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第19章:譲れない明日

第10話:慰霊の儀式

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「一か月近く愛しのエーリカ殿をほったからにして、さらには他の女とずっこんばっこんしまくった先生です。それでも、エーリカ殿の許しをもらえるならば、再び、エーリカ殿に先生の命と魂を預けさせてください」

「あっきれたーーー。まるで浮気男が寄りを戻してほしい。出来るなら結婚もお願いしますって言ってるみたいじゃないの。あたしはそんなにチョロい女?」

「いえいえ、滅相も無い。例えるならば、どんなに恋焦がれようが決して手に入らぬ華であるエーリカ殿にやきもちをしてほしいがための見せつけってところですね」

 クロウリーのきざったらしい弁明にクスクスと笑みを零してしまうエーリカであった。ひとしきり笑った後、エーリカはきりっとした顔つきでクロウリーの帰参を許すと告げる。クロウリーは臣下の礼として、エーリカの左手の甲にキスするのであった。

 その途端、エーリカの左手の甲にあの痣が光と共に強く浮かび上がる。エーリカの左手の甲から飛び出した光は一羽の大きな八咫烏やたがらすとなる。その八咫烏やたがらすが大空をゆっくりと舞う。するとだ。スミス村には幻想的な風景が見られるようになる。

 陽は段々と山の向こうへと消えていこうとしていた。辺りがだんだんと暗くなっていたことで、スミス村に起きていた不思議な現象は、幻想的な風景として、皆の眼に映ったのである。いくさで倒れた者たちの身体が発光していた。その身体から光の玉がシャボン玉のように浮き上がる。そのシャボン玉はエーリカの目線近くにまで昇った後、一度、そこで止まる。

「皆、ヴァルハラに向かうのね。あたしはまだまだ皆と一緒には行けないけど、いつか、あたしがそこに行った時は、あたしを快く迎え入れてね?」

 エーリカの言はしっかり聞いたとばかりに、地上から90センチュミャートルの高さで浮いていた光のシャボン玉は一斉に大空高く舞い上がる。エーリカたちはそのシャボン玉の行方を眼で追い続けた。

 光のシャボン玉は大空をゆったりと舞い続ける八咫烏やたがらすの周りに集う。八咫烏やたがらすはエーリカに向かって、コクリと頷く。そうした後、八咫烏やたがらすは皆の魂をヴァルハラに運ぶために、さらに高い場所へと向かって飛んでいくのであった。

「4人の偉大なる大魔法使いでも、このような慰霊をおこなえるのは、大神典殿だけです。まあ、大神典殿となれば、本気を出せばテクロ大陸全土の慰霊をおこなえちゃうんですが」

「そこで大神典様の名前を出さなくてもいいでしょ。そういうところがクロウリーの褒め下手なところよ」

 エーリカの手厳しいツッコミに、ごもっともという顔になるしか無かったクロウリーであった。とにもかくにも、エーリカは奇跡を起こし、その奇跡をスミス村の住人だけでなく、敵である西ケアンズ軍にも見せつけることが出来た。実際にはこれはエーリカとセツラが為した御業だと説明する気であった。

 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の代表は二人居る。物欲界のあるじ:エーリカ=スミス。精神世界のあるじ:セツラ=キュウジョウ。片方にのみ、衆目が集まらないようにしなければならない。そう思っていると、セツラがコッサンを伴い、駆け足でエーリカの下にやってきた。

「もうっ! あんなすごいことをするのであれば、事前に打ち合わせしておいてくださいっ!」

「ごっめーーーん! あたしとしても、あんな現象が起きるなんて、予想もしていなかったの。じゃあ、クロウリー。後のことはお願い。あたしはセツラお姉ちゃんと手を繋いで、一緒に皆の所に向かうね?」

「まったく……。一か月ほど留守にしていただけなのに、エーリカ殿だけでなく、セツラ殿も見違えるほどに立派になられました。戦後処理が終わったら、じっくり聞かせてもらいましょう」

「あら。あたしもクロウリーに聞きたいことがあるわ。大賢者:ヨーコ=タマモ様とはいったい、どんなプレイをしていたのかって。4人の偉大なる魔法使いってだけはあるっていう、超ド級のド変態プレイをしていたんでしょ?」

 エーリカの問いかけにゴホンゴホンエッフンエッフンとわざとらしすぎる咳払いをするクロウリーであった。エーリカとセツラはまるで無邪気な子供のように笑いあっている。そんな彼女たちに大賢者:ヨーコ=タマモとおこなった大運動会の内容を告げていいのかと悩んでしまう。

 しかしながら、クロウリーは知らなかった。エーリカがお尻の処女をタケルに捧げていることなど。そして、セツラは歪んだ感情と身体から溢れそうになってしまう暗い熱を処理するために、コッサンを利用していることもだ。

 にこやかな笑顔になっているこの集まりを観測していたコッシローはヤレヤレ……とため息を漏らす。もし、クロウリーがエーリカとセツラ、さらにはアホのタケルを交えた秘密の儀式を知ろうものなら、クロウリーは耐えきれるのだろうか? という危惧を抱いてしまう。

(まあ、クロウリーが耐えきれないなら、いつものようにボクの方に負荷を流せばいいだけでッチュウ)

 コッシローは存在感と気配を消したまま、クロウリーの肩からエーリカの頭の上へと飛び移る。エーリカはコッシローの存在に気づくことなく、セツラと手を結び、スミス村の皆に先ほどの現象は、自分とセツラの二人で慰霊をおこなったことによるものだと説明する。

 スミス村の住人たちは最初はエーリカの言っていることが信じられないと言った顔つきになっていた。だが、エーリカたちの前に進み出た大魔導士:クロウリー=ムーンライトはエーリカたちがおこなったのは確かに慰霊の儀式であると強調してみせた。それにより、エーリカとセツラを前にして、ひざまずき、手を合わせて、涙を流す者が続出したのである。

(まったく……。概ねクロウリーの計画通りではあるでッチュウけど、いささか、神格化を急ぎ過ぎている気もするでッチュウ。まあ、クロウリーがエーリカちゃんのところに戻ってきた以上、匙加減はクロウリーにお任せするでッチュウ。ボクはボクで、ここ一か月余りのクロウリー側の記憶もチェックしておくでッチュウ)

 コッシローはクロウリーがエーリカたちの側にいない間、クロウリーに代わって、エーリカたちを導いてきた。今日くらいは早めに床に入って、朝までゆっくり寝てもいいかもと思いながらも、クロウリーの記憶のチェックとバックアップを優先した。

 エーリカが指示した内容をてきぱきと精力的にこなしていくスミス村の住人であった。2千近くの兵士たちの身ぐるみを剥ぎ終わる行為は、エーリカたちの予想を遥かに越えるほどの速さで済むことになる。陽が完全に落ちる前にだ。エーリカたちは本当の意味で無力化した西ケアンズ軍を故郷に帰らせる。

 しかしながら、エーリカたちはこの軍を率いてきたグミオン=ゴーダ将軍と彼の周りを固める側近や補佐たちは釈放しなかった。ミサ=キックス将軍を陵辱した罪を彼らに償ってもらうだけでは無い。彼らには彼らなりの有用な使い道があった。グミオン=ゴーダ将軍を始めとする彼らの側近たちは、大精霊使いのヨン=ウェンリーお手製の堅い植物のつるで出来た夜風に吹き曝しになっている牢に入れられることになる。
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