上 下
185 / 197
第18章:黄金郷

第8話:一方的な通達

しおりを挟む
 コッシローの予想は大当たりしたと言っても過言では無かった。飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをしていた夜から数えて5日後に、エーリカを始め、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの幹部たちは激怒することになる。

「なん……ですって!? もう1度言ってみなさいっ!」

「エーリカ殿がわかるように何度でも説明させてもらおう。この地は元々、西ケアンズの王族の末裔が所有していた領地である。その領地に土足で踏み入ったのは、そちらの方だ。だが、それでも西ケアンズを納める我が王は寛容であらせられる」

「どこが寛容なのよっ! あんたたちはあたしたちが切り開いた土地を横から奪うつもりじゃないのっ!」

「ふんっ! 奪うとは何という言い草だっ! 盗人猛々しいとはまさにエーリカ殿のためにあるような言葉だっ!」

 エーリカたちの村にやってきた西ケアンズからの使者は、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの幹部たちと面会するや否や、いきなりこの土地の正式な所有者であることを示すための証文を広げられるだけ広げて、エーリカたちに見せつけた。

 さらには猶予は三日やるから、すぐさま、ホバート王国に帰れと言い出したのだ。西ケアンズの使者の話をタケルの左肩に乗った状態で聞いていた白ネズミのコッシローですら、開いた口が塞がらないレベルの強硬姿勢を取ってきたのである。

(ここまで舐めくさった態度を向こうが冒頭から取ってきたのは驚きでッチュウね……。念のために村の周囲警戒に当てていたアヤメとロビンの報告だと、西ケアンズの使者は軍を連れてきたわけでもないのにでッチュウ……)

 コッシローは喧々囂々けんけんごうごうと言い争いをしている西ケアンズの使者とエーリカたちを見ながら、この村が置かれている今の状況を冷静に分析する。アヤメとロビンの報告からは周囲10キュロミャートル圏内には、西ケアンズの軍は存在していないことはほぼ確定であった、

 ならば、何故、ここまで強硬すぎる態度に出れるのだろうか? と逆に警戒心が高まってしまうコッシローであった。西ケアンズからの使者がどれだけふざけたことを言っていたとしても、その使者をぶん殴るわけにはいかない。それこそ、罠なのはエーリカたちも理解していた。

 これは一種の試金石なのかもしれないと思うことにしたコッシローである。西ケアンズからの使者はその周りを10人程度の兵士でしか固めていない。ここまでの強硬な態度を取るのであれば、自分たちはこの場で斬られても仕方がないという覚悟を決めて、ここにやってきたと推測できた。

 もし、この使者をこの場で殺せば、エーリカたちは本当の意味で、ケアンズ王国だけでなく、テクロ大陸全土において、蛮族という烙印を押されることになる。それはかつて『凶王』と蔑まれた前剣王:マンチス=カーンレベルのやらかしである。マンチス=カーンは自分から進んで人望を捨て去っていた。力こそが全てだと言わしめんばかりの行動と態度を、その身ひとつで体現した男である。

 『愛など要らぬ。この世は力こそが全てだ』と豪語してしまっていたのだ、前剣王:マンチス=カーンは。だからこそ、いくら力があっても、最終的にはマンチス=カーンはアデレート王国全土を掌握することが出来なかった。

 そんな前剣王に比べれば、現剣王のほうがまだ話が通じる相手だったとことは自明の理だ。いくら大賢者と大魔導士が間に立ったと言えども、剣王軍はあの時すでに5万の大軍を有していたのだ。しかし、現剣王は前剣王とは違うところを態度で示してみせた。

(エーリカちゃんはこれから先、剣王:シノジ=ザッシュにとことん辛酸を舐めさせられそうでッチュウ。だからこそ、エーリカちゃんはこいつら相手に間違ったことをしてはいけないのでッチュウ。エーリカちゃん、わかっているでッチュウか?)

 コッシローはエーリカが腰に佩いている鞘から刀を抜き出さぬように願った。クロウリーがこの場に居れば、エーリカを御することはそんなに難しいことでは無い。だが、怒れるエーリカにその矛を納めさせるには、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの幹部たちは誰もが若すぎた。

 コッシローは、ちょいちょいと右の前足で、コッシローが乗っている肩の所有者の左頬をつっつく。その所有者はやっぱり俺の出番になるよなぁ……とため息をつくのであった。

(クロウリーが居ない今、お前以外に誰がこの一触即発の空気を正常化できると思っているのでッチュウ。お前はこういう時にこそと思って、ヨーコの相手をしなくていいようにクロウリーから外されたんでッチュウ)

 コッシローはこしょこしょとタケルの左耳にとんでもない事実を入れる。左耳から入ってきた情報のとんでもない大きさに、思わず怯んでしまうタケルであった。タケルは何で俺なんだよ……と肩をガックシと落とす。しかしながら、数秒ほど後には姿勢を正し、西ケアンズの使者とエーリカたちの間にスルッと入り込んだ。コッシローはさすがはタケルでッチュウとほくそ笑むことになる。

「あーーー。なんて言うか……。おいっ! エーリカ、その物騒なものをしまえっ! なんで俺の首に刃を添えてやがる!?」

「ん? 使者を斬るのは愚かすぎる行為。だから、代わりに俺の首を刎ねて、それで留飲を下げろってことじゃないの??」

「半分は当たってるが、半分は間違ってるっ! あとで俺の尻にキュウリでも茄子でも好きなのを突っ込め!」

「カキン。今のタケルお兄ちゃんの言葉をしっかりと記録しておいてちょうだい。んで、タケルお兄ちゃんのお尻に突っこむ予定なのはゴーヤだってのも忘れずに」

「ハッ。しっかりと記録しておきましょうぞ。タケル殿。ゴーヤは痛いですぞ? 今からしっかり心の準備をしておいてくだされ……」

 タケルはこの野郎! とカキン=シギョウを睨みつける。だが、使者とのやりとりを詳細に白い紙に書き綴っている記録係のカキン=シギョウはタケルからの睨みを無視し、自分の仕事を全うした。

 そんな茶番じみたやりとりを見せつけられた西ケアンズの使者は襟を正して、もう一度だけ、エーリカたちに勧告するのであった。

「そちらが飲むかどうかなど、この際どうでも良い。こちらは王の言葉を伝えた。そして、その返答を代表者であるエーリカ=スミス殿からもらう。この事実が自分には大事なのである」

「親切ご丁寧にありがと。でも、わざわざ、あたしたちの返答を聞かなくてもわかるわよね?」

「それは困りますな。エーリカ殿の言葉をしっかりと聞き届けねば、自分たちはガキの使い以下となりますので」

 西ケアンズの使者はさあ、返答を聞かせてくれとエーリカに迫る。エーリカたちは、この使者がエーリカによって斬られたがっていることに気づくことになる。そのエーリカたちの言葉を代弁すべく、タケルが発言する。

「なるほどな。それほどの覚悟を持って、この場に臨んだわけか。じゃあ、それ相応の態度をこちらが示さなきゃならんわけだなっ。あんたも国のためとはいえ、大変な役目を担ったんだな」

「敵対する予定である者たちに同情されるつもりはございませぬ。さあ、われを斬るがよい……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...