら、少年に近づいていく。

「ブヒヒッ! 美味そうな小僧を見つけたんだブヒィッ!」

「カシラは本当に少年の肉が好きでやんすねえブヒィッ!」

 ブヒブヒッ! と荒い鼻息を鳴らしながら少年に近づいてきたのは豚ニンゲンオークと呼ばれる魔物モンスターたちであった。奴らは大の大人でも持つのに難儀しそうなほどのラージ・ウッドクラブを片手で軽々と持ち上げて、肩に寄りかけている。

 悪臭が鼻に届き、少年もまた、奴らが自分たちの方へと近づいてきていることに気づく。少年は奥歯をガタガタと震わせて、ついぞ、腰を抜かしてしまう。

「ブヒヒッ! ぼきの勇壮な身体を見て、びびって腰をぬかしちまったんだブヒッ!」

「カシラァ! 犯してから食うんすか? それとも喰いながら犯すんっすかぁ!?」

 カシラと呼ばれた豚ニンゲン長チーフ・オークが、さもうっとおしそうに、左肩によりかかってくる部下を払いのけ、怒りを込めた声で反論する。

「バカ言ってんじゃないんだブヒッ! 首をもいで、その死体を犯しながら食うに決まっているんだブヒッ!」

「タハアアッ! こりゃひでえ話だブヒッ! 坊主、運が悪かったな? うちのカシラァ、機嫌が悪いみたいだブヒッ。尻をカシラの極太肉棒でほじられるだけだったかもしれなかったのになぁ?」

 豚ニンゲン長チーフ・オークの傍らに立つ豚ニンゲンオーク数名がゲラゲラと、少年のすぐ先に訪れる不幸を笑う。魔物モンスターたちにとって、ニンゲンの命など、そこらを這いつくばる芋虫と同等とでも言いたげであった。

 豚ニンゲンオークのひとりが血で汚れた右手でよしよしと少年の頭を撫でる。少年はがくがくぶるぶると全身を振るわせて、さらには尻餅をついた状態で失禁してしまう。そんな醜態をさらしてしまった少年に対して、頭を撫でる豚ニンゲンオークは心底、意地の悪い笑顔だ。

 そして、その豚ニンゲンオークが少年の頭の上に乗せた右手に力を込めようとした瞬間であった。

「ブベエエエ!?」

 豚ニンゲンオークが少年の首をへし折ろうとうするまさにその時、悪辣な表情をしていた豚ニンゲンオークは驚きの表情に変わり、さらには天高く舞い上がることとなる。

「やれやれ……。風に乗って悪臭が漂ってきたから、こっちのほうに向かってきてみれば、豚ニンゲンオークの集団に出くわすってかい……。ほれ、坊主。怪我は無いか?」

 少年は眼の前で何が起こったのか、すぐにはわからなかった。自分の頭に右手を乗せていた豚ニンゲンオークが宙を舞い、頭から地面に激突し、血の泡を口から吹いている。そして、奴を宙に吹っ飛ばしたのは筋骨隆々の半虎半人ハーフ・ダ・タイガであった。

 その半虎半人ハーフ・ダ・タイガの声は妙齢な女性のようであった。しかし、声調は低めであり、もしかすると、男性では無いのかと思ってしまう。だが、ひとつ、確かなことがある。この男か女か判別つかぬ人物が自分の命を救ってくれたことだ。

「テメェ! ぼきの可愛い部下に何をするんだブヒィッ!」

 豚ニンゲン長チーフ・オークは自分の部下を天高く蹴り飛ばされたことに激怒していた。その蹴りに技も何もへったくれも無い。眼の前の半虎半人ハーフ・ダ・タイガが単純な膂力で自分の部下を蹴り飛ばしたのは一目瞭然であった。さもすれば、自分の膂力と匹敵するほどの力を持っているのでは? という疑念を持つことになる。

 だからこそ、豚ニンゲン長チーフ・オークは、眼の前の半虎半人ハーフ・ダ・タイガを先ず威嚇をしたのだ。得体の知れぬ人物を推し量るために。

 だが、それは何の時間稼ぎにもならなかった。半虎半人ハーフ・ダ・タイガが緋緋色金製の手甲ナックル・カバーを装着した右腕をブンッと右から左に振り回したと同時に、豚ニンゲン長チーフ・オークの左隣に立っていた部下の頭がまるでスイカが内側から弾けるかのように破裂し、その中身である脳漿のうしょう豚ニンゲン長チーフ・オークの顔面の左側へと降り注ぐことになったのだ。

「ここまで暴れ回っておいて、無事に帰れると思うんじゃないよ? わしゃが拳聖たる所以ゆえんをたっぷりとその醜い身体に叩き込んでやるわいっ!!」
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