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第2章:始祖神の使い

プロローグ

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――天正10年 6月6日 ひのもとの国:高野山――

殿との殿とのォォォ!!」

 佐久間信盛さくまのぶもりは重い病に罹り、今まさに死の床につこうとしていた。

 その布団の中で横たわる佐久間信盛さくまのぶもりの耳に届けられた一報は、彼を心底から落胆させるには十分であった。

 彼がかつて仕えた大名家のあるじが、信用していた家臣に寝首をかかれて、宿泊していた本能寺で自害したのである。

「まさか……。天下統一まであと一歩まで来てた、あの殿とのがなんで金柑きんかん頭なぞに謀反を起こされなきゃならねえんだっ!!」

 佐久間信盛さくまのぶもりは嗚咽する。もはや、満足に力が入らぬ身をよじりながら、あるじへの思いを吐露していく。

「俺が、俺がっ! 俺が代わりに死ねれば良かったのによォォォ!」

 彼はぐふっ、ぐふぅぅぅと声に成らぬ声で泣く。ただただ、彼は最後の最後まであるじと共に生き、死にたかった。

 しかし、あるじの勘気を買い、この高野山の一角に家族と共に蟄居・謹慎と相成った。それでも彼はあるじを恨むことはなかった。

 その証左として、蟄居・謹慎を言い渡された2年間、他家からの誘いを受けても、断り続けたのであった。彼のあるじはこの世にただひとりであった……。

 やがて、佐久間信盛さくまのぶもりの身体から急激に力が抜けて行く。絶望感がそうさせたのか、病がそうさせたのかは定かではない。

 ただひとつわかることは、彼はあるじを護れなかった。ただそれだけが残酷な事実であったのだった……。
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