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第17章:ヨン=ウェンリー

第7話:人生の師

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 豊穣な土を肌と舌で堪能したエーリカたちは可愛いお尻を半分ほど土に埋もれさせながら、大精霊使いのヨン=ウェンリーの話を聞くことになる。ヨンはやはり4人の偉大なる魔法使いのひとりであるんだなと、エーリカたちに知らしめることになる。

「ここは100年に一度は大洪水が起きる土地なんや。でも、わいほどの呪力ちからをもってしても、1000年に一度の大洪水には抗えなかったんや。んで、水がかなり引いてくれるのを自然に待っていたわけやな」

「なるほどね。そういう意味でも、あたしたちは運が良かったってことね」

「そういうことや。早過ぎたら、早過ぎたで、ここまで良い感じには仕上げられん。んで、遅すぎれば、わいはケアンズ王国から疑いの目を向けられる。せっかくいい塩梅になってきたと愛しのクロウリーくんには伝えてあったんやけどなぁ?」

 ヨンの皮肉が込められた説明にエーリカたちは苦笑してしまう。ヨンはクロウリーと同じように人生の師であるかのように振る舞い、親切丁寧に我が子を導くかのように話をしてくれる。エーリカたちが最初にヨンに抱いたうさん臭さは今や、心のどこにも存在していなかった。

 むしろ、感謝の念しか無かった、ヨンに対しては。それが言葉に現れているのか、エーリカはクロウリーは呼び捨てなのに、ヨンには『様』を自然とつけてしまうのであった。

「ヨン様。それでは、ここはとっくの昔に南ケアンズ王族領とはみなされてはいないんですね?」

「せやせや。1000年に一度の大洪水が起きた時に、住人、家屋、畑、家畜、さらにはこの土地を治めていた領主くんも流されていってしもうたからな。そして、ひとが住むには辛すぎる環境となってもうたんや」

 エーリカが念には念を入れて、ヨンから言質げんちを取ろうとした。それもそうだろう。この地が空白地であるかは血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団並びに流民たちにとって、大切なことであったからだ。どこの国にも所属していないことはエーリカたちにとって、大いなる希望であったのだ。

 だが、エーリカに念入りに聞かれれば、聞かれるほど、ヨンは寂しげな顔になってしまう。ヨンはケアンズ王国の保護者であった。そして、父親的立場でもある。ヨンは自分の呪力ちからの足りなさにより、可愛い息子たちを1000年に1度の大洪水で亡くしている。だが、そんな哀しげな表情であるヨンを追い詰めざるをえないエーリカたちであった。

「この土地をエーリカちゃん好みにしてほしいんや。それがわいが出来るあの子たちの弔いにもなると、わいは勝手にそう思うとる。エーリカちゃん、頼んだんやで?」

「頼まれついでなんですけど、あたしたちは取るもの取らずどころか、ほぼ全部を捨てて、この土地にやってきました。出来るなら、ここに集落を作るための資材がほしいんです」

 エーリカたちは盗人猛々しいと思われようが、要求を止めなかった。口々にヨンに用意してほしいものを言いまくっていく。ヨンは苦笑せざるをえなかった。いくらエーリカ本人が欲望の聖痕スティグマ持ちだということを考慮してもだ。このままでは尻の毛もむしられてしまうんやでと思わざるをえなくなる。

 ヨンはヒトを遣わして、この地にあらかじめ、集落を作るための資材を運ばせていた。その者たちは誰もがヨンの信奉者であった。ヨン様がケアンズ王国に仇為す行為をしていることはわかっていた。だが、ケアンズ王国よりもヨン様の存在こそが大事だと思っているヒトたちであった。

 エーリカたちはヨンの案内を受けて、その資材置き場へと向かう。湿地帯にとりあえず作ったというだけはあり、その資材置き場にある小屋は湿気でボロボロになっていた。だが、その小屋の外面はともかくとして、その小屋の中はしっかりと湿気対策が施されており、資材が痛んで使い物にならなくなっていたという事態にはなっていなかった。

くわに鋤(すき)。それに作物の種。んで、家屋を建築するための石や木材。足りなかったら、ここから見えるあの場所で伐採なり採石すればいいわけ。ほんと、さすがは4人の偉大なる魔法使いって感じ」

「チュッチュッチュ。ヨンはいつでもいかなる時でも、隙あらば、クロウリーの尻を掘ってやろうと思っている奴でッチュウ。この恩はクロウリーのお尻で帰さなければならないでッチュウ」

「大賢者様に子宝種を散々に絞り取られた次には尻の穴を蹂躙されるってか……。俺は大魔導士じゃなくて、本当に良かったと思えるわ」

「エーリカちゃんをほっぽらかしているクロウリーが悪いのでッチュウ。その点、タケルは十分にエーリカのお兄ちゃんをやっているんでッチュウ」

「ん? いつものコッシローらしくないわね? クロウリーがいないからって、タケルお兄ちゃんをディスるのをやめなくていいのよ?」

「チュッチュッチュ。鬼の眼にも涙だと思っておけでッチュウ。困り果てているエーリカちゃんをさらに地獄の底に突き落とすほど、ボクは邪悪な存在じゃないのでッチュウ」

「うん、ありがと。コッシロー。作物が育ったら、いの一番にコッシローに捧げるね?」

 エーリカはコッシローのなけなしの温かさが心地よかった。コッシローはその身体のサイズよりも遥かに情というものを持ち合わせていない。そうだというのに、その身体のサイズの30倍はあろうかという嫌みを惜しみなく、口から吐き飛ばしてくる。

 だが、そんなコッシローであったとしても、クロウリーが捕縛されてから、続きに続いていた逃走劇において、コッシローはことあるごとに血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団員たちを励まし続けていた。口が悪いことは変わりなかったが、それでもエーリカたちを導き続けたのである。

「鍋と鉄板かあ。コッシロー、カエルの肉はどっちで調理したほうがいいと思う?」

「夏なんだから、バーベキュー感覚でカエルの焼肉を楽しむのが良さそうでッチュウね。でも、タレとかはどうするでッチュウ? エーリカちゃんのおしっこでも鍋で煮詰めて、タレ代わりにするでッチュウ?」

「コッシロー……。それで喜ぶバカがどこにいるの??」

 エーリカがコッシローに呆れ顔でそう言うのであった。だが、そんな侮蔑な視線を受けたコッシローは被害者を増やすべく、とある男にとぼけた顔で視線を送る。エーリカがコッシローの視線を辿ると、そこにはとある男の顔が映ったのである。しかもその男は頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

「あのね……。いくらド変態のタケルお兄ちゃんでも、あたしの煮詰めたおしっこをタレ代わりに焼肉を食べるわけがないじゃないの」

「あ、あれ!? なんでそんな話になるんだ!? もしかしてだけど、めちゃくちゃ喉が渇いてる時に、いっそ、エーリカの小便でも飲まざるをえないかーって思ってたのがバレてたのか!? そこが今に繋がっているわけか!?」

 コッシローはエーリカの頭の上で腹を抱えて大爆笑していた。そんなコッシローとは対照的に、エーリカは顔を真っ赤にしている。怒りにわなわなと身体を震わせるエーリカであった。そして、その怒りはコッシローではなく、タケルお兄ちゃんの右頬にぶっ放されることになる……。
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